槍術スキル
「ジュン、ご飯出来たよ。マリア先生が呼んで来いって。」
「あーうん。ありがとう。」
「えっと、ジュン、今日はありがとうね。」
そう言って、食事に呼びに来たリリアが、走って先に部屋を出て行った。
ありがとうって何だ?って思ったけど、
女に関わると碌なことはないから、考えないようにした。
ともかく、今はご飯だ。
そう言えば、俺、コンビニに弁当買いに行ったんだった。
あー腹減ってたな。
呼ばれて食堂に入るとそこには、大皿に盛られたステーキ肉が置いてあった。
自分で好きなだけ取って食べるんだろう。
俺が入った時に、全員の視線が俺に注がれた。
その目は、早く、早くと催促している感じだ。
「さて、今日のお肉は、リリアとジュン・・・が持ってきてくれたのよ。まずは2人が先に好きなだけ取りなさい。」
「リリアは次でいいわ。この肉を持ってこれたのは、ほとんどジュンのお陰だし。」
なんとなく俺が先に取らないとダメそうだ。
好きなだけと言われて、本当に好きなだけ取れるほど強心臓じゃない。
大体、大皿にある分とここにいる人数を考えて控えめに取った。
「それだけでいいの?たくさんとっていいのよ。」
「あーこれだけで大丈夫です。」
そう言うと、次にリリアが2枚とって、その後はあっという間に皆でとりあって、大皿の分はなくなった。マリア先生もちゃんと一枚キープしたようだ。
そのあと、興味津々の子供たちの質問タイムとはならずに、俺の記憶が早く戻るといいねとか逆に慰められた。子供に慰められるとか、ありえん。
後片付けしてる時に、一番小さい子が転んでひざを擦りむいた。
「あらあら、慌てるからよ。ミミちょっと見せてね。」
「ヒール」
マリアさんが呪文を唱えると、擦りむいた膝の傷が徐々に塞がって行く。
「凄い。」
俺が思わず声を出したら、
「何?ジュンは回復魔法見るの初めてなの?マリア先生は、回復魔法スキルを持ってるのよ。それで近くの人を治療して、孤児院のお金を作ってるのよ。」
「でも、先生、貧乏人ばっかり治療するから、お金貰えないじゃん。まあ俺達が頑張って稼いでるけどな。」
「そうね、ロンのお陰で助かってるわ、ありがとうね。」
博愛精神の人っているもんなんだなぁ。
マリアさん、マジ天使だ。
「ジュンもどこか怪我をしてるの?私の回復魔法は初級だから、大きな怪我は治せないけど、どこか痛いところがあるなら見せてみて。」
「あーいいえ。単純に、回復魔法をまじかで見たの初めてだったので。」
「あらそう。ポーションで直してたのかしらね。ポーションの方が高いけど、大店の人や、貴族の人だと、簡単な治癒には使ってるから。」
「どうなんでしょう。その記憶もないです。」
「記憶はゆっくり戻すことを考えたらいいわ。それまではここを自分の家だと思って過ごしてね。」
「えっと、俺にも何かお手伝いできることがあれば。」
「あらあら、優しい子ね、ジュンは。でもここでは特に男の子の手が必要なことはないのよ。」
「ジュンも冒険者登録したらいいんじゃない?」
「そうだよな、記憶がなくても薬草採集とかなら出来るだろう?」
「うーん、多分可能だと思う。」
「じゃあ決まり。明日の朝、冒険者ギルドに行く時に登録しよう。」
「あっ、でも登録料はどうするんだ?」
「あっ、そうだった。」
「そいつは、俺が出そう。」
突然後ろから大きな声がして、振り返ったらドルガーさんだった。
「先ほどはありがとうございました。」
「おう、大丈夫だったか?そう言えば、あのホーンラビット、リリアに譲ったんだってな。」
「ギルドで話をしたら、そのように処理されました。」
「そうか。シャルルと交渉して、ギルドからボアーの肉をたっぷりせしめたんだってな。」
「一部誤解があるようですが、せしめたと言うか、現在の価値に見合った量と物々交換して頂いただけです。」
「なるほどな。シャルルが気にする筈だ。なかなか頭の回る子供の様だな。まあそれも冒険者になるなら必要な能力だしな。ジュンだったか、君が冒険者になりたいなら、俺が紹介してやるぞ。」
「冒険者を続けるかどうかは解りませんが、当面お金を稼ぐ必要もあるようですし、お手数をおかけしますがよろしくお願いします。」
「そう言えば、ドルガーさんも冒険者なんですよね?武器はその槍を使うんですか?」
「おお?そうだ。俺はB級冒険者だな。まあB級ぐらいになれば冒険者としても一人前だ。普通はそこまで上がるのに20年ぐらいかかるが、俺の場合は王宮の騎士団にいたんでな。ちょいとばかりこいつの腕が他よりもたつんだ。」
「槍術とかのスキルですか?」
「そうだ。俺の場合武器を見れば解るからな。でも他人のスキルについては詮索は御法度だからな。中にはそれだけで喧嘩になることもある。喧嘩で済めばいいが、中には決闘騒ぎになることもあるからな。人のステイタスについては、あんまり興味を持たないことだ。まあ俺も君のスキルをあれこれ詮索してしまったからな、偉そうなことは言えないがな。」
「スキルと言っても、同じ槍術を持っていても、大きく違いがありますよね?」
「そりゃそうだ。スキルを習得できても、そっからスキルを極めるためにさらに習練しなければ、本当の意味でスキルを使うことはできん。俺でも日々槍術を極めるために習練している。」
「一度、槍術と言うものを見せて頂けないですか?」
「君は・・・いや。解った。まあ、リリア達の習練に来たんだからな。一緒に教えてやろう。」
そう言うと、孤児院の中庭に、子供達を集めて、木剣とも呼べない感じの木の剣を使って、素振りや、体捌きなどの基礎練習を教えてくれた。
子供の種族に合わせてなのか、好きにさせてるのかは解らないけど、ナイフみたいに短い剣を持っている子と、片手剣みたいなものをもっている子、穂先とかはついてないけど、折れた槍の棒みたいなものを持っている子等がいた。
それぞれの子に対して、ドルガーさんは、別々の指導をして行く。リリア含めて7人だけど、大変だなこれは。
「どうだ、一通り指導するのを見て、ジュンが使いたいものがあったか?」
ドルガーさんにも呼び捨てにして貰う様にお願いしたら、早速呼び捨てにされた。名前を略て呼んだり、いろいろ話を進めるし、これがこの人の地なのかもしれないな。
「えっと、そうですね。槍がいいかもしれません。」
「まあそうだな。身体がしっかりしてるようだし、槍術か盾術がいいかもしれんな。これしかないが振れるか?」
そうして渡されたのは、ドルガーさんがアイテムボックスから出してくれた鉄の槍だ。
使いこまれてる感じだし、ドルガーさんが使ってるものなんだろう。
渡された槍は最初持った時は、少し重く感じたけど、意識して持つと、軽くなった感じだ。
そのまま、さっきドルガーさんが指導していたように、槍を振ってみた。
「こいつは驚いたな。その身体で鉄の槍を自在に操るか。才能があるかもしれんな。」
その後、槍を使った、素振りや基本的な型等を教えて貰った。
ドルガーさんの教え方が上手く、なんでそのような動きをするのかを、指導の端々に教えてくれるので、素振りの一振り一振りが有意義なものになったと思う。
「初めて槍を振ってここまで出来るとは、本当に凄いものだ。このまま習練すれば、10年後ぐらいには、槍術のスキルを得られるかもしれん。その鉄槍は、俺が昔使っていたものだが、ジュンにやろう。手入れはしっかりやっておるから、今でも十分に使える。」
「武器って、高いんですよね?そんなもの頂けないですよ。」
「まあ、師匠の真似事みたいなものだ。本当は、弟子がスキルを習得した時に何かを渡すのが普通なんだけどな、ジュンが冒険者になる祝いも兼ねてだな。」
「えっと、ありがとうございます。では、ありがたく頂戴します。」
「まあ、槍将にもなってない俺が弟子とかおこがましいがな。」
槍術は、槍将、槍聖、槍神とスキルがレベルアップするらしい。
槍神は伝説で現存しない。
槍聖は、各国(この大陸には7つの王国がある)に1人か2人しかいない、正に槍の天才。
槍将も各国に10名もいないぐらい高位のスキルで、ほとんどは王国の騎士か、貴族となって各王国に領地を持っているみたいだ。普通はこのレベルのスキル持ちが、弟子をとるらしい。
ちなみに、武術系では、槍以外に、剣、体術、弓、斧が同じように将、聖、神の上位スキルがあるらしく、それぞれのスキルホルダーも若干のばらつきはあるものの同じ感じで大陸中にいるらしい。
また、生産系では、鍛冶と調合に同じように上位スキルがあり、それぞれ、匠、聖、神となる。こちらも弟子を取るのは、匠鍛冶や、匠調合などの上位スキルを持った者だけらしい。
ドルガーさんが帰った後、リリアを含めて、他の子供達は部屋に戻ったけど、俺は槍を振り続けた。
普通は腕が疲れるんだろうけど、俺の場合全然付けれた感じがなかったし、実はドルガーさんに教えて貰ってる時に、すでに「槍術」スキルを獲得していた。
流石に後10年掛ると言ってたドルガーさんに本当のことを言う訳にもいかず黙っていたけどね。
ともかく、スキルも獲得して、さらに槍の振りが鋭くなって、面白くて振り続けてるのだ。