剣聖スキル
「えっと、ここから東に折れていただけますか?街道を離れますけど、そっちから行った方が早いでしょうし。」
俺は周囲の地形を見ながら、索敵を最大限まで引き延ばす。
ぼんやりと感じるぐらいなら現在1㎞周囲まで感じる事か出来る。
こうして一方向に集中して索敵すると多分、倍の2㎞ほどは探知可能だ。
うまく隠れてはいるけど、監視者の間隔が狭まってるから方向は間違ってないと思う。
30分ほど走った地点で、ついに森につきあたった。
予想通り小さな川が流れてるし野営するにはいい場所だろう。
「では、この位置で野営の準備をさせましょう。まずはみんなでコロニーの偵察に言って、その場で如何する決めましょう。」
残り3人は、さっきの脅しが効きすぎてるのか完全に戦意喪失だ。
討伐前にモチベーションを上げる手立てを考えなきゃいけないな。
とにかく、このパーティーで攻略するしか合格する手立てはないんだし。
馬車を止めて。リリアナに野営の準備を始めるように指示した。
先頭を走っていた次席の馬車はいつの間にか最後尾からついてきてたようだ。
まあそっちは問題ないだろう。
次席自身のLVもそこそこあるし、護衛なのか御者の男もかなり高LVみたいだしね。
「では、ライムライトさん先導をお願いします。注意するのは監視者の気配です。」
「おお、一応聞くが、お前さん、なんでこの場所に野営をすることに決めたんだ?この場所を知ってたのか?」
突然、ジブリードさんが聞いてくる。
「先ほど言ったように、俺はこの国に来たばかりです。勿論この場所は初めてです。こちらに回ったのは、風下側から進みたかったことと、森を見た感じ、東の方だとするとこの先の森と山の境目辺りしか大集落を形成できそうな場所はないだろうと考えたからです。ゴブリンは馬鹿ですが、上位個体はそこそこ知恵があります。そいつらがコロニーを作るとすると当然コロニーを形成しやすい洞窟と湧水がある場所を選びます。この川の上流付近、恐らくここから1㎞ほど入った辺りでしょうから、この辺りから森に入るのが一番安全かと思ったのですが、拙かったですか?」
「いいや。聞いてみただけだ。」
「そう言う訳で、進む方向はあちらの山の方角です。ライムライトさんなら、森に入ったら間もなく正確な位置が把握できるかと思います。よろしくお願いします。」
「あいよ。まあ、ジュンみたいな子が頑張ってるんじゃね、仕方ない。あたいも頑張るよ。」
「周囲の警戒は、マルマリさんよろしくお願いします。殿を受け持って頂けるとありがたいです。ドルマンさんには道の確保をお願いします。撤退の場合迷わないように、退路を確保しておきたいのでよろしくお願いします。」
「「任せとけ。」」
「では行きましょう。リリアナこっちの方はよろしく。早ければ2時間ほどで戻ってくる。3時間以上かかったら異常事態が発生したと考えてくれ。」
「承知しました、ジュン様。」
森に入って間もなく、ライムライトさんにも認識できたようだ。
俺は森の入る前から感じてたし、ここまでくると相手の状況まである程度分かる。
馬鹿なゴブリンだけど、割と統制されている。
一応、見張りのまねごとすらやらせてる。
数は100体を優に超えてるな。
最悪の状況かもしれない。
視認できる位置まで進んで、全員でコロニーを観察する。
視認して全員、顔が蒼くなった。
ジブリードさんをチラ見すると、ジブリードさんも険しい顔つきになった。
一旦、下がって相談をする。
「最悪の状況だと思います。しかし、地形はかなり有利です。山の中腹の洞窟にコロニーを作っているので逃げられる心配はないと思います。洞窟の中に別の通路があれば別ですが、あのコロニーの作り方だと、前方の細い道だけ警戒しているように思います。ゴブリンの幼体や女性体は洞窟の入り口周囲に群がっているし、洞窟の中に別の通路があってそこからの襲撃を警戒しているようには思えません。数は多いですが、結局、洞窟に通じるあの細い通路で戦えば、一度に相手にする数はたかが知れています。俺とドルマンさんが先頭に立ってコツコツ屠っていけば一気に数は減らせるでしょう。」
「確かに雑魚だけなら100体いようが問題ない。ただ途中でゴブリンナイトやゴブリンメイジが出てくるぞ。どうするんじゃ。」
「問題ないと思います。結局あの道幅に立てるのは精々2体まで。残りは後ろからですが、丁度あの道の起伏が高くなっている場所。あそこで戦えば、後ろからメイジも魔法を撃てないでしょう。撃てたとしても散発的なものです。むしろ後ろから奴らの数を減らしてくれると思いますよ。」
「どうしてもダメなら撤退するぞ。それでいいよな。」
「ええ。前衛にいる俺が傷を負うような場面があれば、即撤退してください。後は、ジブリードさんに任せましょう。」
そう言うと、ジブリードさんは嫌な顔をする。
まあA級とはいえ、恐らくゴブリンキングかそれに近い上位種がいるコロニーをソロで討伐するには気が重いだろうな。
まあ俺としてはそんなことにはならないと考えてる。
秘策があるしね。
ともかく、形としては全員で一丸となって討伐したように持っていかないとね。
いよいよ腹が決まって、目的の地点まで進んでいく。
俺は全員にこっそり隠蔽の魔法をかけておいた。
なのでそうそう見つかることはないんだけど、緊張感を持たせるために皆には黙っておいた。
「では、打ち合わせ通り、俺とドルマンさんが先行します。ドルマンさんの体格なら、俺と並べば後ろに流れることはないでしょうから問題ないでしょう。後ろのお二人は、道の一番頂上付近から後方からの攻撃をお願いします。マルマリさんは、棒手裏剣はどのくらい持ってますか?」
「20本ある。鉄製の奴なら50本持ってるから手持ちは心配いらない。」
「では、最初は鉄製の分でお願いします。鋼鉄製の分は上位種と戦う時に必要でしょうから。」
「おう、わかった。」
「あたいも吹き矢でいいんだね。」
「お願いします。可能なら上位種、特にメイジ辺りが出てくるようなら狙ってみてください。」
「了解したよ、任せときな。」
「では、ドルマンさん行きましょう。定位置に着いたら、俺が大きな音を立てて、見張りの奴らを誘き寄せますので、十分に引き付けてから攻撃してください。では行きましょう。」
問題なく配置に着いた後、俺は盗賊から奪っていた槍を遠投する。
50mはあったけど見事に命中。
隣の奴は一瞬驚いたけど、その後、グギャグギャいいながらこっちに近づいてくる。
その後ろからも、三々五々グギャグギャ言いながら寄ってくる。
上から眺めているので、ゴブリンの群れが寄ってくるのがよく見える。
隣や後ろを見ると若干引きつった顔をしてる。
最初の奴が到達。
サクッと串刺しにして、俺たちの前に横倒しに置く。
続いてきた奴も串刺しにして、その上に重ねる。
そんなことを数回繰り返すと、あっという間に、丈夫な防壁が完成した。
後は、この防壁を厚くしながら先に進むだけだ。
ドルマンさんもこのことに気づいたようだ。
相手の攻撃は届かないけど、武器を持った俺たちの攻撃は確実に届く。
俺がゴブリンの死体で作った防壁の上に乗って、上から串刺しにしてるし、ドルマンさんも同じように防壁を利用して先に進む。
時々現れるゴブリンナイトやゴブリンメイジも、前衛2人と同じようにゴブリン防壁の上に出てきて確実に仕留めていく。
まあC級レベルまでなっている人たちだし、精神的に余裕があればゴブリン程度相手ではない。
要は数の暴力に怯えてただけだしね。
20分も経つと完全に殲滅できた感じだ。
俺たち4人とジブリードさんは、細い道を進んで洞窟の前に進む。
幼体がいたと思ったけど、すでにさっきの戦闘の中につぎ込まれてたのか。
現在、目の前にいるのは、ゴブリンロードと、ゴブリンメイジ、後、2体のゴブリンナイトだ。
ここは面倒なので、先に詠唱しようとしていたゴブリンメイジを槍を投げて串刺しにした。
「まずは、ゴブリンナイトに集中してください。俺がロードを止めておきます。」
そう言って、走り出し先にゴブリンナイトの首を刎ねる。
そのままゴブリンロードの前に立つ。
後ろの3人もゴブリンナイトに対峙したようだ。
これで安心かな。
ここで手抜きしても何なので、格闘術を駆使して、ゴブリンロードの後ろに回り込んで、槍の柄で首の骨を折って絶命させた。
3人の方も、うまくゴブリンナイトを追い詰めているようだ。
鑑定すると、後2撃ぐらいでHPが0になる感じ。
一応、洞窟の中を索敵する。
反応なし。
今回は捕えられている人もいないようだ、よかった。
それよりも周囲のギャラリーの目がウザい。
今日までじっと監視してたから、飽きたんだろうけど、のんびり観戦とかしてていいのかな。
まあ脅威はないから問題ないだろうけどね。
そんなことをやってたら3人の戦いも終わったようだ。
マルマリさん何発投げたんだよって感じだけどね。
ライムライトさんは、それなりにナイフ使えるみたいなのにね。
そのまま修練したら、種族属性などもあってかなり上達すると思うけどなぁ。
「お疲れさまでした。ライムライトさん。洞窟内、周辺の探索お願いします。マルマリさん、ドルマンさん。俺たちは先に討伐部位の回収をやってしまいましょう。」
「おお。おお、終わったのう。」
「よっしゃ、じゃあ俺は、さっきの通路で俺が仕留めたメイジやナイトの討伐部位を回収してくるぜ。討伐数としては新記録だぜ。」
「あー、マリマリ~。あたしの分も回収しといて、あたしのはほとんど目を狙ってるから分かりやすいと思うけど。」
「おうよ任せときな。」
「では、わしは、雑魚の耳と魔核でも回収するかの。積み重なっとるからいっしょにやらんとお主の細腕じゃ無理じゃろう。」
「ジュン~。問題ないよ。洞窟内も、周囲にも問題なし。まあ、監視者たちが結構集まってきてるけどね。」
「まあ、それは、俺たちがダメなときには、そのまま討伐する予定だったのかもしれないですしね。それでは、ジブリードさん、これで俺たちの討伐は完了しました。」
「うむ。いいだろう。課題は終了した。合否判定は本来はギルドの方に報告するが、まあいいだろう。全員合格だ。問題ない。」
「そうですか。ありがとうございました。討伐部位の提出はよかったんですか?」
「ああ、そっちは問題ない。どの道、各々の核にどれくらい討伐したかは記録されてるだろうしな。今回は素材の買い取りもない。まあ討伐回数にカウントはされるし、素材の買い取り分で収入も得られるから必要と言えば必要だけどな。お前さんは集めなくてもいいのか?」
「ゴブリンですからね。昇級試験に関係ないなら問題ないです。そう言えば、ゴブリンロードとかの核は価値があるんでしたっけ?」
「ああ、そうだな。恐らくこいつはかなりのもんだと思うぞ。キングに上がる前の個体じゃねえかな。しかもお前さん、血を流さずに一撃で屠っただろう。魔核の状態はかなりいいんじゃねえか。」
「そうでしょうね。前に倒した時にギルドの人がそんなことをおっしゃってたので、今回は気をつけてみました。」
「ゴブリンキングの一歩手前のゴブリンロード相手に、殺した後のことを考えて殺したのか。全く、お前さん、規格外だな。何でそんな奴がゴードン王国ではC級なんだよ。」
「まあ冒険者になってまだ2ヶ月ぐらいですし。それに試験の日程待ってるよりも先に進んだ方がいいかと思いまして。」
「何だと、冒険者になって2ヶ月。お前さん、マジで何者だよ。それであれだけの洞察力と統率力を持ってるとか。それに先に行くってどこに向かってるんだ?」
「アサドンク王国です。尤もこちらの国でも、いろいろ勉強したいことがあるので、しばらくはいるつもりですけどね。」
「アサドンク王国?副迷宮か?まあ、そんだけ強ければ当然か。迷宮討伐を完了してダンジョンコアを手にするのは冒険者としては夢だからな。しかし、アサドンク王国はいろいろ厄介だからな。行くならこっちで十分に準備していくんだな。あっちでは、冒険者ギルドですら、冒険者を助けてくれねえからな。全ては自己責任ってやつよ。武器の手入れから何から何まで、自分でこなせる位じゃなければ、あっちでは長く迷宮に潜ってられねえぜ。」
「情報ありがとうございます。情報ついでに、ジブリードさんは剣将なんですよね?その先の剣聖になるために必要な条件って何ですか?」
「これはまた、大雑把な質問だな。まあ確かに、俺は剣将だけど、ここから先、剣を極めようと思ったら、それこそ寸暇を惜しんで剣を振り続けなきゃなんねえんだよ。剣聖って言うのは要は、自分のオリジナルの技を身につけるってことに他ならないと思ってる。これまで何千、何万もの奴が挑戦してそこに辿り着いた人間は数えるほどしかいねえ。そう言うのが剣聖だ。お前さんは槍を極めようと思ってるのか?持ってる武器はいいし、筋もいい。槍については門外漢だがそれでもいいと思う。このまま続ければお前さんも槍の道で槍将までは到達できるだろうよ。そこから先を極めたいなら、日々頑張るしかねえと思うぞ。」
その後、監視者の人たちも合流して、野営地に戻った。
リリアナは他のポーターを指揮して、大鍋で料理を作っていた。
人数が増えること見越してたのか?
リリアナも意外と鋭いところがあるなぁ。
野営地では、朝のギスギスした感じはなくなって、皆でいろいろ話をした。
それぞれの武勇伝とかもね。
監視者の多くはB級冒険者で、今回の討伐の手際の良さをしきりに褒めていた。
まさか、あそこまで大きなコロニーになっているとは考えていなかったようだ。
「ところでジブリードさん。剣将の方とお会いできる機会はそうそうないと思うので、もしよろしければ一手ご指導を頂けないでしょうか?」
「そりゃいいけど、俺は槍は使えねえし、槍と剣で戦っても余り学べるところはないんじゃねえか?」
「あーはい。俺は槍メインなんですけど、剣の方も少し修練しているので。」
「まあいいけどよ。いろいろ手を出すとどっちつかずになるぞ。折角あれだけの槍の腕があるんだからそっちを伸ばした方がいいと思うぜ。」
「はい。そのように言われるのですが、折角の武術なので一通りは修練しておきたいと思いまして。」
「まあいいや。あれだけの動きができるんだし、問題ないだろう。木剣でやるか?」
「いえ、一応、鋼鉄剣は持ってますので、ジブリードさんもいつもお使いのそのミスリル剣でお相手頂ければと。」
「まあいいか。木剣でも本気で打ち合えば死んでしまうこともあるんだしな。」
皆が車座になっている場所から少し離れた場所で、5mほど離れて対峙した。
将クラスの人の技を体験できるチャンスだし、しっかり勉強しよう。
俺も少しばかり本気モードに切り替える。
俺の気が変化したのを感じたのか、ジブリードさんがニヤリとする。
「そんじゃ、剣術の深さをお見せしようかな。」
そう言って、一息の間合いで一気に5mの距離を詰めて袈裟切り、そのまま力のベクトルを無視したような切り返し、さらに返しの横一線。
まあ、そんなもんだね。
ほんの数㎜の間合いで全てをかわして、同じ技を返してやった。最後の一閃でジブリードさんの服の一部が切り裂かれる。
「ほお。そんじゃこいつはどうだ。」
今度は連撃技だ。
いやいや、これ本当に練習だよな。
かわしてなければ、何回か死んでるけどな。
まあいいや、そんじゃ、お返しに、同じ連撃を。
最後にフェイント掛けたらびっくりして一歩引いたけど。
「お前さん、本当に槍使いなんだろうな?」
そう言いながら、剣で竜巻でも起こす気かよってぐらい凄い勢いで振ってくる。
剣を合わせたら、鋼鉄剣の俺の剣が折れちゃう出そうしな。
って何、魔力を纏わせてるんだ。
ミスリル剣の刀身が蒼く光ってきてるじゃねえか。
どんだけ早くなるんだよ全く。
まあ刀身に合わせると折れちゃうんだけど、所詮は剣だからね。
ここをこうしたら、ほらね。
タイミングを図って、持ち手の部分を切り上げると、ジブリードさんの剣が
スポーンと飛んで行った。
周りから見たら、手が滑って飛んで行った感じだ。
でもジブリードさんは分かってる。
「えっと、凄い風圧でした。さっきの連撃技も凄かったけど、今の技も凄いです。」
「お前、今・・・。」
「いろいろ勉強になりました。ありがとうございました。」
「ジブリードさん、いくらなんでも剣を飛ばすとか、捻りがなさすぎですよ。でもまあ、あの剣舞を見れただけでも今夜は得した気分です。」
周りの人たちが声をかけるけど、ジブリードさんはぶすっとしている。
まあこればっかりはね。
それで、俺の剣将スキルが剣聖に上位変化した。
武術スキルの上位変換の条件は、将の技を打ち負かして上回ることなんじゃないかな。
さっきの話では、新しい技でも考えないといけないのかとも考えたけど・・・
って、さっき最後にはなった技が新しい技ってことなんだろうか?
まあ、この辺りも今後の検討課題だな。




