B級昇格試験出発
翌朝、朝早く起きていつものように鍛錬していると、
いきなりリリアナが光魔法の回復を発動できた。
発動できたリリアナ自身が一番びっくりしてた。
「リリアナ、今どうやったんだ?なんでいきなり使えるようになったんだ?」
「えっと、私にもわかりません。いつものように光魔法の練習をしようと思って。ただ教えていただいた呪文と違って、本に書かれていた呪文を唱えてみました。」
「えっ?何?俺が教えた呪文が間違ってた?」
「呪文の文言自体は同じなんですけど、イントネーションが少し違ったようです。この文字の発音は、最後上がるんじゃなく、少し下げる感じで発音するんです。」
「なるほど、俺自身が魔法は無詠唱発現してるから気がつかなかったよ。ごめんね。」
「そんな。私の方こそ済みません。でも、実際に魔物の死体で実地してくれたり、ジュン様の体を使って見せてくださったのも大きいと思います。それに、昨日本を読んでいただきながら、細かく言葉の解説などもしていただいたのでジュン様がおっしゃった「イメージの明確化」がとてもやりやすくなりました。」
「そうかそうか。それじゃあ、昨日読んだところだと、光球もできるかもしれないぞ。本の呪文通りにやってみて。」
「はい、では、光球」
いつもは弱弱しい少し小さく暗い球だけど、今はしっかりできている。
持続も問題ないみたいだ。
「凄いな。スキルも習得できてるんじゃないか?」
「えっ。あっ。はい。スキル習得できてます。光魔法って。凄いです。ジュン様凄いです。」
「良かったねー。でも、しっかり発現するようになって、SPの消費もしっかりされてるから、練習のときには気をつけてね。一時間に2回までだね。SPを全部消費しちゃうと、HPが減少した時みたいに体というか精神的な疲労感が出てくるからね。魔法修練には、何度も魔法を発現することが大切だけど、今度からは一回一回の発現を大切に練習するようにね。」
「はい。ジュン様。本当にジュン様は素晴らしいです。」
リリアナも喜んでるけど、俺の方も内心喜んでた。
固有スキルの学習がバージョンアップしたようだ。
これまで、学習(認識、指導、分析)だったけど、さらに「習得」が加わった。
これは、俺が持っているスキルを他人に習得させることができるらしい。
100%習得させられるのかどうかは不明だけど、いずれにせよ俺自身がスキルホルダーになっていれば今後仲間になる人に対して、必要なスキルをこの世界の基準でい言えば超簡単に習得させることができるってことなんだろうな。
自分自身の能力が上がっていくのも楽しいけど、パートナーというか仲間の育成も可能になるって言うのはかなりおいしい展開だな。
目指すは、スキルコンプリートだな。
この世界の夜が明けるのは早い。
指定時間は朝の6時だったけど、その30分前には集合場所についていた。
すっかり明るくなっていて、商人だろうか大きな荷物を乗せた荷馬車の列がどんどん城門を潜っていく。
そう言えば、待ち合わせって誰を待てばいいんだ?
そんなことを思いながら、北門付近で馬車の近くに屯しているいくつかのグループに視線を送っていると、
「B級昇格試験を受験するジュンさんでしょうか?」
一つのグループの中にいた、いかにもお役人ですって感じの人から声をかけられた。
「はいそうです。試験の待ち合わせはこちらでよかったでしょうか?」
「はい。あとお一人が来られたら出発です。あー、いらっしゃいました。流石、B級昇格試験を受ける皆さんですね。予定時間より30分前に集合が完了するとは。えっと、ジュンさんは荷物はないですか?みなさん専属のポーターさんをお連れなんですが。」
「はい、野営準備ですよね。問題ないです。」
それで、俺がマジックバック持ちだと勘違いしてくれたようだ。まあそう見えるようなバックを下げてるんだけどね。
「それでは、改めましてご挨拶を。本日はB級昇格試験を取り仕切ります、ニードリックマウス王国冒険者ギルド本部総務部次席のカントと申します。今回の試験はドングの森にできたゴブリンの集落の討伐が課題となります。試験監督はご存知の方も多いでしょうがA級冒険者のジブリードさんにお願いしています。採点はこの説明が終わった時点から、試験官が試験完了宣言を行った時まで全ての行動がチェックされます。詳しい試験内容につきましては、馬車の中でジブリードさんより説明があります。また今回受験されるのは、ここに集まった4名の方々です。自己紹介を含めて今後どのようにするのかをお互いに話し合って決めてください。また随行者は各自ポーターの1人のみになります。試験対象者以外が今回の討伐に関わった場合、試験はすべて無効になります。特にペナルティーは発生しませんが、再度受験申し込み手続きをしていただくことになりますので悪しからず。他に今の時点で質問はありますか?」
「はい。試験は試験官が試験完了を宣言した時点と言うことですが、試験結果の発表はいつになりますか?また、ドング迷宮都市に向かうと聞いてますが、試験が終わったらそのまま迷宮探索に行ってもいいんでしょうか?」
「勿論問題ありません。試験結果は、試験終了後、冒険者ギルドでカードを出した時点でわかると思います。したがって、迷宮に潜る前にドング迷宮都市の冒険者ギルド支部でクエストの受注をされるなら、その時点で合否がわかると思いますよ。後の方はなにかありますか?ないようでしたら、これより試験を始めます。準備ができたら試験官に声をかけてください。」
そう言うと、次席と言う人は先頭の馬車の中に入って行った。
残ったのは、一歩離れた場所にいるA級冒険者のジブリードって人と、
それぞれ後ろに大荷物を持ったポーターを従えている3人の受験者。
あと俺とリリアナ。
みんな何も言わないし、時間が勿体ないので俺が口火を切った。
「はじめまして。ゴードン王国から来たジュンと言います。武器のメインはこの槍です。後ろにいるのは俺のパーティー仲間のリリアナと言います。彼女もC級ですけど、今回は資格に達してなくて受験はしません。」
「あー俺は、マルマリ。」
「ワシはドルマンと言う。普段は同じドワーフの仲間同士でパーティーを組んでおる。武器は見ての通り、斧じゃ。」
「私は、ライムライト。斥候なら任してよ。パーティーでは迷宮の罠解除や斥候メインでやってる。今回は2回目の受験。前回、仲間と一緒に受けたんだけど、私だけ不合格だったのよね、全く前回の試験官の奴。今回はあのジブリードさんだし公平なジャッジをしてくれるだろうけど。」
「えっと、取り敢えず、移動しながら試験の説明と情報交換をしませんか。ここにいても時間が勿体ないですし。」
「そうね。でもこの馬車に全員乗るの?ポーターや荷物も一緒だとかなり窮屈じゃない?」
「えっ?ポーターも一緒に移動するんですか?俺はこの国の地理は疎いけど、今出たら今夜のうちに、ドング迷宮都市について今夜は都市の中で泊まるんですよね?それとも野営するんですか?」
「その辺りどうするかは、全て受験生に委ねられてるのよ。試験の内容を聞いて、ドングの森の方に向かってそのまま討伐を始めてもいいし、一旦街で体制を整えてもいいしね。」
「そうなんですね。ゴブリンの集落ができているのは事実なんでしょうから、とりわけ遠回りじゃなければサッサと討伐した方がいいですよね。集落がどうなるか不確定ですし。」
「まあ、その辺りはゴブリンの集落を見つけて、どのように攻略するか作戦を立ててからじゃな。」
「じゃあ、俺が馬車を持ってきてるので、そっちにポーターと荷物を乗せて後ろから付いてこさせたらどうでしょうか?馬車の操車は俺のパートナーができますし。」
「ええっ、自分の馬車なの?あなたC級なんでしょう?何、あなた貴族か大店の子なの?」
「これよさぬか。個人の詮索は余りほめられたことじゃないぞ。」
「あーあはは。ごめんね。あたしってば、ちょっと軽いのが玉にきずってよく言われるんだよ。」
「それでどうしますか?」
「お主がいいならお願いしたいな。パートナーも我らと同じC級なんだったら安心じゃて。」
「俺もそれでよい。」
「あたしは、勿論OKよ。って言うか、あっちの馬車の方が乗り心地よさそう。あたしが乗りたいよ。」
「何を言うとる。ジブリード殿から試験の説明を受けぬ気か?」
「あはは。冗談だって。もう、堅いんだから。流石ドワーフね。」
「ドワーフは関係ないじゃろうが。」
「あーじゃあ、そう言うことで、ジブリードさんに言ってきますね。リリアナそっちは任せてもいいか?」
「問題ありません、ジュン様。」
「ジュン様~。あんた何者?」
「これ、よさんか。」
出発前のゴタゴタも片付いて、無事に馬車が城門を潜ってドング方面に向かって走り出した。すぐに説明が始まるのかと思ったら、馬車の中はシーンとしたままだ。
暇だったので馬車の中の奴らの鑑定をしてみた。
スキル持ちは、ジブリードの剣将と、ライムライトの探索のみだ。
LVは、ドワーフ族のドルマンが、LV12。
無口男・人族のマルマリが、LV13。
猫族のライムライトが、LV12だ。
まあ平均的って言えば平均的だな。
ちなみに、A級冒険者のジブリードがLV27。
レベル的には俺よりも上だけど、能力値、スキルとも大したことない感じだ。
これでA級なんだ。まあ、確かに地下16階のグレーターウルフでもLV21だからな。
余程深い階層に潜らないと経験値も貯まらないよなぁ。
結局半日ほど進んでも誰も何も話さないし、みんな目をつぶって寝てる感じだし。
この世界では基本2食制が普通なのでお昼休憩もなく、淡々と馬車が進んでいく。
「もう少し行くと、ドングの森が見えてくるよ。ジュンは初めてだろう見るの。」
いきなりライムライトさんが声をかけてきた。
「ええそうですね。王都に着いたのが昨日だったので、こちら方面は全くの初めてです。ところで、試験会場となるドングの森が見えてきましたが、そろそろ試験内容についてお話しいただけませんか?」
そのまま、ジブリードさんに話しかけてみる。
「ああ?試験内容だ?ゴブリンの集落を見つけて討伐する。そんだけだ。」
「なるほど。ドングの森のどこにあるのか、規模がどれくらいかなどの情報を調べるのも試験課題と言う理解でいいですか?」
「そういうこったな。」
「今回の受験者はそれぞれ特性が違うのですが、合否の判定は具体的にはそのようになっているんでしょうか?討伐した数が問題になるんでしょうか?もしそうなら、不公平感が出ないように討伐する個体を事前に打ち合わせしておく必要があるのですが。」
「まあそうだな。合否の判定は全て、試験官、つまり俺に一任されている訳だが、俺の場合は個人よりもチーム全体での動きをみる。つまりだ、お前がいい武器を持って一人活躍してゴブリンの集落を討伐しても他の奴が活躍してなきゃアウトだ。つまり、全員合格か全員不合格の二つに一つだな。」
「なるほど、チーム評価ですね。了解しました。それで、課題としてはゴブリンの集落の討伐でしょうか?それとも脅威の排除でしょうか?」
「ほお。そうやって明確に聞かれると、嘘は言えねえな。課題はゴブリン集落によって引き起こされた脅威の排除だ。」
「了解しました。」
「えっと、それでは皆さん、俺としてはこのまますぐにドングの森に向かった方がいいと思うのですが、どうしますか?」
「あたしは賛成だよ。馬車の中でじっとしてて体が硬くなっちゃったしね。」
「ワシも問題ない。元々都市には寄らす森の中で野営するつもりじゃったしな。」
「俺もいいぜ。と言っても、ドングの森って言っても広いぜ。野営の位置はどうするんだ?」
「できれば、今日中に討伐を完了したいと思っています。位置についてはすぐに判明するかと思います。問題は、どのように攻略するかですが、そのためにはお互いの力量をある程度教えあう必要があると思います。俺は、最初に言ったように槍。ドルマンさんは斧。ライムライトさんはナイフと言うより、その吹き矢ですか?」
「えっ?なんでわかったの?」
「あーなんとなくですけど。腰のナイフはC級まで上がっておられるにしては綺麗と言うか、ナイフで戦闘しているように見えないというか。」
「ジュンってすごいね。ただのボンボンじゃないんだ。」
「えっと、俺はボンボンじゃないですけど・・・」
「で俺の能力が知りたいってことかい?」
「あー能力と言うか、どのくらいの射程までなら確実なのか知りたいって感じです。」
「何?なんで俺の投擲のことを知っている?」
「なんでと言われても、その装備からすれば、投擲以外には考えられないと思いますが。魔法師だったらびっくりですけどね。」
「まあ、いいや。俺の得物はこの棒手裏剣だ。20mなら確殺できる。今回ゴブリン討伐と言うことで改良してきた。」
「同時にいくつまで投擲できますか?」
「なっ、同時にって。同時には無理だ。練習はしてるが、確殺となると単発だ。」
「分かりました。実際にゴブリンのコロニーを見てみないと何とも言えませんが、恐らくこのコロニーには上位のゴブリンがいると思われます。」
「上位のゴブリン?」
「ゴブリンナイトとかゴブリンメイジってこと?」
「この国の冒険者組合の事情がどのようになっているのか分かりませんが、今回この試験の監督官に、この国では有名なA級冒険者しかも剣将のスキルを持っているような方を試験官につけたのは、冒険者ギルドとしてもある程度それに近い情報を得ているのだと思います。この試験日程が決まったのが何日前なのか分かりませんが、少なくともそれ以降冒険者ギルドとしてコロニーを放置しているとは考えられません。遠巻きにでもコロニーの観察を続けていると思います。従って、集落の位置は、周囲を警戒している人の探索をすれば自ずと場所が絞り込めるかと思います。どうですか?ライムライトさん探索には引っかかってますか?」
「えっ、あー、うん。わかってた?探索してるの?」
「ええまあ。それで、いかがですか?」
「もっと近づいてみないと何とも言えないけど、森の東側が厚い感じかな。王都からも迷宮都市からも離れてる方向だね。」
「恐らくそっちで正解だと思います。それなりの脅威を把握しながら試験日まで放置していたのは、すぐに街への被害が出ないと判断したためでしょうね。さて、そうなると問題は、今回の試験課題です。達成は脅威の排除ということです。つまりは上位ゴブリンの排除が必須になります。尤も私たちが失敗しても、こちらのジブリードさんが対処してくれるでしょうから、失敗の場合の影響とかは考える必要はないでしょうけど、ただ私たちは受験中ですからね。課題をクリアーしたいと考えていますが、どうでしょうか。」
「上位ゴブリン一体だけなら、ワシらが全員で当たれば問題ないじゃろう。尤もそれまでに、周りの雑魚を完全に排除しておく必要があるじゃろうが。」
「上位ゴブリンだと、俺の棒手裏剣では一確は無理だな。少なくとも急所に4発はクリーンヒットさせなきゃ無理だぜ。それに、もしゴブリンメイジがいた場合、俺たちの中では遠距離攻撃できるのがいねえ。せいぜい俺の20mか、そっちの猫の姉さんの吹き矢ぐらいじゃかなり難易度高くねえか?」
「その辺りは問題ないでしょう、要するにゴブリンですし。問題はゴブリンロードないし、ゴブリンキングがいた場合です。こいつらに指揮権を発動させるとゴブリンと言えども煩わしくなると思います。」
「煩わしくなるじゃと。もしロードがいるなら撤退するしかないじゃろう。試験はまた受けることもできる。討伐もジブリード殿がやってくれるじゃろうから脅威はなくなる。」
「そうだよ。ゴブリンロードや、ゴブリンキングなんていたんじゃ無理だよ。」
「まあそうですね。その時はまた別個考えましょう。それよりも仮にそういうゴブリンの最上位種がいた場合、コロニー自体爆発的に成長しているでしょうから、もしかしたら100体前後いると想定してた方がいいと思います。B級昇格試験に選んだぐらいなので、その時点では50体もないぐらいのコロニーだったんでしょうけどね。」
受験者の3人はこの話を聞いて黙り込んでしまった。
ジブリードさんはポーカーフェイスだ。
まあ俺の予想が誇大妄想的に大きく言い過ぎていたとしても、注意することにこしたことはないしな。




