温泉
翌日、宿を出る時に延長はしないことを告げた。
契約は後1泊残っているので今夜帰るかもだけど、この街では冒険者が迷宮内に野営することもあるので帰ってこなくても問題はないだろう。
冒険者ギルドの支部にも寄って借りていた倉庫の鍵を返した。
こちらも延長はしないことを告げた。
その後、何ヶ所かの店を回って野菜・穀物を中心にかなりの食糧を買い込んだ。
2人だと1年は食べていけるんじゃないってぐらいだ。
さあ、準備は整った、まずは地下13階を目指す。
リリアナと一緒に地下10階に転移して、地下11階はすでに探索済だったのでサクサク進んだ。
今は地下12階だ。
地下12階は、一言で言えばマグマが流れてるんじゃないのって思うぐらい灼熱の洞窟だ。
尤も実際にマグマが見える訳ではないけど、迷路全体が暑い。
出現する魔物も火を吐く魔物が多いし。
火トガゲと言うやつが一番多いけど、1体なら瞬殺だけど、戦ってると別のやつが寄って来るんで結構鬱陶しいんだよね。
「この火トカゲってやつがこの階のメインの魔物みたい。吐く火に気を付ければ問題ないよ。恐らくリリアナの双剣でも問題なく切断できるから。あと、こいつら戦ってる時に突然迷路から湧いてくるように他のやつが出て来ることもあるから注意ね。」
リリアナにこれまで解ったことを解説しながら進む。
火トカゲの処理は2人なら問題ないというか、楽勝だ。
リリアナが戦ってる時に気配察知に集中して解ったけど、こいつら迷路の岩の裂け目から出てきてる。
岩の裂け目は多分深いのかもしれない。
いると分かって探知すれば感知できるけど、迷宮全体が魔力濃度が濃いからそれに隠れてたんだと思う。
いずれにせよ、隠れている場所が解れば最早、いいカモだ。
裂け目に矛を差し入れるとそのまま絶命する。
リリアナにとっていい経験値稼ぎになった。
時々、シルバーゴーレムという、倒すと銀塊が得られるボーナスゴーレムも出て来るので、意外とおいしい狩り場なのかもしれない。
ただ暑いので、水分補給はこまめにしないといけないし、装備の中は汗びっしょりだけどね。
ともかく、リリアナのお陰でこの階の鬱陶しさが半減したので、未探索部分を探索して、その日のお昼過ぎには地下13階への通路を見つけた。
地下13階は、これまた異様な場所だ。
火山の中腹みたいな場所?
出てきた場所は、山の洞窟の出口みたいな場所で、目の前に火山みたいに煙をもくもく出してて、周囲にあの独特な臭い、そう硫黄の臭いがしている場所がある。
リリアナは最初、臭いに反応して毒物じゃないかと警戒したみたいだけど、問題ないからと説明して、まずは硫黄の臭いのする方へ向かった。
谷を越える感じだったので思いの外時間がかかったけど、30分ほどで臭いの元の場所にきた。
間違いないな、温泉だ。
しかもかけ流し状態で何ヶ所か大きな池みたいになっている。
湯量的にはかなりありそうだ。
さらに、湧水も湧いていて、水の豊富な場所らしい。
手に触って情報をチェックしても毒や異常なものはない。
寧ろ飲用水としてOKらしい。
で、この周囲魔物の反応がない。
もしかしてこの硫黄の臭いが魔物よけになってる?
「ここはいいね。この臭いで魔物が寄ってこないんだろうな。さらにこの温泉入ることが出来るしね。」
「ジュン様、温泉に入るとは?」
「温泉でお風呂に入るんだよ。身体が温まるし、疲れも取れる。」
「この熱いお湯で、水浴びをするんですか?」
「リリアナは、湯船とか知らない?お湯を貯めてお風呂に入るんだけど。」
「さあ。川で水浴びしかしたことがなかったので。宿で熱いお湯でシャワーを使って身体を洗ったのも初めてですし。」
「あれ?もしかして、湯船に入る習慣はない?」
「他の種族は解りませんが、兎族の村でも聞いたことないですし、人族の街に来てもきいたこともないです。第一、湯船と言うのは大量のお湯を使うんですよね?水魔法でもそこまで大量の水を常に確保するのは難しいでしょうし、勿体ない気もしますが。」
そう言えば、この世界に来て湯船って見たことないな。
シャワーか井戸水で水浴びか。
気候的なこともあるんだろうけど湯船に浸かるってことないのか?
俺の場合、浄化魔法があるから気にしてなかったけど、湯船があるなら入りたいよなぁー。
「リリアナ、リリアナはこの臭いは大丈夫だよね?気分が悪くなったりしてない?」
「問題ありません。慣れてしまえば気にならないですし。」
「じゃあ、ここに野営の拠点を作ろうと思うけどいいかな。幸い、水は豊富に湧いてるし、魔物も寄ってこないみたいだし。ここである程度の期間野営して探索を続けたいと思うけど、どうだろう?」
「ジュン様のお考えの通りに。」
「じゃあ、先にリリアナは食事の準備をしてて、僕は野営場所を準備する。」
その後、簡易型のコンロと食材一式を出して、テーブルとイスを準備して、食事の準備はリリアナに任せることにした。
俺は、まずは立地場所を決める。
まず、温泉池がいくつかできている。
そう言えば液体ってそのまま収納できるんだろうかって思ったらできた。
取り出す時には空中からダーッと指定した場所に取り出せる。
ということで、温泉池2つ分。量にして・・・考えるのも怖いぐらいを収納した。
温泉宿開けるんじゃないってぐらいの量だ。
でも収納した池にはどんどん温泉が流れ込んでくる。
数日ではまた満水になるんじゃないかな、多分。
で、俺が拠点を作るのは、大きな温泉池に囲まれた小さな池のある場所。
まずはこの池を拠点に取り込むことにした。
周囲の景色も大してよくないし、内風呂にする。その方が安全だろうし。
使うのは土魔法だ。
この土魔法、実は街の大工さんと言うか建設現場で使われていたのを見つけて教えて貰った魔法だ。
土魔法スキルを持った人は、建設現場で引っ張りだこみたい。
レンガとレンガを接着したり、簡単な表面の平面加工などを土魔法で行うらしい。
火魔法や水魔法辺りだと騎士団をはじめ戦闘系での活躍の場があるみたいだけど、土魔法の場合には裏方仕事が多いみたいだ。
まあともかく、何度か指導を受け、俺なりにアレンジを加えて土魔法スキルを習得していた。
これを使って拠点作りにチャレンジする。
先ず、部屋は1部屋でいいか。
対面式キッチンにして、トイレと湯船付き風呂場は別にしてっと。
風呂のお湯はこの池の温泉を引き込むようにすればいいかな。
強度を持たせるために、クレイゴーレムのレンガを二重構造で作るか。
窓は、今はいいかな。
迷宮内で景色を楽しむとかないだろうし。
広さ的には、20畳ぐらいあればいいか。
ちょっとした小屋みたいな感じだけど、おっ、この大きさでも問題なく収納できるし持ち運びコテージになるな。
下水は迷宮に垂れ流しだけど、恐らく迷宮が全部吸収してくれるだろうし環境破壊にはならないだろう、多分。
そうやって、サクサク作り上げた拠点は、強度的には王都の城壁よりも強固だろうから、迷宮内でも安全だろう。
風呂も天然温泉かけ流し状態だし。
いいんじゃないかなー。
室内の明かりは魔道具の明かりを使用。
空気穴以外、窓はないけど。
横で食事の準備をしながら見ていたリリアナは何か言いたそうだけど、黙って食事の準備を続けてくれている。
流石リリアナだな。
職務に忠実と言うか、余計なことは言わないし。
食事は、新しい拠点の中で食べることにした。
いくら周囲に魔物の気配がないとは言え、より安全を確保するなら中の方がいいし。
「ジュン様、土魔法でしょうか?こんなスキルもお持ちだったんですね。」
「実際に使ったのは今日が初めてだけどね。一応ちょっとずつは練習してたんだよ。ほらクレーゴーレムを倒しまくって素材がたくさんあるし。」
「クレイゴーレムの粘土は、高品質で高値で買い取りされるとお聞きしましたが、ここ全部クレイゴーレムの素材でお作りになったんですか?」
「そうそう。他にレンガの素材とか持ってなかったし。」
「城壁並みの防御力があるんですね、この中。」
「一応ね。王都の城壁の2倍増しってところ。」
「そうですか。ジュン様のなさることは、驚きの連続ですが、これはこれまでで一番の驚きです。」
「そっか、リリアナはあんまり驚いてるように見えなかったから普通かと思ってたよ。」
「ジュン様のされることに反応していては、ジュン様の奴隷としてやっていけませんし。」
なるほど。リリアナなりにいろいろ考えてるんだな。
まあともかく、今日は俺も超久しぶりのお風呂だし、ゆっくりお風呂を楽しむかな。
夕食を食べた後、後片付けをリリアナにお願いして俺は温泉風呂に入った。
うん、いいお湯だ。
あんまり湯船に入って気持ちいいとか感じたことないけど、温泉は格別だなぁ。
極楽極楽とか思って湯船を楽しんでいたら、本当に極楽が来た。
リリアナがマッパで風呂に入って来た。
「リリアナも湯船に入る?」
平静を装ってリリアナに聞いてみると、
「本来、ご主人様の身体を洗うのは奴隷の役目です。宿ではシャワー室が狭く、ジュン様の指示がありましたのでジュン様のお世話ができませんでしたが、こちらなら問題なさそうですし、これからは御一緒させて頂きます。」
なるほど、リリアナの基本姿勢は変わらないからね。
ベッドも一緒だし。
まあ、妹一緒に入っていると思えば・・・思えなくなるほどのシュチュエーションだけど大丈夫でしょう。
気合で抑え込んで、リリアナと一緒に湯船に浸かることにした。
だが、リリアナの方が温泉の魅力に参ったようだ。
最初は、キリッとした顔つきだったけど、今は蕩けるような表情で浸かってるし。
これで俺と一緒にお風呂に入るのはなしになるだろうと思ったら、自分一人では入るわけにはいかないと、時間さえあれば一緒に温泉に入らされるようになるとは。
翌朝、朝起きたらまずは温泉からだった。
まあ俺も嫌いじゃないけどね。




