ミスリル矛
それから2日。
リリアナ達と迷宮に潜り出して5日目には地下5階のボスをリリアナ達だけで討伐し、LVがそれぞれ9になり、D級冒険者となった。
「こんにちは。」
「こんにちは、お待ちしてましたよ。親方が次の日からすぐに作り始めて2日で作り終えてたんですけどね。」
武器の鍛冶工房を訪ねるとそう言って出迎えてくれた。奥で作業していた親父さんが出てきて、俺に槍を一本渡してくれた。
「ふん」
「これは矛ですか。凄いですね。柄の材質は金属ですよね?それなのに重くない。」
「ふふん」
「よくご存知ですね。その形状は珍しいんですけど。それで素材は芯にミスリルを使ってます。芯から繋げてそのまま刃先にもミスリルを使っています。その上から買い取らせて貰った鉄鋼を使って強度を上げています。」
「ふ、ふふん」
「ご存知でしょうが、ミスリル製の武器には使っている人の力を纏わせることが出来ます。それが出来れば、槍将クラスと言うことでしょうが、親父さんはお客さんならそれが出来ると考えているようです。」
ここへ来ると、この親父さんとよく意思疎通が出来るなぁと師弟関係の奥深さを垣間見ることが出来るなぁ
それにしてもいい武器だ。
品質は達人級。
渾身の一作ってところだな。
あと、リリアナとルリにも約束通りナイフ(サバイバルナイフみたいにごついやつ)と武器を作ってくれたようだ。
この前の素材と相殺するって話だけど、この矛はそれ以上の価格だろう。
「素晴らしいものをありがとうございました。それでこの矛の代金は、いくらでしょうか?」
「先日、素材と相殺すると言うことでしたので料金は発生しませんよ。」
「いや、ミスリルの武器ですし。」
「いえいえ、先日の鉄鋼塊は、かなり高品質でした。これでも残りを全部頂いたら、こちらの方が儲けています。ああ、出来れば、また買い取りさせて頂けませんか?」
「はいそれは問題ないですが、本当に相殺でいいんでしょうか?」
「勿論です。将来性のある冒険者の方とご縁が出来たことは鍛冶師としては大きな財産です。こちらこそ、是非末永く御贔屓下さい。」
「ふん。」
「ありがとうございます。これから中層をどんどん探索予定ですので、またいい素材があればお持ちします。」
「ええ、よろしくお願いします。」
それから、即地下6階入って、新しい武器をそれぞれ確かめた。
2人とも満足みたいだ。
俺の方も満足だな。満足以上か。
力を纏わせるか。
早くできるようになりたい。
この武器を手にしたことで、俺自身攻撃力がアップしたってこと以上にかなり変わった。
まず、スキルをいくつか習得できた。
最初、矛に力を纏わせることに成功して、「魔力操作」スキルを習得。
ちなみに、魔力を纏わせると刃全体が蒼く光る。非常にわかりやすい。
これによって、「槍術」が「槍将」に上位変換。
さらに、魔力操作を広げることで、周囲の魔力を感じることが出来るようになり、自分自身から、魔力がダダモレしているのに気がついて、早速魔力を自分の中に閉じ込めることに成功した。
これにより、周囲の魔力に敏感になり、魔物の感知が可能になった。
同時に魔物から向けられる害意?敵意?みたいなものに敏感になって、「索敵」スキルを習得した。「索敵」スキルは「探索」スキルの上位互換っぽい。
また、魔力操作が出来るようになって、魔法のコントロールもできるようになり、発動した魔法を誘導することが出来るようになった。
尤も今は、光球ぐらいしか攻撃魔法が使えないけど。
将来他の魔法が使えるようになった時にきっと役に立つはず。
あと、身体強化のカッコの中が変化している。
前は「物理攻撃防御」だったけど、今は「物理耐性」になっている。
変化したってことは進化なんだろうけど。
感じからすると、元は俺に対する物理攻撃を防御するだけだったのが、今はパッシブで発動しているので、攻撃に限らず、俺自身の物理防御力が上がったってことだろうか。
例えば自分でどこかにぶつかった時にも俺の身体にはダメージが受けないとか。
挌闘で魔物を相手にしても拳が痛くないしね。
能力値の防御にプラスして防御力が上がったということだろうな。
現時点での俺のステイタスはこんな感じだ。
名前 ジュン・ミソラ
年齢 15歳
種族 人族
所属 C級冒険者
LV 21
経験値 4250
HP 660
SP 660
筋力 220
防御 220
回避 220
敏捷 220
知恵 400
精神 400
幸運 400
固有スキル 学習(認識、指導)
スキル 身体強化(物理耐性)、槍将、剣術、挌闘術、投擲術、聖魔法、魔力操作、
魔力感知、索敵、
加護 博愛神の加護
補正 異世界(言語、無詠唱、アイテムボックス)
経験値200毎にレベルが上がるんだけど、自分よりLVが低い魔物を倒しても経験値は入らない。
レベル差5でギリギリ入る感じ。
地下11階の魔物が、LV15前後なので、更に下層に進まないとほとんど入らないことになる。
それからさらに2週間ほど過ぎた頃、いよいよリリアナも地下10階のボスを撃破し、転移水晶の登録が出来た。
最後のボス戦は、若干俺もサポートしたけど、ほぼ2人だけで撃破した。
D級冒険者2人でここまでやれれば、十分にC級昇格試験資格を得ることになると思う。試験自体は本部で申請することになるようだ。まあそのままD級のままでも問題はないだろうけどね。
宿の更新のこともあってギルド支部の方に貸し物件について問い合わせていたんだけど、今日素材買い取りをして貰う時に、貸家が空いたと連絡を受けた。
「先日問い合わせを頂いていた貸し物件ですが、中心部から少し離れていますけど、一軒家が空きましたがどうしますか?」
「どのあたりです?月の賃貸料は?」
「場所は、旧市街地の方になります。元はある商会の店主一家の持ち物でしたが、商会を畳むことになったそうで、借り手を探しています。部屋数は4つ。月に金貨2枚が先方の条件ですが、そこは交渉が可能です。」
「旧市街ですか。商会の方の住まいだったら倉庫なども併設されているんでしょうか?」
「ええ、ありますね。あと馬車が停められるような厩もあります。」
「まだ人は住んでいるんでしょうか?」
「えっと、後片付けと事後の処理のために管理人が一人います。借り手が決まればすぐに引き渡し可能です。」
「家自体は、僕達には大きすぎるんですが、部屋貸しを見つけるにしても先に気に入った家具などを購入して保管しておきたいのですが、数日間だけその倉庫を賃貸とか可能ですか?」
「ええ、それは問題ないですよ。一日銀貨1枚もあれば保管してくれると思います。」
「では、倉庫だけ借りる手続きをお願いできますか。」
その後、家の場所と取り敢えず3日分で、延長の場合にはその都度銀貨を支払うと言うことで倉庫を借りた。
「ジュンさん、家具を先に買うんですか?」
「うん、まあ気に入ったベッドとか、コンロとかね。先に買っておこうかと思って。」
リリアナは納得はしてないけど、何も言わず引き下がってくれた。
こう言うところはリリアナの性格がありがたい。
「それで、ルリは王都に行くと言うことでいいのかな?」
「うん。ジュンには、感謝しきれないぐらい感謝だけど、やっぱり妹のことほっとけないし。ジュンのお陰でルリでも冒険者として生活できるぐらいに力を着けて貰ったし。でも本当にいいの?この武器とか装備だけでも相当な価値があるのにルリが貰っても。」
「問題ないよ。それはすでにルリのものだしね。ルリのお陰でリリアナと出会えて、リリアナのレベルも上がったしね。」
「何だか申し訳ないな・・・」
「問題ないよ。その代わり王都で生活するなら、マリア孤児院のことを気にかけて貰えると嬉しいかな。」
「それはいいけど、私にこんな大金を預けていいの?マリア孤児院に行かないかもとか思わないの?」
「まあ、僕なりにルリのこと理解しているつもりだし。それに妹さんと似た様な境遇になるかもしれない孤児院の子供たちのことほっとけないでしょう?」
「まあね。取り敢えず、後数日は雇われてるし、最後まで頑張るよ。」
「あーそれは大丈夫だよ。取り敢えず、リリアナが地下10階に到達するまでって考えてたし。日数は残ってるけど、契約通り支払いはするよ。残金は銀貨25枚だよね。」
そう言って、金貨1枚を渡した。
「銀貨75枚分は、頑張ってくれたボーナス。そしてこれは妹さんを買い戻す時の足しにしてね。」
更にもう一枚金貨を乗せると、ルリが固まって動かなくなった。
「これだけで、妹の借金清算できるよ。私がコツコツ貯めてきた額より多いよ。」
妹さんの借金奴隷からの解放には金貨1枚もかからないらしい。
王都の雑貨店で働いているらしく、よくして貰ってるみたいだけどね。
ルリも今やC級昇格試験の受験申請できるほどのD級冒険者だし。
日々討伐系をこなしても十分生活できるレベルだ。
結局、翌朝の馬車で王都に戻ることになった。
選別に馬車の切符も買って上げたし、骨付き肉もたっぷり買って上げた。
後心配なのは、朝寝坊しないかってことだけだけど、起こしてやれば大丈夫だろう。
翌日、ルリを見送った後、リリアナを連れて家具や魔道具を買いに出かけた。
魔道具とは、魔物の核をエネルギーにして、火魔法、水魔法、光魔法などを作りだす道具のことだ。
薪を使った竈も使われているけど、お金に余裕がある人は、魔道具を使っている。
宿にあった、水洗トイレや、シャワーなども魔道具だ。
ともかく、野営でも使えるような簡易タイプの物と、家などに設置するタイプの物の両方を買い揃えた。
荷物は契約した倉庫に運んで貰った。
キングサイズのベッドや、テーブルやイスなどの家具、魔道具類などをその場でアイテムボックスに収納する訳にもいかないからね。
苦肉の策だ。
簡易タイプのコンロやシャワーについては、納得顔だったけど、家に常設する様な割と大型のオーブンも付いているようなコンロを選ばされてる時には怪訝そうな顔をしていた。
使うのはリリアナだしね。
リリアナが使い勝手がいい物ってことで選んで貰ったんだけど。
食器や、調理器具、調味料や、野菜や小麦粉などの食材もいろいろ買い求めて、夕方に借りている倉庫に行ってみた。
「こんにちは、倉庫をお借りしているジュンといいますが。」
「ああ、聞いてるよ。日中いろいろと荷物が届いたからね、倉庫に入れてあるよ。倉庫の鍵はこれね。契約が終わったら、ギルドの方に預けておいて貰っていいですから。私は、これで失礼しますよ。明日も日中はいますからね。契約は明日までですよね?」
「はい。明日までには馬車を持ってきて荷物を運び出しますから。」
管理人さんが立ち去るのを見届けてから倉庫に入り、荷物を確認した。
ちゃんとある。
「あの、ジュン様、ベッドは2ついらないですよね?ルリちゃんは王都へいきましたし。」
「ああ、取り敢えず予備と思ってね。大きなものをまとめて買ってた方が、今後必要になった時に手間がなくていいかなって思ってね。」
「ジュン様のやることですから必要なことなのでしょうが、この荷物を先に購入してどうされるんですか?」
「取り敢えず、迷宮の中に住もうかと思ってね。迷宮の地下13階には、セーフティーゾーンがあるみたいだしね。」
「なるほど、そう言うことだったんですね。でも13階までまだ先が長いですよ。」
「うん、取り敢えず、13階に着くまでは、僕が魔物を狩って先に進むつもり。セーフティーゾーンに着いてから、リリアナのレベルアップするから。」
「解りました。では明日から迷宮ですか?」
「そのつもり。出来れば、明日中には13階に到着するから。」
「11階もかなり広いと聞いてますが。」
「取り敢えず、12階の途中までは、道を見つけてるんだよ。ルリでも、中層だと下に降りる道が解り難いみたいでね。結局、俺がちょっとずつ進めてた。」
「ジュン様、いつの間に一人で・・・ああ、夕方私たちが出かける時に行かれてたんですね。」
「まあそんな感じ。自分の訓練もあったしね。お陰で探索系の能力付いたし。」
「そうなんですか?武術のスキルに、魔法スキル。更には探索系スキルですか。本当に素晴らしいです。」
その日いつものように夕食を食べて、寝る時になって初めて、部屋に2人っきりってことを意識した。ベッドは空いてるのに、いつものようにリリアナは俺のベッドに入って来る。
まあ、それだけだけどね。
リリアナも別に普通だ。
うーん兄妹が一緒に寝てる気分?
その日は、ルリもいないので、自分の魔法の練習をしながら、リリアナにも魔法の訓練を教えた。
魔法の訓練をしてやろうかって言ったら、凄い勢いで食いついてきた。
ベッドの上に向き合って座ってウンウン言いながらやってる姿は、なんとなくいけないことをしている気分だ。
リリアナによると、魔法の訓練は、貴族や、超お金持ちの人が、魔法師を家庭教師に雇って個人的に教えて貰うらしい。
才能がある子供は、数年指導を受けると魔法を使えるようになるけど、才能がなければ、精々火種を起こす程度の火魔法や、コップ一杯程度の水を出す程度の水魔法ぐらいしか使えないらしく、魔法スキルの発現もないこともあるらしい。
それでも子供の才能を伸ばすために、魔法師の家庭教師は引く手あまたらしい。
つまるところ、この世界でも、魔法職は憧れの職業であり、魔法スキルは憧れのスキルってことなのかな。
それでも、リリアナの話しの中で、魔法スキルが出なくても、生活魔法と言うべきちょっと便利な魔法は誰でも使えるようになるんじゃないかって感じた。
まあ、それをこれからリリアナを教えながら確かめて行く予定だ。
結局初日は、リリアナも何も掴めなかったようだ。
それでもこれから魔法訓練をして貰えると解って、機嫌良く眠った。