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購買部のお姉さん  作者: 石田空
後日談・設定メモ

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36/40

三田さんはヒーローにはなりたくない

三田さんが告白に至るまでの話

 昔っから言われていたのは、「芙美ちゃんはすごいね、格好いいね」だった。

 幼稚園のお遊戯会で『白雪姫』をする際、白雪姫の役はじゃんけんの末に組で一番可愛い女の子が射止めた。でも幼稚園児でも、男の子と女の子が揃うと何かとはやしたてられるのがわかってしまうのだ。組の男の子はこぞって王子様役を嫌がった。

 あまりにも先生が困ってしまったのを見兼ねて、「私が王子様をやってあげる」と、当時から空気を読んでしまう子供だった私は手を挙げてしまったのだ。

 お遊戯会はおおむね成功。その後、何かと女の子に「格好いい格好いい」と喜ばれてしまったのに、私は困った顔で笑ってしまうことしかできなかったような気がする。

 あの頃からかなあ。女の子といるよりも、男の子といる方が楽になってしまったのは。

 50m走をしていても、女子の平均よりも軽く上に行ってしまって、女子と混ぜると何かと問題があるからと、私は男子に混ざって体育をやるようになった。運動会の時、フォークダンスの際には人数が合わない場合は小柄な男子が女子側に回されたりしていたけれど、何故か私もその中に入れられていた。

 男子には女子認定されてないし、女子にも女子認定されていない。今思っても随分と不毛な小学生時代を送ったなあと思ってしまう。

 それでも。第二次性徴がやってくると、意地でも私の体のラインも男子とは違ってくるのだ。男子はどんどん声が野太くガラガラになっていくし、女子はどんどん丸みを帯びてくる。私も胸が出て来た辺りでようやく女子認定されうようになってきたけれど。

 でもまあ。

 男子と一緒にいる方が楽だなあっていうのは変わらなかった。別に少女マンガにありがちな「やめて私のために争わないで」みたいな趣向なんてない。むしろ少女マンガは気恥ずかしくって恋愛メインの話はあんまり読めない。

 腹の中で色々考えてしまうのは、私にはどうしても性に合わないし、グループであれこれ一緒にいるのも、トイレや職員室に行くのも皆と一緒にいないとと言う感覚も、どうも合わないだけだ。

 それを衛弥君や健斗君に言ってみたら、衛弥君は困った顔で「羽目を外し過ぎなければ」とだけ注意されたし、健斗君には目を細められて「女って何でそんなに面倒臭いんだ」と一蹴されてしまった。何でだろうね、私にもよくわからないや。

 見た目は女子だけどどこのグループにも属してない。男子と一緒にしゃべって馬鹿やってる方が性に合っている。

 そのせいか中学時代でもやっぱり私は女子カテゴリーにはカウントされず、バレンタインデーは女子から本命チョコをよくもらった。多分某劇団のトップスターにチョコを贈るのと同じ感覚なんだろうな。私は本命チョコをあげる相手もいないし、仲のいい男子に適当にコンビニで買って来たチョコレートを振る舞っていた。


「お前、それくれる気ねえの?」


 私以外からはチョコをもらってないサッカー馬鹿の健斗君はそう聞かれて、思わず目を細めた。


「私にくれたものを人にあげられる訳ないでしょ」


 本命チョコは丁重にお断りして、ファンチョコだけもらうことにした。

 私、こんなんだから女の子扱いされないんだろうなあとは自覚はあったけれど、どうすればいいのか全然わからなかった。

 転機は高校に入学してからだ。


****


 中学の時から、合気道をはじめていた。たまたま近所に道場があったのと、武道の上でだったら変に女子とか男子とかカテゴライズされないから楽だったのがある。

 幸塚高校に入ったのも、偏差値がちょうどよかったのと、合気道部があったということ。あと下手に人間関係がベタベタしてないというのも大きかったかな。これは同じ道場の人がそこの卒業生だったから、「芙美さんに合うんじゃない?」と言われたんだ。

 授業は楽しい。部活も楽しい。何より、男子と私がしゃべっていても、何かと勘ぐってくるような人もいなかったし、空気が程よく抜けてて楽だった。そう楽しく学校生活を送っている中で、会ったんだ。

 その日は学校の写生大会で、近所の植物園に出かけた。花はきれいだったけれど虫も随分飛んでいたし、日が随分と照っていた。絵を描きたいんだったら花の近くに寄らないと駄目だから、場所取りも随分と苦労したような気がする。

 花の近くの日影はもう定員オーバーだったから、仕方なく私は画材を持ってバラの近くで絵を描いていた。しばらく鉛筆を走らせていたら、暗くなった気がした。

 隣に座ったのは、男子だった。同じクラスだけれど、特に接点がなかった矢島君。部活も違うし、テストの時も出席番号が合わないから、近くの席になったことすらない。


「隣いい?」

「え? うん」


 写生大会の商品は食券だし、皆こぞっていい絵を描くぞと張り切っている。

 この空気が心地よかったけれど、場所取りで既にへばりそうになっている中、わざわざこんな場所で描く人が私以外にもいたのかと、ちょっとだけ意外だった。

 鉛筆である程度下書きができたから、後は塗ろうと水を汲みに行く。そのまま色をペタペタ塗りはじめた所で「あ」と隣から声がした。


「どうかした?」

「……ごめん、緑色の絵の具ある? 固まって全然出ないわ」

「あちゃー……」


 絵の具って放っておくと固まって全然出ないもんね。すごい絵を描くのを好きな人だったら「普段から使う色はパレットであらかじめ固めておく」って人だっているけど、普通の人はそこまで気合を入れない。

 私は慌てて矢島君のパレットに自分の絵の具のチューブを出してあげた。

 そして矢島君の絵を見て、思わず驚いた。すごいなあ……私なんて描きやすいようにって、バラと葉っぱしか書いてないのに、矢島君の絵は細かい。バラ園のアーチから花壇のレンガや空の色まで描かれていて、本当に薄い色で下塗りされている。


「すごいね、この絵……こんなに細かくなんて無理だよ」

「え? いや別にこれ位は」

「私なんてこんなに雑だよ? ほら」


 思わず塗りかけの絵を見せて笑うと、矢島君は何故か一瞬だけ困ったような顔をした。

 あれ? そういえば前に衛弥君に怒られたような気がする。

「芙美は男女関係なく同じ対応するから、その接し方をもうちょっと考えた方がいい」と。

 女子だけじゃなくって男子にまでそう思われちゃったら嫌だなあと思っていたのに、また距離感を間違えたような気がする。思わず自己嫌悪に陥りそうになったけれど、先に矢島君が声をかけてくれたおかげで変な空気にはならなかった。


「いや、三田はそれでいいと思う」

「そう?」

「うん」


 本当にたったそれだけ。

 たったそれだけなのに私は現金にそのことをずっと覚えていることになった。

 恋愛小説は恥ずかしくって読めない。少女マンガだって部活ものとかギャグだったら読めるけれど、恋愛メインの話は本当に無理。少年マンガだってラブコメは避ける程度には苦手で、恋のノウハウなんて全然わからない。だからたったそれだけのことがどうしてそんなに大事だったのか、自分でもよくわからないんだ。


「私って、変なのかな?」


 衛弥君に一度だけ相談したけれど、その際に心底実感こもった声で言われてしまった。


「人を好きになるのに理屈こねてたら、多分一生人を好きになんてなれないと思う」

「……いつの間にか好きな人でもできたの?」

「俺のことはいいから」


 ちなみに同じことを健斗君に言ったら、本気で面倒臭いという顔をされてしまった。本能赴くままに生きてると、惚れた腫れたが煩わしくなるのかもしれない。

 そんな一学期が終了しそうな時に、突然パソコン部の人達に襲撃された。


「三田さん! ゲームの登場人物のモデルになってくれない?」

「え……?」


 ゲームをする環境なんてないし、せいぜい狩りゲームを皆で一緒にする位で、ひとりでゲームをする趣味なんてない。

 話を聞いてみたら、パソコン部の文化祭でするプログラミングにもろもろの費用がかかるから、自分達で稼ぐために簡単なプログラムを打っているみたいだった。

 わからないからと素直に言ってみたら「じゃあ、これ読んでから決めて!?」と大量のシナリオを渡されてしまった。

 恋愛偏差値全然ない私にそんなこと任せていいのかな……。心配になったけれど、パソコン部の人達も本当に必死みたいだったから断る訳もいかない。私はそれをひとりで読みはじめた。

 何と言うか。人の話を聞いていたら、そんなに恋ってものにロマンを持ったりなんてできなかった。

 男子カテゴリーに入れられる私を主人公にしちゃっていいのかなと本当に心配になっていたけれど、読んでいると主人公の子が私をモデルにしているとは思えない位に一生懸命恋をしてるんだなあと思ったら、何故かものすごく応援したくなった。

 全部読み終わってから、「いいですよ」とパソコン部の人たちに言ったら、ものすごく喜ばれて、名東先生にもものすごく謝られてしまった。別に私とは全然違うからいいんだけどな。

 でも──。

 主人公の子は、言ったからフラれちゃったけど世界が変わったんだよね。私は男子に友達としか思われないから、言ったら矢島君困っちゃうかもしれない。でも……。

 たったひと言で世界が変わるんだったら、言ってみようかな。


 本当に、私の初恋の話は、全然大それたことのない、それだけの話。

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