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購買部のお姉さん  作者: 石田空
本編

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29/40

7月 6

 じわじわと自転車を漕いでいるだけでも汗ばむ位に朝の光の自己主張が強い。

 今日も一日暑い日になるだろうなと思いながら、私は学校への道を自転車で進む。まだ通勤中の人たちをまばらに見るだけで、テスト期間中なのもあって通学生徒は見当たらない。

 アルコールを摂っても、やっぱり二日酔いするほど飲まないし、次の日仕事でも残るほど弱くもない。せいぜいちょっと食べ過ぎたから朝ご飯をいつも食べるトーストを半分にして、それをコーヒーで流し込むというちょっとだけ少ない朝ご飯になっただけだ。

 会社で金庫を受け取ってから学校に到着すると、いつものように店の準備をしていて、ふと騒がしい声を耳にする。内容こそ全部は確認取れないけれど、小声も随分と集まれば充分な音声だ。テスト前だからというだけじゃない。カンニング騒動で割れているみたい。

 あの子、よね。多分……。私は思わず眉を潜めつつも準備を終える。

 さっきの内容が生徒に伝わらないといいけれど。そう私が勝手に気を揉みつつ釣り銭の準備をしている所で。


「すみませーん、ペットボトルのお茶くださーい」


 聞き慣れた声に、私は手を動かしつつ振り返る。

 さっきの職員室の話、聞いてないわよねと内心冷や汗をかきつつ、私はできるだけ普段通りの声を作った。


「あ、はーい。ごめんなさいね。すぐお釣りの準備するから……って、あら、今日は早いのね、瓜田君」

「はい! 今日は苦手科目だから、早めに来たんですー」

「今日はちゃんと筆記用具持ってきてた?」

「はーい、大丈夫でーす」

「うん、よかった」


 店の方に戻りながら、ペットボトルのお茶を取り出すと、瓜田君は小銭皿にお金をちょうど入れてくれた。と、そういえば、聞きたいことがあったんだ。私はペットボトルを受け取る瓜田君を見ながら、昨日酔っぱらった頭で考えていたことを言ってみる。


「ねえ、昨日テスト中に廊下で人を見なかった? やっぱりテスト中だったから気付かなかったかな?」


 一応教室はグラウンドが見える窓と廊下が見える窓が付いているから、廊下に人がいたら気付きそうなんだけど。聞くと瓜田君は目をパチパチとさせながら小首を傾げる。


「うーんと? なにかあったんですか?」

「あ、いや。別に見てないならいいの。昨日テスト中に学校の生徒さんが歩いてたから、もしかしてこっち側のトイレが壊れてるのかなあと……」


 こ、ここまでだったら、あまり問題ないとは思う。私があわあわしているのにやっぱり瓜田君は首を傾げつつも、「んー……」と記憶を探るように天井を見上げた。しばらくしてから、「あ」とひと言。


「なにかわかった?」

「普段あんまり見ない先輩が通ってたと思います。見たことあるかな、うーん……」

「うん」


 瓜田君が頭を捻っているのに、私は小銭皿のお金を回収しつつ、握り拳をつくってみる。が、頑張って! 私が見守っていると、ようやく瓜田君は「あ」とまたひと言言い放った。


「生徒会長さんだ」

「うん? 見間違いでなく?」

「うん。見間違いじゃないですよー。普段朝礼でよく見ますし」


 私は昨日見た子と、文化祭の準備でたびたび文房具を買いに来る快活な女子を頭の中で思い浮かべる。ふたりとも黒髪以外はなにひとつ共通点はないし、そもそも私は生徒会長の子を昨日見た覚えはない。

 ちょっと待って。なんで彼女を瓜田君が見てて、私は見てないの。それにそもそもどうしてあの普通の子を瓜田君は目撃してないの。あれ。

 瓜田君は私が頭の中であわあわとしているのに当然気付かず、「それじゃあそろそろ勉強してきますねー」と手を振るのに、私は力なく「頑張ってね」と手を振り返すことしかできなかった。

 私が思っている以上に、カンニング騒動は面倒くさいことになっているんじゃあ。

 そう思ったものの、それを伝える術が今の私にはない。そもそもこれを誰に言えばいいのかさえも、今の私にはわからない。


****


 私がひとり、そわそわと落ち着きなくただ気を揉んでいる間に、生徒達が学校に登校してきて、予鈴が鳴る。緊張感とお祭りムードのノリだけが学校内を支配してテストがはじまる。今日は瓜田君以降はお客さんはやってこないし、せいぜいテスト中にシャー芯がなくなった子たちがふたりほど書い足しに来た程度だ。

 暇過ぎてあくびを噛みしめつつ、私は瓜田君の話と自分が見たものの説明をどうつければいいんだろうと考え込んでしまっていた。

 そもそも、カンニングペーパーが見つかったのは職員トイレ。見つけたのは用務員さんで、何でそこに捨てたのかと言う謎がひとつ。

 謎と言えば生徒会長さんをどうして私が見なかったのか、あの女子は職員室の方に行ったのは目撃したのに。階によって学年が違うんだから、生徒会長さんは階段を使って降りてから職員トイレを借りたと言うならまだ説明はつくけれど、それだったらどうして瓜田君が目撃したのかの説明がつかない。そもそも職員トイレは職員室の隣なんだから、わざわざ職員室の階のトイレを使わずに一年生の階のトイレを使わないのか。動きに不可解な部分が多過ぎる。

 そして女子。階が違うんだから、瓜田君が目撃してないのも無理はないんだけど。どうして二年生の階のトイレが駄目なら三年生の階のトイレに行かなかったんだという謎が残る。これは私が難しく考え過ぎ? それとも?

 頭が痛いなと思いつつも、ひとまずは「留守です」の札を付けてから、私もトイレに行ってみることにした。外部業者もまた、職員トイレを使って欲しいとは言われているので、私も普通に使いに行ける。

 廊下を通り抜けて、トイレに行ってみる。職員室の方を見てみれば、テスト中だと試験監督の先生方以外は待機中だし、基本的に監督は贔屓目がないよう担任や担当の学年は外されて行われるから、残っている先生方は残っている。ぱっと見た所、名東先生はいないみたいだった。


「困りましたよね、これは」

「さすがにこれは揉み消しになりそうなんですが」


 廊下から聞こえてくる声はささやかで、今廊下に生徒たちが騒ぎながら歩いていたら聞き取れなくなりそうなボリュームしかない。先生方が話している言葉に、私は不穏なものを感じ取って思わず眉をひそめる。

 先生方が自分の生徒を信じないのは、あんまり好きじゃない。

 名東先生が何であそこまで怒っていたかわかった気がすると思いつつトイレに入ろうとしたところで、まだ続いている不穏な会話が耳に滑り込んできた。


「まさか生徒会長がカンニングなんて……」

「他の生徒でしたら停学なり謹慎処分にすれば済みますが、さすがにこれは」

「この学校のやり方も保護者たちから賛成半分反対半分ですからね。これは揉み消す以外にどうしようも……」


 私はイラッとしたまま、職員用トイレのドアに手をかけた。生徒たち用トイレみたいに開けていないそこは、化粧直しも兼ねて鏡は大き目にできていた。

 だから生徒会長はやってないんだってば。そもそも見てないんだから。私はトイレで用を足す訳でもなく、個室のひとつひとつを見ていた。生徒用トイレは当然生徒たちが当番制で掃除するのに対して、職員用トイレは用務員さんがきっちり掃除しているせいかやっつけ仕事みたいな雰囲気はない。

 女子だったらそりゃ綺麗なトイレに入りたいとは思うけれど、それだったらわざわざ疑われるようなことするかしらん。それに、そもそも職員用トイレを使うんだったら職員室の前を必ず通るんだから、職員室に残っている先生方に見られる可能性が高い。だとしたら。


「……そもそもカンニングペーパーを捨てたのは、テスト中じゃないんじゃ」


 用務員さんが発見して騒ぎになっているんだったら、用務員さんが見つけた時間。トイレ掃除を行う昼までに入れてしまえば、後はいくらでも誤魔化せる。そもそも盗難事件だったら警察が介入してくるだろうから問題があるだろうけど、カンニング騒動なんて学校の問題だ。アリバイや時間差なんていくらでも何とかなる。

 だとしたら次は、どうして瓜田君が生徒会長さんだけ目撃して、あの女子生徒さんは瓜田君の目も職員室側の目もすり抜けたのか。それがわかれば生徒会長さんの無罪は証明できるか。

 ……はあ。女子高時代は見て見ぬふりをしていたカンニング騒動を、何故か探偵ごっこして調べているなんて、去年の私に言ったら卒倒するわよ、絶対。でも……。私は誰も悪くなければいいなと、そう思わずにはいられないのよね。そりゃ世の中全員いい人じゃないから成立しているんだとは思うけど、勝てば官軍とも思ってないもの。

 時間を見てみたら、まだテスト終了まで時間はあるみたいだし、一年生の方のトイレも確認しておこうと階段を探してみることにした。

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