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空の色が変わりつつある。快晴ですっかりと青ざめていた空が、少しずつ少しずつ夕方へと近付きつつあり、太陽の光が金色に変わっていく。空の色だって金色へと変わりつつあるのだ。
体育祭も佳境に入り、ラストの競技へと移り変わって行く。校庭をドンドンドンと言う太鼓の音が響き渡り、応援団の声援も観客席のざわめきも極まっている頃。臨時購買部を眺めている影がふたつつあった。ふたりは顔を見合わせている。
体操服に鉢巻、腕には腕章はどこにもなく、長ランを羽織る事もないものだから、一般的な生徒だと言う事は誰が見ても明らかだ。
「……いやあ、こんなシナリオは計算に入れてなかったんだけどなあ」
「マァジでぇすかぁ?」
ふたりは親しいらしい砕けた会話で軽口を叩き合う。
「うん。本当にマジですかぁって言いたくなるよね」
「でもどうするよ、これ」
「うん、本当どうしようか」
今にもほら貝の音が鳴り響いても何もおかしくない程に感極まっている校庭ではあるが、誰だってやる気がある訳でもない。もちろんやる気が全くない訳でもないのだが、自分達の戦場がここではないと弁えているだけなのだ。
さぼっている訳でもなく、ただ応援席に座って皆みたいに立って応援していないだけ。ふたりは校庭の方を眺めつつ、騎馬戦の馬が崩されて「ギャー!!」と紅白どちらからも悲鳴と歓声が響き渡っているのを見ていた。
「シナリオから外れているとは言えども、面白いからいいんじゃないかな。でもまた調整はした方がいいかもね」
「うはははは……間に合いそう?」
「間に合いそうじゃない、間に合わせるの」
ふたりの目が輝いた。
体育祭には悪いが彼女たちの戦場ではない。彼女たちの戦場は別にある。そして彼女たちのショートカットされ過ぎた会話の意味を理解するものは、今のところ誰もいない。ふたりは臨時購買部で買ったペットボトルのお茶で喉を湿らせながら、勝敗を決して大騒ぎになっている観客席へと足早に戻っていった。
観客席に戻った後は表彰式に、校長先生の挨拶。そして賞品授与と相まって閉会式が行われる。先程までの白熱していた熱気はすっかりと薄らいで日常のテンションへと戻って行く様はただただ不思議なものだ。これから体育部であったら片付けが待っていたり、家に帰ればドロドロになった身体や体操服を洗うと言う作業が待っていると言うのに、清々しい程に日常へとテンションが戻っていってしまうのだ。胸には高揚感が確かに残っていると言うのに。
体育祭が終われば季節も変わる。
まだかろうじて暦の上では春だったものが終わりを迎え、じんわりと冷たい梅雨の季節がやってくる。それを超えれば──夏がやってくる。