プロローグ
荒れ果てた、山奥。
辺りには岩が密集していた。
一人の美しい若者が瀕死の状態で、同じく瀕死の娘を庇いながら逃げていた。
「私はもう…ここでさよならをしなければ…ならないようです」
娘の下半身と腹から大量の血を流している。
「駄目だ。俺の為に生きろ。」
娘は、桜の木にもたれかかる様に倒れる。
若者は残された力を振り絞って、娘を抱えようとしたが、先ほどの戦闘で腕が駄目になっていた。
「おやめ下さい。私の願いは貴方が生き残る事なのです。私と…生まれる筈だったやや子の為にも生きて下さい!」
娘の口から大量の血が吐き出された。
「もう喋るな。」
「私の愛しい人…。あなたは…幸せになれます。私には、見えるのです。遠い遠い未来に…。誰かと幸せになる様子が…。」
「俺には、お前しかおらぬ。」
娘は、若者の言葉が耳に届かなくなっていた。
「幸せになって。いつか、本当に愛おしい人が出来たら…迷わずその方を愛してあげて…」
娘は、渾身の力を込めて若者の目をじっと見つめる。
「…おい!おい!」
「あり…が…」
ゆっくりと身体が弛緩していき・・・その目にはもう二度と光を宿す事はなかった。
唇は、微笑みの形で固まっていた。
「うおおおおおお!!!!!」
叫んだ瞬間。若者の身体に数百本もの矢が一斉に突き刺さった。
「俺に力を・・・怨霊でもなんでもよい…俺に…。」
ゴホッと大量に吐血する。そして、一本の矢が若者の頭を貫通した。