【一幕】イタカという少女そして王との面会
連投ですが、書きだめてた分はコレで終わりです。
ゆっくりしていってね!
黄衣の王そう書かれた本をゆっくりと読み進めていたはずなのだがいつの間にか私は深く深く静かな眠りに着いた。
その夢はとても長かった。
周りを城壁で囲まれ、この世のものとも思えないほどの暗い緑色の石で作られ、地面にへばりつくほど、低い何か…
それがその星の建物だと知ったのは、だいぶ後のことになるのだが。
その地面の下から、今まで感じたことのない、身体ともに溶けるような、激しい恐ろしさと共に、何かに対しての忠誠心を植えつけようかとする感覚を感じていたのを覚えている。
それが何だったのか、私に何かを伝えようとしていたのか。もしくはそれ以外のもっと恐ろしい事をしようとしていたのか…
ハッキリと覚えているのは、とても美しい星団と宇宙…そして暗い湖からの視線…その視線に引っ張られるような感覚。
目の前が暗転したかと思うと見えてきたのは陽炎のように歪み不確かな世界の中、確固たる存在感を放ち、暗くさびしいその世界の中心であるのかと思うほどに私の目に焼きついた塔が立っていた。
塔の向こうには、複数の月や太陽…さまざまな天体がゆっくりと、されど確実に塔を横切っている。
何故か歩き出した私の足は、まっすぐに塔とは、反対の森へと進んでいった。
森を歩いている中、いつの間にか隣に一人の女の子が歩いていた。
何故こんな所に女の子がいるのだろうか。
雲のように白き肌、エメラルドグリーンのような深緑の瞳、そして、黄色いパーカーの袖から覗くまるで木片のような…腕?
明らかに、いつからそこにいたのか、もしかしたら初めから隣にいて気づかなかっただけなのかもしれない…そんなことを考えていたと思う。
ただその時の私は、話すことを…声の出し方をすぐに思い出せなかった。
そんな私の考えを読み取ったのか、彼女は冷たい表情を変えぬまま、口を開きこういった。
「森に入った時から、隣にいた…あなたが王の元に着けるように…この森の中で王の下にも着かぬまま、魂を失う事がない様に…」
彼女の白くされど暗いつめたい表情からつむがれる言葉は、何故だろう、一字一句忘れることができないような異様な雰囲気を漂わせた。
「ここは広い…そして様々な者たちが存在している…」
静かに囁く様につぶやいた言葉を聴いて私は気づいた。
周りにいるのは、彼女だけではない…蝙蝠、鳥、蟻、そして腐乱した人間を混ぜた様な、醜い何かがあっちこっちを飛んでいた。
さながら蜂と蜥蜴を混ぜあわせたような奇怪な姿をしたキメラと呼ぶに相応しい物が一匹?こちらを見ながら、どこかへと飛んでいった。
あたまを掻き乱すほどの騒音を立てながら、前からこちらへと飛んできたさっきとは別の者と思われるキメラは、私のほうを見て、話す。酷く低い声ではあったがかろうじて聞き取れた。
「ヌシガマッテル…ココロヲミダシテハ…イケナイ…」
心を乱す?主が待ってる?
「…お疲れ様…私が連れていく…大丈夫」
キメラと話す彼女の声が風のように耳をすり抜けて、私は何とか落ち着き声を出すことができた。
「ここは何処なんだ?貴様らは何者なんだ?何故私は此処に連れてこられたんだ?」
様々な疑問の言葉が、留め止めもなく浮かんでくるが、かろうじて聞けたのはその三つの問いだった。しかし、そんな問いは意味のない事だとでも言うかの如き答えが返ってくる。
「…スグニ…リカイデキル…イタカサマ…マカセル…」
「…了解…蜂蜜酒と秘薬…石笛を用意しておいて…」
「…ワカッタ」
イタカと呼ばれた少女とキメラが会話を終えるとキメラは、酷い羽音を立てながら、塔のほうへと向かった。
イタカ?どこかで聞いたことがある気がする。ただ何も思い出せない。
そして、蜂蜜酒や秘薬そして石笛とは一体…そんな事を考える暇もなくイタカは、私の腕をまるで雲のような純白の冷たい手で引っ張り、私を森の奥へと連れて歩く。
ただ暗く、ただ広かった森の先に湖が見え出し、空気が湿り気を帯びて、先ほど感じた引っ張られる感覚が少しずつ強くなっていく
湖の前まで歩いてくるとその感覚はよりいっそう強いものとなり、息をするのも困難なほど強く締め上げられた。
自分の体を潰す様な感覚に陥ることの恐怖よりも…
自分をここまで追い込む存在に対し、邪神を崇拝する狂った信者のように、圧倒的な力に頭をたれて、今まで持っていた日常や世の常というものすら忘れ、未だ見えぬ何かに対し、恐ろしくも美しい人間の本来持っていたであろう、生存本能を私は、無理やり引き出されていた。
圧倒的な何かの前に潰されかけていた私を引き戻したのは、冷たく…時に湿り気を帯びた風だった。
「…大丈夫…王の崇拝者が…王をすぐに呼んでくれるから、」
それは彼女の声から、いや口元か?から流れてきて、私の周りを取り巻く…
そして、さっきよりも彼女の声に感情がこもってきてるように感じた。
瞳はつい先ほどまでエメラルドのような美しい瞳だったが、漆黒の深い闇に染まり、肌はただひたすらに白く、冷たくなってるようだが…さっきも落ち着かせてくれたのは彼女だろう。
しばらくしてやっと落ち着いてくると、ブンブンとけたたましい音を立て、一瞬の間に先ほどのキメラが群をなして現われる。
羽を止めて一瞬の静寂の後、一斉に声?いや声に近い何かを、響かせ合唱が始まった。
いあ!いあ!はすたあ!はすた!くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ! いあ!いあ!はすたあ!
それは呪文のようだった。恐ろしい言葉の羅列…
その中に含まれたはすたあという言葉…
ハスター…
風の王…
そうか、私は王に呼ばれたのか。
しかし何故?あの本を読んだからか?
それとも他の理由があるのだろうか…
さまざまな疑問を浮かべると同時に、さっきまで私を撫でていた風は、凶器へと変わり肌を少しずつ強くなりながら裂いていく…
しかし、周りにそびえる木々も目の前に広がる湖の水面も、立つのさえ困難に思える風の中でさえ静寂を貫き通し、イタカは、さも日常のように水面を見つめ、キメラたちは変わらず、私の脳を内側から揺さぶるような呪文を何度も繰り返していた。
奇怪な者たちの合唱、不可解な風の挙動、そして、人に見えて人ならざる少女イタカ…
こんな恐怖と謎の深まった状況下で私は、激しい高揚を、心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
どうやら、年を取っても、いや年を取ったからこそ、今までを存分に生きてきたからこそ冒険に対する興奮は増しているのか?
自分で言うのもどうかとも思うが、色んな戦場を回り、様々な人と話し、殺し、そして生かしてきた、私に与えられた死という言葉を目の前に感じるこの環境は、とてつもなく恐ろしいもので、同時にとてつもなくうれしいものでもあった。
もうすでに…
私はこの世界が夢の中であることを忘れ、ただひたすらに偉大なる王の登場を待ち望んでいた。
魅入られてしまったのかもしれない…
だがそれも悪くないだろう。
圧倒的な力を前にすると人というのは、崩れ落ちるか、立ち上がるかの二択しか選べないのだ…
ならば、私は、未だ見ぬ王の前に立ちて、大嫌いだったはずの狂信者の一部に落ちていこう。
「いあ!いあ!はすたあ!あい!あい!はすたあ!」
様々な思いが私の中を駆け巡る中、キメラたちの唱える呪文を同じように叫ぶと、異変が起きた…
立つのさえ困難だった風がやみ、さっきまでの風の中で静寂を保ち、絵に写したかのように動くことのなかった水面や木々が、ざわざわと音を立てて激しく揺れだした…
そして…
王が来る…
脳裏に浮かびあがってきた、カルコサの地を読んだ詩…
その詩にあったように黄色い衣を纏い蒼白の仮面をつけた人のようないでたちだった。
しかし、水面から現われたその王の頭から足元までの長さの衣のしたから黒く妖気を放ち、タコに似たところもある触手が伸びる、西海岸にいるとされる巨大タコよりもかなり大きい。
たぶん10倍…いや20倍はあるだろう。
黄衣の王であるハスターがその黒き触手を振った。
すると私の周りに集まっていたキメラ達がいつの間にかいなくなった。
多分、瞬きよりも早く移動したのだろう。
そして王は、話し出す…
酷く耳障りな言語を用いて、私の脳に直接語りかけてくる…
『我…桃源郷に住まうものよ。お前の敵は何だ?』
敵?
今の私は、あの仕事の依頼次第でだれでも敵となるがあの資料は読んでなかったな…覚えてるのは、水の王クトゥルー…
「まだハッキリとは答えられないが。クトゥルー崇拝の狂信者達そして、クトゥルーというものだ…しかし、クトゥルーというのは水の王らしいが、私には何も分からない…」
すると、王は、黒く禍々しい触手をうねうねと動かし、まるで喜びを伝えるかのように蠢き…
グチャ…!
私が一瞬、瞬きをした時にはもう、私を貫いていた。
夢とは思えない痛みと共に、強烈な眠気…
薄れていく意識の中に感じる微かに左手を握られているような感覚…
『良かろう…目覚めよ我故郷に住まうものよ。我分身として…再びあの地に…』
その言葉を最後に私は、王の生まれた湖の中に頭から落ちていった…
次回は、何時になるか見当もつきません。小説という分野は、趣味というかリアルの息抜きみたいなものなので…ダラダラと続きを考えていかせて貰います。
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