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名門(袁亥さんの言うことを聞きなさい!美羽様の言う通り!)

枯れ野原に燃え広がる野火の様に大陸全土に飛び火した『黄巾の乱』。

長年、漢王朝を苦しめ続ける外夷が駿馬と桁外れの馬術による圧倒的な進撃力と嵐の様な去り方から疫病に例えられたそれとは違い、駿馬も無く訓練による軍事力も無いただの農民の反乱を独力で鎮圧出来ない姿は大陸全土に漢王朝への不満と不信を染み渡らせた。枯れ草に染み込ませた油の様に。それを知る者はーー確実に居た。



いつの間にやら、袁家の優秀な頭脳達が黄巾賊の本隊を見つけたご様子。基本的に打って出るのは孫策さん達で、袁術軍は専守防衛に勤しんでいます。言うなれば孫策さんは剣、我等は盾だ。

とか言えれば格好いいんですが、黄蓋さんみたいな経験に裏打ちされた歴戦の強者とか、孫策さんみたいな無茶を通せば道理が引っ込む様な人外は居ないのが現実。生きるのが……辛い。

農民上がりとは言え、人が百人も居れば一人、二人と自然と周りを引っ張る人材が現れるもので所詮は一般人の域を出ない袁家の人材では戦う前に圧倒的な兵力差を揃えなければか弱いご婦人の様にアッサリと押し負けるのが現実。横綱並の粘り腰を持った女性しか見た事が無いのも現実……生きるのが、辛い。

自然と孫策さん達に割り振る仕事が無茶振りになっていくのも自明の理。いつ「やってられるか、この○○野郎!」とかぶちギレられるかビクビクしているんですが、こめかみに青筋浮かべながら大人しくしている孫策さんに小さい頃には口より先に拳が出ていた姿を重ねて成長したなー、とか感慨に浸る袁垓さんでございます。

ところで、なんで孫策さんは自分を睨むのでしょうか。今日は袁術様や張勲さんが自分の意見の尻馬に乗らない様に、一言も喋って無いのですが。

とりあえず、無難に、なあなに、波風立たない様にまとめる魔法の言葉を今、ここに。

「袁垓さんの言う事を聞きなさい!」

「美羽様の言う通り!」

……あれ?


「黄巾党の殲滅する時は正に今、と思わんかのう?」

したり顔で人差し指をクルクル回す袁術に一理あると神妙に頷く孫策。

「時期はいいわ。枝葉は刈り取られ、幹である黄巾党本隊が姿を隠せなくなった今は絶好の討ち取り時だけど……」

続く言葉を言い渋る孫策に不思議そうな表情の張勲。

「あれあれあれ~?

最近、黄巾党相手には連戦連勝の英雄様が弱気なのは何ででしょうね美羽様」

「うむぅ、民達に英雄とか祭り上げられておるのに不思議な話じゃの?」

わざとらしく孫策から視線を外し、如何にも訳が判らないとばかりに顔を見合わせる袁術と張勲。

その茶番にイラつきを隠しきれず、僅かに声を震わせる孫策。

「実績を買ってくれるのは有り難いけどね。単純に兵数が足りないのよ。黄巾党本隊の兵数が……」

「二十万との報告を受けてますね。孫策さんの手持ちの兵数が一万位でしたっけ?」

シレッ、と孫策軍の内情を暴露する張勲に孫策の顔が強張る。今までは知らない、興味すら持っていなかった孫策の手勢を何故この女は知っているのか。孫策の存在を意識し始めたのか、目立ち過ぎて二心がある事を疑い始めたのか。

袁術は元より、袁術と一心同体とも言える張勲に反抗の兆しを悟られては今までの苦労が水の泡と化してしまう。そんな、内心の狼狽を表にも出さず孫策はどうにもならない苦境を信頼する上司に相談する様に真摯に諦め半分のどうしようめなさを枯れかけた声色で訴える。

「流石に二十倍もの数を相手にしたら命がいくつあっても足りないわよ」

「私と美羽様が二十人居ても孫策さんには勝てなさそうですけどねー」

「わははは、七乃は面白い事を言うのう。流石にそれは無いのじゃ」

無邪気に笑い飛ばす袁術であり、

「そうですよねー。流石に孫策さんもそこまで化物染みた筋肉お化けな訳無いですよねー」

コツン、と自分の頭を叩いて照れ笑いをする張勲。

袁術や張勲が二十人居ても一人で全て撫で斬りに出来る自信のある孫策だが、それを肯定すると自分で自分を化物染みた筋肉お化けと認める事になりそうで内面に行き場のない怒りが溜まってたりする。

ちなみに涼しい顔で我関せずを貫く袁垓の態度もイラつきの原因になっている。何時もなら何かしら一言で場をまとめるのだが、今日に限って一言も発していないせいで延々と袁術と張勲の漫才トークを聞かされる羽目になっている。何かしらの助け船を出しなさいよ。と、孫策が睨めば光のこもらない疲れた様な目で見下ろして来るだけ。

つまりは、孫策から何らかの言質を引き出したいのだろう。袁術や袁垓にとって時間は重要ではなく、呉の再建を乱世に間に合わせなければならない孫策にとって時間は一秒でも惜しい。袁術から兵を借りれば孫策の名声は埋もれる。だが、ここで黄巾党の最期に関わらなければ孫呉の名は歴史に埋もれる。

(割りに合わないわよね、どう考えても)

普通に考えれば無謀で無策で無謀な道理に合わぬ皮算用。されど、虎穴に入らずんば虎児を得ずの言葉通りに危ない橋を渡らねばそれ相応の成果を得られぬのがこの世の道理。

「でも、そうね。例えばだけど……」

孫策の心臓がキュッと縮まり、わずかに呼吸が乱れる。

「各地に散った呉の旧臣が揃えば、黄巾党を撃破する目も出てくるでしょうね」

元々は呉が再建するのを防ぐ意味合いで各地に出向、軟禁させられた呉の旧臣を集めてさまうのは袁家の意には沿わない。

だが、

「なんじゃ、そんな程度でよいのなら認めるのじゃ。さっさと呼び寄せて黄巾党なんぞ蹴散らすのじゃ」

アッサリと認める袁術の言葉に肩透かしを食らい、ずっこけそうになる孫策。

(馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、本当に何も考えてないのかしら)

何やら悲壮な決意をした自分が馬鹿らしくなるが、孫呉再建の目処がこれで立つ。ようやく見えてきた明るい展望に浮き立つ気分が口から出る言葉を軽くする。

「了解……それじゃあ」

「あ、一応。袁垓さんにも聞いておきましょう、美羽様」

「ん、そう言えば今日は何も喋っておらぬではないか。許すぞ、袁垓。何か言うのじゃ」

うららかな日差しの射す自室にいきなり抜き身の剣を持った狂人が現れた様な、想像すら出来なかった事態に孫策の背中から冷や汗が玉になって流れ出した。

袁垓に意見を求める可能性を完全に失念していたのだ。

いつも立っているだけの男だ。

いつも自らの意見など言わぬ男だ。

独力で地位や富を得るには無芸で無能な男だ。

だが、この男は馬鹿ではない。

袁家という生まれながらに地位と名声を得る立場にありながら自らを過信しない男だ。

袁家に生まれればそれだけで未来は約束され、周りは袁家の人間を持て囃す他人のみ、更にはねだれば手に入らない物は無い、とくれば自分が特別な人間だと思うのは当たり前でそれが普通である。例え、どんな馬鹿でも考え無しの愚物であろうとも『袁家の人間』とは他人と一線を画す『特別な人間』なのである。

袁亥と言う人間は他人より頭が回る訳では無く、ましてや腕がたつ訳でも無く、孫策の様に勘が良い訳では無い。ただ、彼は袁家にありながら傲慢にも馬鹿にもならないだけの理性を保つ狂人なだけである。

話を振られても探る様に孫策から視線を外さない袁亥に袁術と張勲は首を傾げ、孫策は額に汗を浮かべ始める。

一言、そのたった一言で孫呉の再建は遅くも早くもなるだろう。袁術や張勲は袁亥を信頼している。無芸無能はともかく、自分達を裏切らないという奇妙な信頼を袁亥に持っている。あるいは類は類いを呼ぶの言葉通りに、底辺同士の連帯感を持っているだけかも知れないが。

「ほれ、袁亥。妾の意見に賛成であろ?

孫策も部下がいなくて寂しいようだしの。全くいい齢して寂しがりやとは恥ずかしいものじゃ、うははははは」

「美羽様も一人寝が出来ないお子様なのに棚にあげるのは一人前過ぎですよー。この三国一の棚上げ上手、甘えん坊の赤ちゃん美羽様めっ」

ヒラヒラと袖を振り回して笑う袁術と囃子をとっておだてる張勲に目もくれず、袁亥は孫策から視線を外さない。

(そんなに見てももう何も出ないわよっ!)

孫策は袁亥の何も見てないかのように視線の先を悟らせない、黒く濁った瞳に苛立ちながら睨み返す。

見ているのに見ていない、矛盾しているのに孫策の勘もそれを肯定する。自分の勘が袁亥には働きにくい、という周瑜の言葉を思い出す。正しくそれに違いない。袁亥は何も見ていないと孫策の勘は太鼓判を押すのに、袁亥は孫策を注視し続けているのが今の現実。

孫策にとって目下のところ、最大の仮想敵は袁術だが苦手とするのは袁亥で二人は腹心とその主である。

(まあ、それでこそ遣り甲斐もある。って思えるのは私の良いところよね)

周瑜あたりが聴いたなら眉をしかめて溜め息をつきそうな台詞と共に孫策は腰を据え直す。袁術は与し易いが、袁亥は侮れないという事実に改めて向き直る。負の要素が増えたにも関わらず腹の底から湧き上がる様な熱意と四肢が猛り狂いそうになるウズきが走るのは反骨の気ととるか、南の地特有の熱く猛る奔流を乗りこなす大器の器と見るかは後世の歴史家が判断する事だろう。

孫策からみなぎる気配に袁亥は軽く身を震わせ、諦めた様にノリノリで騒ぐ袁術と張勲の言葉に追従した。

「さあ、言ってやるのじゃ袁亥よ。孫策は独り身の寂しいOLみたいに『自分にご褒美☆』が欲しい寂しがり屋のお子様じゃとな!

OLってなんじゃ、七乃?」

「さっぱり分かりませーん。孫策さんも袁亥さんの言うことを聞きなさい!」

「美羽様の言う通り!」



袁術に呼ばれた孫策が黄巾党の本隊を討伐するという命令を受けて帰った日。周瑜達は旧臣を呼び戻せる喜びよりも、普段は飄々として気分屋な孫策がかつてないほどに機嫌が悪く、孫策の機嫌を持ち直すのに多大な労力を強いられたのは別の話。

そして、この時に浮かべた孫策の表情を袁術、袁亥、張勲は一週間ほど夢に見てうなされるのはまた更に別の話である。

言いたかっただけー!!

最初は何気無く書いて、本当に何気なくググったらヒットしたのでタイトルにまでしてしまった始末。流行りネタは廃れるから止めろとあれほど…(ry

話を進めると言うよりは最後への伏線かと。袁亥さんが主役なんだよね、一応。正直、孫策さんを書いていた方が小説書いている気分になる。不思議ダネッ!

次回は主要キャラがほぼオールキャストな予定。真ではルートによって違いますが呉ルートに則った筋になります。

袁亥さんは生き残れるのかっ!?

油断すると瞬殺なキャラなんで心臓ドキドキさせながら書いています。ちなみに孫策さんが逆上して斬りかかったら逃げる事も出来ずに袁亥さんは即死です。助けなんか入りません。本当に心臓に悪いキャラだなぁ。

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