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名門(開戦)

「これは……意外と言うべきかしらね」


曹操は素直に驚きを露にしてそう言った。

虎牢関を前にして敷かれた布陣、虎牢関に向かって右陣を曹操、左陣を孫策、本陣を袁紹として先陣は劉備。

本来ならば最も数が少ない劉備は捨て石の扱いだが、そこには袁術家から供出された二万の兵が加わり攻城戦に耐える体裁を取っていた。

何より、劉備軍の前方に翻る水色に近い薄い青に白い一文字が曹操のみならず反董卓連合全軍に衝撃を与えている。

銀と蒼、そして深紅に染め抜かれた虎牢関に翻る牙門旗に対し余りにも控え目で弱々しく映る『垓』の一文字。

それが劉備軍の、反董卓連合の先陣に翻る名門袁家が勇名を天下に示す一文字となったのだった。



戦場なう。

まあ、それはいい。良くはないが、名門袁家の二枚看板(二番煎じ)と言う立場なら有り得る事だったので判らなくもない。

ただ、剣も槍も弓矢も使えない自分が先陣の本当に一番前に居る意味は本気で判らない。

鎧兜なんか着けてないから、投石一発で普通に死ぬよ。段差が無くても行軍だけで尻のダメージが限界突破する名門は、オワタ式も真っ青の死にっぷりを披露出来るよ。


「袁垓様は必ずお守りしますので」


隣に居る関羽さんが悲壮感満載で声を震わせています。うん、ただでさえ董卓軍武力TOP3が勢揃いしているのに護衛対象まで居たら普通に無理ゲーだよね。ごめんなさい、私は袁家してしまった。

でも、関羽さんは何かこう弄られ体質というか悲壮感のある顔が似合う美人さんである。目を吊り上げて口を歪ませ、一生懸命に立ち向かおうとする姿は何よりも美しい……くっ、殺せとか言ってくれないかな?

いかん、また思考が乱れる。


「まあ、我々に全てお任せ下されば善い。大船に乗った気でおられるがいいですぞ」


反対側には趙雲さん。関羽さんとは対照的に自信満々といった感じです。飄々とした感じながら、下着が見えてしまいそうな丈のスカートやしなを作った身振りは女性的な魅力が素晴らしい。関羽さんの白いフリルに閉じ込められたボンバーなミサイルも最高ですが、上から覗けるハラショーなロケットも至高です。眼福至極でございます。

ただ、槍を握る手に汗をかいているのでやはり緊張はかなりしているご様子。うん、ごめんなさい、袁家過ぎてごめんなさい。


「にゃー、こんなんじゃ突撃、粉砕、玉砕出来ないのだ」


後ろには目が届きませんが元気っ娘No1の張飛さんまで控える豪華っぷり。何やら人生で一番華やかな環境になった気がします。

死に一番近い環境でもあるのが笑えない。笑えない。


「な、何やってるんですか~、鋭羽さん~!?


リアルで七乃さんの声が聞こえました。

幸いというか、自分の真名を知ってる人は袁術様と張勲さん、それに孫策さんと周瑜さんのみ。周りの方は袁術様の腹心の張勲が何か叫んでいるなー、という認識のみ。

ただ、こんだけ人が居るなかで自分の真名を叫ばれるのは自宅で両親にアダ名で呼ばれてるのを暴露されるような気分になります。

例えるなら、学校に弁当を届けに来た母親に


「ガッ君居ますか?

あ、ガッ君だ。お弁当忘れてたわよ~!」


とか大声で叫ばれるようなものか。


七乃さん、後で天幕裏な。


「あらら、袁垓ってばどうしちゃったのかしら」


孫策は後頭部をかきながら呆れた様な感心したような顔で翻る牙門旗を見やる。


「袁術が戦働き出来ぬ代わりに、という訳でも無かろうしな」


戦場の駆け引きに豊富な黄蓋も呆れつつ、即断を避ける。


「攻城戦になるのを見越して、比較的波乱が起きにくい初戦だけでも前に出る……政治的に見れば全軍の鼓舞に繋がる、か。しかし、袁紹や袁術ならともかく袁垓では効果が薄い気がするが」


周瑜も袁垓の無謀に何とか意味を見いだそうとして苦慮していた。

そんな中で孫権は黄布が滅びる時に見た袁垓を思い出す。普段には無い迸る熱気、熱に浮かされ滑らした漢王朝への不敬、そして炎が宿っていた暗い瞳。端から見れば傲岸無比、冷静沈着な袁垓がうっかりと漏らした内面。それを知る孫権だからこそ、


「袁垓は勢いに任せて前線に出てしまったのでは?」


その言葉が口をつく。

そんな孫権の言葉に孫策は呆れの感情を強くして



「まさか、あの袁垓がそんな……」


だが、言葉は続けられない。自分の言葉に直感が囁く。それは違うのではないか、と。

口をつぐんだ孫策を見て周瑜は孫権の考えに一理がある確信を得る。


「そうだな、袁垓は凡人だ。本人がそれを一番知っているからこそ、私達は奴が無謀をする事に違和感を感じる。しかし、袁垓は凡人だからこそ勢い任せに事を進める可能性もあると考えてもよい」


前線に翻る垓の一文字を見据える。


「蓮華様、その慧眼。私達の大きな力になるでしょう」


袁術から独立する為に最も強大な障害となり得る袁垓という巨人。袁家そのものと言っていいそれに見つけた揺らぎ。それは孫権の、袁垓の懐に飛び込み袁家という先入観が強くない孫権だからこそ掴まえた尻尾。今回の戦いで得られた最大の収穫になるかも知れないそれを捉えた孫権は孫策に誉められながら、頬を赤くするのだった。そして、そんな孫権に次代の王としての資質を見た周瑜は微笑み、


(雪蓮だけではなく、蓮華様にも永く仕えたいものだな)


と強く思うのだった。



おう、何かブルッと来た。

ギャンブルで相手に心の中を読まれた、と確信した瞬間の寒気と共に走る言い知れぬ嫌悪感。


なんてね。


実際は、後で天幕に連れ込んだ七乃さんに腹パン喰らわないか戦々恐々としているせいでしょう。意外と力強いんですよね七乃さん。

さて、事前に知り得た情報では董卓さんに仕える武将は華雄、張遼、呂布の三人。いずれも一軍を率いるだけでなく、個人の武勇にも優れた猛将揃いと聞いています。

……何で全員ここ(虎牢関)に居るの?

おかしいでしょ、とか思いましたが諸葛亮さんが、はわわ言いながら


「恐らく、兵を無駄に損なわずに一撃を持ってこちらを潰走せしめる為に各所の関所に見張りを置き、退きながら決戦として虎牢関を選んだのでは」


との事。籠城戦では攻める側が三倍の数が必要と言われていますし、兵を損なわない内に関所を捨てればいい様な気もしますが、そこで鳳統さんが


「董卓さんには持久戦をしたくない理由があると思われます。二十万の軍を持つ董卓さんの軍を洛陽だけで保つにはやや荷が重いですし、政治的にも華々しく一回の戦いで私達を打ち破るのは董卓さんにとっても今後に有利な名声となります」


と、魔女っ娘帽子を目深に被りながらあわあわ説明してくれました。自分は劉備さんと一緒に、なるほどなぁ、とアホの子をしてます。戦争って奥が深いなぁ、と思いました。戦って勝てばいいだけじゃないのね。袁垓、一つ覚えた。

しかし、先陣に立つのはマジ震えます。

虎牢関デカイし厳ついし、七転八倒しそうなのは自分だよって感じだよ。大体、あのクソデカイ鉄扉を開くのだって何日かかる事やら


ギシィ


と、鉄が歯ぎしりした様な音を立てて虎牢関の巨大で見る者を威圧する門が開く。

悠然とした歩みが、散歩に出かける様なゆったりとした一歩一歩が、その場に対峙する者全てに地獄の裁判官が叩く木槌の様に無情で冷徹な宣告の前振りに聞こえた。

声が聞こえる。


「呂布だ……」


遠くから近くから


「呂布だ」


遠雷の如く小さく転がり


「呂布」


「呂布だ!」


気付いた時には耳をつんざく轟音となり響く


「呂布だーー!!」


黄布三万を単騎で蹂躙し、潰走せしめた『人中』の呂布が反董卓連合の前に現れたのだった。


(ゆえ)を殺しに来た奴等は、皆死ね」


ここに反董卓連合と董卓軍の開戦の狼煙は上がる。


(あ、これ自分死んだわ)


慌てず、騒がず自分の死を受け入れた名門も居た。

歴史は万雷の如く恐慌をきたす劉備軍と、波一つ立たぬ水面を思わせる動きで粛々と陣形を揃える袁垓軍の対比を克明に記している。


そして、自軍の恐慌を治める為に関羽達が気をとられる間に繰り広げられたのは三國志史上屈指の名場面として語られることとなる最弱の将、袁垓と最強の将、呂布による戦いだったのだ。


(人生、終~了~!!)


全てを諦めた男が居た事は余り知られていない。

ようやっと戦争開始。

袁垓さんは生き残れるのか。


ちなみに最弱の将と書きましたが、後生で出るゲームなどで袁垓さんは文官なのに武官扱いされているせいです。

武官扱いのキャラの中では最弱という意味で、一般人としては最低限の護身術は修めてますので荀いくなどよりは普通に強いです。


需要があるか判りませんが、某ゲーム風の袁垓さんのステータス例。


袁垓統致

統率 24

武力 22

知力 41

政治 32

魅力 62

忠誠 18

兵法 無し(習得も不可)

ってな感じです。

あらゆる文献に無芸無能は明記され、本人の手記や手紙にも自分の無才を嘆くものがあるのでこんな評価。

ただ、イベントが滅茶苦茶一杯発生して自軍を強化していく事で釣り合いをとるタイプ。

豪族から兵を取り上げた、とか自費を投じて市場を活性化させた、とかで数値以上に働くキャラですね。そして、反董卓戦の初戦にしか前線に出なかったのに余りにも舞台や小説で書かれ過ぎて武官扱いになってしまう袁垓さん……強く生きて欲しい。

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