名門(他力本願)
「あれが虎牢関ですか……」
「はい、難攻不落絶対無敵七転八倒虎牢関です」
馬をカッポレカッポレ歩かせて見るは両側を険しい崖に挟まれた厳めしい要塞。
途中に幾つかの関がありましたが、もぬけの殻か見張りが居た跡が残っていただけ。董卓さんは世に二つとない、この虎牢関を連合軍に当てる最初の戦場に選んだようです。
何かそこら辺の董卓さんの意図とかを袁術家から付いてきている文官さんとかに聞きたかったんですが、劉備さんとこの諸葛亮さんがずっと側に居て聞けない空気。
馬に乗る尻の痛みを忘れる為にちょこちょこ話しているんですが、最近の幼女は頭が良すぎなのではないかと、自分が無能過ぎるのかと。
何で天気の話しから、今年の領内の取れ高とかの話しに繋がるんだろうか。何で今日の夕飯の話しから糧食の効率的な運用方法の話しになるのだろうか。
袁紹様の所に居た荀いくちゃんとか思い出します。あの子もすげぇ頭の回転が早くて、話が次から次に展開していくから袁垓さんは頷くだけしか出来ないマシーンになってました。相槌を打ち、「成る程」「仰る通り」「私も同感です」「なんとっ!?」「聞いていますとも」の五種類を繰り返すだけの簡単な機能が付いています。
世渡りには必須の技術。名門のたしなみでございます。
見た目は幼女ですが、立派な淑女として扱うのも名門のたしなみ。毅然として馬に乗り、難しい話をする諸葛亮さんを愛でるのは心の中だけに閉じ込め、袁家流外面は添えるだけ……ああ、世界は癒しに満ちている。
「袁垓様は虎牢関をどう攻めようとお考えでしょうか?」
諸葛亮さんの爆弾発言に、心の中でクジラが潮を噴く勢いで口から色々吹き出しました。おま、お前は俺に0から1を生み出せというのか。それは無から有を生み出す神の如き所業に匹敵する行為だよ?
袁家の人間が生産的な意見を出すとか、主人公でもぶち壊せない位の幻想よ?
「さて、私は兵を連れて来ましたが戦うとは明言していませんので」
しかし、名門は慌てない。袁垓は蝶の様に舞い、落ちる枯れ葉の様に回避する。
「袁術様からの大事な兵を預かる身としては、袁術様の代理である袁垓様の意向を一考の余地としておきたい赤心(誠意、ありのままの心)もご理解頂けるかと」
袁垓は諸葛亮に回り込まれた!
うむむ、下手に出ていると見せかけての意見強要とは。流石、軍師は汚いな、でも幼女は可愛いな。腹黒もまたよし(柏手)
よし、大分追い詰められたな。どうしよう、諦めよう。流れる様に考える余地など一切ない無理ゲーである。
「ならば、先頭に私が出ましょう」
「えっ?」
「私が居る場所が本陣であり、私が居る場所こそが戦うべき場所ですから」
あれだ。取り合えず前に出れば皆が色々考えて何とかしてくれるだろう。袁家が誇る最後にして唯一の武器、他力本願(何もしない)。これこそが我が策略よっ!
さあ、諸葛亮さん呆れて物も言えない幼女の顔をプリーズ。袁術様では出せない魅力を私の脳内に焼き付けさせて……何でそんなに恐い顔をしているのん?
あれかな、袁家し過ぎたかな。七乃さん、約束は守れませんでした。他所に行こうと袁家は袁家。ボンクラ以外にはなれない定め。ああ、袁垓よ袁家してしまうとは情けない。そんな感じで遠い目をした私の目には虎牢関にひるがえる牙門旗が映る。銀糸に白も目映い華の一文字、蒼に翠が走る俊烈な張の一文字、そして紅に染まり目に焼き付く様な激烈な呂の一文字呂の旗が。
反董卓連合、否、後に群雄割拠となる大陸において覇を競う英傑達が最初にして最大の苦戦を強いられた最強の軍。董卓軍との激戦はここから始まったのだった。
更に短くなりました。
次からは長くなるし(震え声)
しばらく袁垓さんの外面が多くなり、コミカルな部分が減るかと思われます。名門(真)の戦いはこれからだっ!