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名門(王の資質)

「袁垓さん何処かへ行かれるんですか?」


袁術を寝かし付けた張勲が部下と共に慌ただしく声を飛ばし合っている袁垓を見て、目を白黒させながら声をかける。


「今から劉備殿の所に兵と糧食を届ける所です」


珍しく部下に指示を飛ばしている袁垓が竹簡に何かを書き付けながら、首だけを張勲に向けて応えた。


「そうですか、夕飯は美羽様とご一緒しますか?」


それは単なる確認で、そうなるのが当たり前である事が前提の確認作業だった。


「いえ、しばらくは劉備殿と行動を共にします」


だから、その一言を聞いた張勲はたっぷりと十秒ほど間を置いてから


「え、えええええ~!?」


驚きの叫びを上げたのだった。



「あの美羽様一番の鋭羽さんが何でまた……」


七乃さんに無人の天幕に引っ張り込まれました。

劉備さんの所にご厄介になる自分を心配したのでしょうか。大丈夫、他所の家ではあんまり袁家しないよ?


「糧食だけならともかく、兵を預けるのに誰も付けないというのはマズいかと思いまして」


流石に兵を指揮する隊長とかは付いていきますが、名目上だけとはいえ責任者も必要です。いちいち隊長格に確認とっていると日が暮れますし、戦闘中なんかは一括で仕切りを取れる人は必ず必要になります。

袁術家はそこら辺の人材は皆無なので、自分か七乃さんが仕方無くやっているのです。ほとんど左から右の流れ作業ですが、まあ形式は大事ですよ?


「私と美羽様を見捨てるんですね、この鬼、悪魔、人でなし」


よよよ、と口元を抑え泣き崩れる七乃さんにはつい手を差し伸べたくなります。


「残念ながら曹操さんに嫌われ、袁紹様と美羽様は反りが合わないようですので……」


ぐっ、と(こら)えて見たものの、結局耐えきれずに七乃さんに手を貸して優しく立ち上がらせます。


「劉備さんと親交を交わそうと?」


目元の涙をすくい、頬を赤くした七乃さんがかすれ声で囁く。


「交わせますかね?」


真面目な顔で聞いてみる。


「犬みたいに這いつくばってでも歓心を買って来てくださいね」


普段、美羽様に向ける笑顔と同じ顔で仰る七乃さんは有能な所以外は本当に自分とよく似ているなぁ、と思いました。




そんなこんなで用意も整い、劉備さんの陣地にやって参りました。

やはりというか番をしている兵士からして装備が摩りきれた鎧だったりしています。袁家では金色の装備が主流で、これがまた毎日磨かないと曇ってしまうのが困りもの。点呼を取る時にチェックされて磨き残しがあると兜、鎧、弓矢、剣か槍のフルセットで本気ダッシュの罰です。重くてきつくて死にます。

それでも、劉備さんの軍は士気が高いらしく動きもキビキビとしているのは流石ですね。先達の文官さんが自分の名前を伝えると慌てながら頭を下げて中に通して頂きました。そんなに緊張しなくていいのよボーイ、楽にしてねとばかりに笑顔を向けましたが何か半泣きになってしまいました。空気が重い。

劉備さんの本陣も最低限の仕切りという感じで、入る時はピクニックでテントに入る時の様なドキワク感があります。袁家の本陣は最早家の領域に達しつつあるので、ドレスコードとか気になるレベルです。落ち着かない。

そして、劉備さんの配下の方々と対面した訳ですが……そこはアイドル決勝戦だった!

いや、すいません混乱しました。袁垓は混乱している!

まず劉備さんは世界ランキングなのは周知の事実、関羽さんも知っている。張飛さんも美羽様とはタイプの違う明朗さのある元気っ娘だ。

だが、ナースと魔法少女が加わるとはこは如何に。誰ぞプロデューサーを呼べい!

と、脳内アイドルプロデュースが始まっています。社長は任せろ、金ならあるぞ。


「袁垓様自らのご出来(しゅつらい)感謝です」


「何、金ならありますので」


あ、やべ。声に出てた。




はわわ、袁垓さんが本当に来てしまいました。

董卓を倒さんとして集まっているこの連合で、何処かの陣営に肩入れするというのは余計な敵を作る行為に他なりません。

反董卓連合として一同に会して居るとはいえ、実際に董卓を倒そうとしているのは袁紹さん位です。

例えば、董卓軍相手に戦功を上げて名声を高める為。例えば、帝を手にして政治的な優位を得る為。例えば、漢王朝に対する純粋な忠誠心の為。

それぞれに思惑があり、それぞれに建前があります。

袁術さんの方針はよく判りませんが、袁家が一枚岩でないのは桃香様から聞いた軍義の様子から察しは付きました。明らかに袁紹さんと袁術さんは歩調を合わせず、独自の方針を持って行動しています。

もし、この二人が協力し合っていたなら、私達はその影に埋もれてしまっていたでしょう。あるいは使い捨ての捨て石にされていたかも。

袁紹さんは桃香様の言質を取り、そういう立場に追い込み、袁垓さんはそこから救い上げてくれた。袁家が裏で手を組んでいるとしたら、これは私達に恩を売る自作自演に過ぎない。でも、私達は言っては何ですが弱小勢力だし名声も然程高くない。せいぜい盗賊退治が上手いという程度です。

でも、桃香様は既に袁垓さんに招かれていた事があるという話から私の考えは迷いが出てきました。

名声なら並ぶ者無し袁紹。

その才、危険にして至高の曹操。

およそ戦うという行為を人形(ひとがた)に塗り固めた様な経歴、戦才を持つ孫策。

そこに劉備という盗賊退治上がりを招いた袁垓。

そこに至る経緯が諸葛亮には判らなかった。



諸葛亮には判らない。

劉備は確かに太陽の様に輝き、炭火の様に温もりを与えてくれる存在だ。袁紹、曹操、孫策に負けぬ王の資質がある。

しかし、それを見抜けるのは虐げられ奪われ死に喘ぐ世の中を知っている義士だけだ。

袁垓は違う。

虐げ、奪い、死を与える世の中しか知らないはずだ。名門袁家とは、『そうでなくては』ならないから名門なのだ。だからこそ、諸葛亮は苦悩する。袁垓はこの男は知っている。知りすぎる程に名門という存在の傲慢さを、絶対的な強さを、そしてそれが持たざる者からどう見られているかを。


そうでなくては、あんな顔は出来ない。


「何、金ならありますので」


自慢でも自虐でもない、物を掴むには手が必要だと論ずる様に平然と。その手が次の瞬間には切り落とされる可能性があると覚悟している様に冷静に。

丸腰で居る彼は誰よりも名門という重味を携えて目の前にそびえて居た。

頂の見えない高い山の様な、王の資質を備えて。

それはあるいは、諸葛亮が思い浮かべる袁紹、曹操、孫策、劉備の誰とも違う資質で誰よりも高く高くそびえ立つ王の頂にいる様に感じたのだ。

中途半端ですが、場面転換の意味も込めてここで切ります。

名門は描写をなるべく少なくしながら、こいつは凄いぜ、みたいな演出を何処までやれるか、とか考えながら書いてます。

ダラダラ書くのは好きですが、名門はズッパリサッパリ早目に展開を進めていきます。

ああ、袁垓さん覚醒の時が迫る。

コミカルさが減らない様に頑張ります。

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