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第四章 支部団長
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「それならば準備が必要だ。」
響の手を引いたまま、京は己のテントに向かう。通常装備はしているものの、この場に二度と戻るつもりがないのであれば話は別だ。
「響の方は諦めろ。」
それなら、と響が口を開いた所で京に制される。勿論連れ去られてきた響に大した荷物はないのだか、立ち寄りたい場所がいけなかった。何故ならば、響の寝泊まりしていたテントは扇と同室。今現時点で、最も近寄るべき場所ではない。
「そんな顔をするな。元々の響の荷物は俺が持ってきているし、何か良いものを貰ったのなら同じものを買ってやる。」
不満がありありと溢れた表情をした響に、小さく溜め息をつきながらも京が宥めた。それに対し、子供のように唇を尖らせて黒板に書いた文字。
『絶対だぞ!』
あまりの可愛さに軽く目眩を覚えつつ、額に手を当て内心の動揺を押さえ込む。
「分かった。片付いたら教えてくれ。今は急ぐぞ。」
チラリと響を見遣り頷いたのを確認して、再び尚と共同使用のテントに足を向けた。
「困った。」
全く困った表情をしていないが、見渡す限りの雪野原に立ち尽くす京と響。夜逃げ同然で全ての荷物を背負ってテントを出たまでは良かったが、全く行き先が分からない。降り続く雪の中で既に幾時も経過し、扇は元より追っ手の足跡すら残っていなかった。
『中にいる奴に聞くか?』
「そんなおとぼけなアイディアが出てくるとは思わなかった。」
軽く頭を降りながら答える京は、溜め息しか出てこない。
『何だよ、仕方ないだろっ!?だいたい京がボーッと突っ立っていたのが…っ!』
「待て。」
黒板に文句を走り書きする響を片手で制し、素早く物陰に身を隠した。その横を気付かず走り去る赤の旅団員が数人。
「響、文句はまたの機会に聞く。今は奴等を追い掛けるぞ。」
そして響の返答を聞くまでもなく、手を引いて京が走る。心の準備もなく手を引かれ、当たり前のように響は転びそうになった。例に漏れず、あっという間に京の肩に担がれて運ばれる響。勿論、暫くふて腐れていたのは言うまでもない。
雪の中を尾行する事、半時。漸く血生臭さが辺りに漂ってきた。
「見えるか?」
岩か氷か分からない塊の陰に身を隠し、人だかりのある方を見遣る。小声で響に問えば、息を飲んで明らかに狼狽した。
あるはずもないと思いつつ、不安で居ても立ってもいられなかった感覚。思い過ごしではない。そしてそれは今、目の前に広がっていた。




