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第一章 出会い
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響は無言で枕を受け取る。言い返しても無駄な気がした。
「パンとスープだ。食欲はあるか?まぁ、なくても食え。薬も飲め。」
「一々命令すんな。」
「ん?…命令…。口が悪いのはお互い様だ。」
「ムッ!」
やはり言い返される。頭に来て無言でパンに手を伸ばすが、止められた。手首を捕まれ、響は京を睨みつける。
「頂きます、だ。食べ物に感謝。」
有無を言わさない迫力。言わなければ食べさせて貰えなさそうだ。
「…頂き…ます。」
「どうぞ。」
渋々言葉にすれば、漸く手を放してお盆を響の方に近付けてくれる。響は小さく溜め息をつきながらもパンを口にした。
スープも熱くなくて飲みやすい温度。次第にガツガツと食べ始める響を見て、京も自分の食事を始める。
「…これ、昨日のマズイ薬か?」
綺麗にパンもスープも平らげた後、お盆に残ったコップに響の目が点になった。真緑の、いかにも美味しくなさそうな液体。
「そうだ。飲まないなら飲ませてやる。」
「飲むよ!ったく、誰が…。」
手を伸ばして来た京を睨みつける。それでもコップに口を付けるのを躊躇うこと数秒、一気に飲んだ。吐きそうになって、思い切り両手で口を塞ぐ。ゴクッ。
「…マズイ…。」
「良く出来ました。はい、俺からのご褒美。」
何とか飲み終えた響に京が差し出したのは苺。ハチミツがかかって真っ赤な果実が光っていた。
「オレにっ?ヤッター!…うめーっ!」
苦い薬草の汁を飲んだだけあって、ハチミツのかかった苺は甘さが倍増している。幸せ一杯の表情の響を見て、京の瞳も柔らかく細められていた。
「…ん…。」
フォークに突き刺した最後の一つ、一番大きい苺を京に向けて差し出す。
「何?」
「んっ!」
小首を傾げる京に、再び突き出した。そっぽを向いているが、京の動きを気にしている。
「俺にくれるの?」
「だーっ、そうだよ!有り難く食っとけ!」
いつまでも伝わらない状況に苛立ち声を荒げた。けれどもその顔は真っ赤で。
「ありがとう、響。頂きます。」
京の真っ黒な瞳が、これ以上ないくらいに細められた。
「美味しい。」
「あ、当たり前だろ。オレがやったんだからなっ。」
「買ってきたのは俺だけど。」
「良いんだっ!」
強引に話を終わらせる。言葉で負けてばかりではいられないと響の強行手段だった。