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第四章 支部団長
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遠くに物音が聞こえる。それに呼ばれるように意識が浮上した。ボンヤリと瞬きを繰り返し、響は背中の温かさに気付く。首を軽く動かし、背後にいる京の姿を確認した。
「おはよう、響。」
知っている柔らかい声。響は口パクで『はよ』と答える。いつも京は、軽く身動ぎしただけの響に気付いて起きるのだ。
「どうした?」
問われ、首を横に振る。久しぶりの安心感に満ちた朝だが、いつまでも感慨に浸っている場合ではなかった。支部団長の扇が来る前に支度をしようと、響は起き上がろうとする。
「っ?!」
だがそれは、身体を強く抱きしめる京によって阻まれた。軽く睨みつけると、より強く腕を回される。
「っ!…っ!」
あまりの強さに腕をパンパン叩いて抗議。漸く腕の力を抜いてくれた頃には、響は苦しさのあまりに呼吸が乱れていた。
「朝から面白い。…ほら、お迎えだぞ。」
態とらしい。京の言葉に視線を上げると、テント入り口に扇が立っていた。慌ててベッドから飛び降りるが、その際に京を蹴り飛ばしてやる。
「痛いぞ、響。」
大して痛くないくせにと、響は舌を出して半身起き上がった京に抗議した。
「ふむ、面白い。京とやら、随分と銀狼が懐いているようだな。昨夜とは見違える程元気になったのは、何か特別な方法があるのか?」
二人の様子を見て、何より響が元気になったのが嬉しい扇。駆け寄ってきた響の頭を撫でながら京に問い掛けた。
「いや…別に。」
昨夜の事を思い出し、励まされたのはどちらかと考える。響がいつもの元気を取り戻したのは確かだが、京にしてみれば自分が何かをしたという覚えがなかった。
「そうか、知りたかったがな。京は銀狼を返して欲しいか。」
新たな問い掛けに、京は僅かに目を細める。
「響はものじゃない。声を奪って飼い馴らそうとしても無駄だ。」
明らかな反発。だがこれは、響に悪影響を与えはしないと判断しての京の本心だった。
「ふむ。それはお前の意見として聞いておこう。行くぞ、銀狼。」
それだけ言うと扇は踵を反す。響は小さく笑みを浮かべると、京に軽く手を挙げて扇の後を追った。
はぁ…。あの扇と言う男、赤の旅団を纏めるだけはある。一癖も二癖もあるな。
心の中で溜め息をつき、何事もなかったかのように尚のテントへと戻って行く。今日もいつものように魔物狩りをして、いつものように訓練。赤の旅団とは言え、組織とはそういうものかもしれなかった。




