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ちょっと痛いです。
第一章 出会い
7
京が部屋を出て行ってからも、暫くの間ギラギラとした瞳を扉に向けている響。だが直に薬の効き目か、フワフワとした睡魔が訪れて誘い込まれていく。
「…ここは…っ。」
気付くと夜の砂漠。聞こえるのは風の音だけ…ではなかった。下卑た男達の声、殴る音。
瞬時に意識が当事者に重なる。
殴られ蹴られ、自分が上を向いているのか下を向いているのかすら分からないただただ感じる激痛。息もまともに出来ない。けれども悲鳴はあげなかった。
『ちっ、そろそろ殴り飽きたな。そうだ、コイツ女より白いから…。』
「『ぃ…やめろーっ!』」
勢い良く起き上がる。呼吸の仕方が分からなくなったかと思う程に息苦しい肺。
「どうした、…っ!?」
部屋の扉を壊れんばかりに開け放って飛び込んで来た京の瞳が見開かれた。
「何で…泣いている?」
投げ掛けられた言葉に今度は響の方が驚く。気付いていなかった。
「っ?!」
慌てて手の甲で目元を拭おうとして、フワッと温かな感触に包み込まれる。
「擦っちゃダメ。」
耳元で聞こえた低い声。強く抱きしめられているのだと少しして気付いた。無言で抗い、逃れようとしてもびくともしない。だが決して痛くはなかった。
「っ!な、何をっ?」
「しょっぱいな。」
目元を舐められ、すくわれる涙。そしてもう一方も同じく。背後から抱きしめられていて、手も足も出なかった。
「泣くな。」
再び言われる。
「っせー…っ。」
「泣いたら次も舐めてやる。」
淡々と言われ、返す言葉がなかった。
「…誰が泣くか。」
強がった言葉しか出て来ない。だがそれでも、抱きしめる京の腕の強さも温かさも変わらなかった。
暫くそのままどちらも動かない。まだ外は暗く、夜が深い事を伝えていた。重なり合う部分が温かい。鼓動が伝わり、自らの音と混ざり合っていった。
※
町の活気ある声が聞こえる。眠っていた意識が呼び戻された。
「っ!?」
同時に違和感も感じる。今自分がおかれている状況は人生初。何故ならば、男の自分が男の腕の中にいるからだった。
この状況は果たして何なのか。とにかく記憶を呼び起こしてみた。夜、久しぶりに嫌な夢を見たのを覚えている。あの先はいつも覚えていないが、本当に嫌な夢だった。