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第一章 出会い
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「…てめぇ…、何しやがんだっ。」
幾度か瞬きをしていた響がやっとの事で絞り出した言葉。だがそれは怒りと羞恥に震えている。
「薬を飲ませた。何か問題か?」
京の方は小首を傾げ、響の言わんとする事が分からないようだった。
「おま…お前は、オレの…オレのファースト…キ、キ、キスを…っ!」
「ん?…おぉ、ファーストキスか。…っ!マ、マジでっ?…っ!」
漸く伝わった響の言葉に京は酷く驚いて、同時に拳を作って跳び上がりそうになる程喜ぶ。
勿論響は顔を真っ赤にして怒り、プイッとそっぽを向いて布団を被ってしまった。
「ん?怒ったのか?おい、響。」
ベッド横の椅子に腰掛け、丸まった布団を突く。だが全く反応を示さなかった。
「仕方ない奴だな。…そうか、初めてか。…苦い薬で嫌な思いをさせてしまったから怒っているのか?それならば悪い事をしたな。次は甘くてとろけるやつを…っ!」
独り言のように呟いていた京の腹部に、布団から勢い良く飛び出した響の足が当たる。さすがに不意を突かれた京はそのまま椅子ごと後ろに倒れた。
「痛い。」
大して痛くなさそうな言い方だが、頭を摩りながら起き上がる。そして布団から突き出した響の足を思い切り手前に引っ張った。
「ぅわっ?!」
「はい、下着姿の響を収穫。」
京の腕に抱き留められる形で目をパチクリとする響。日に焼けにくいのか色素が薄いだけなのか、その肌はそこらへんの女より色が白い。
「凄く…色っぽい。」
思わず呟いた京の言葉に、ギッと射貫く様な鋭い目を向けてきた。
「お前も…そこらの盛った野良犬達と同じか。」
金色に見間違える程の淡い瞳に僅かに痛みが見える。
盛った野良犬。性欲だけを剥き出しにした下劣な男を比喩していた。
「違うな。俺は身体だけではなく、心も求める。」
響の言葉をどう受け取ったのか、抱き留めたまま立ち上がって響を静かに布団に横たわらせる京。
「悪かった、悪戯が過ぎた。まだ熱があるからユックリと休め。」
持って来ていた水桶に、共に用意してあったらしき手ぬぐいを浸して絞る。そして警戒心を剥き出しにしている響の額にそれを乗せると、静かに部屋を出て行った。