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第一章 出会い
5
「待ってろ。すぐに医者を呼んで来る。」
「えっ?」
京は響の返事を待たずして、慌ててバタバタと部屋から走って行く。暫くキョトンとしていた響の耳に、再びバタバタと足音が聞こえてきた。
「気が付いたんだ。でも、痛いって。診てくれ。」
かなり年配の人物を担いで戻って来た京は、その白衣を着た人物の横に大きな黒い鞄を置く。
「全く、そんなに慌てんでも大丈夫だと言ったじゃろう。頭は血がたくさん出るもんじゃ。出なければそれは問題じゃが、この子の場合は被り物のお陰で傷口も綺麗じゃったしなぁ。しかしワシは、お前さんの慌て振りの方が驚いたわい。」
元から知り合いだったのか、老医と京は親しげに話しているように見えた。勿論喋りながらも老医は手際良く響の頭の包帯を替え、頬に張った絆創膏も取り替える。
「ほら、後はこの薬を三日間飲む事じゃ。殺菌作用と消炎作用のある薬草じゃ。ちゃんと飲まんと、後で傷口が化膿しても知らんぞ。」
「ありがとう。薬は俺が責任を持って飲ます。」
「そうじゃな。まぁ、お前さんの意外な心配性振りを見れてワシは楽しかったぞい。」
京は大きな身体を何度も屈めて礼を告げていた。それをただボンヤリと見ている響。頭の痛みは先程よりはマシだが、今ひとつ思考が回らない。
「大丈夫か?薬、飲めるか?」
老医を見送った京が戻ってきて問い掛けるが響の反応は薄く、コップに煎じた薬湯を差し出しても小さく首を振るだけだった。
すると何を思ったのか、京は薬湯を口に含むと響に口付ける。
「っ?!…っ、ん〜っ!」
我に返った響が暴れるが自分よりも大きな京の力に叶うはずもなく、ゴクンと喉を鳴らして完全に飲み込むまで解放されなかった。
「…は…ぁ…っ。」
漸く口が放された時の響は息も絶え絶えで、トロンとした瞳を宙にさ迷わせていたのである。
「さすがにこれは苦いな。」
京は自分の口元を親指で拭い、ユックリと響の上から退いた。
ベッドの上に押し倒された様になっている響は、先程の自分に降り懸かった出来事が理解出来ずに放心状態である。
「どうした?大丈夫か?」
何事もなかったかのように問い掛けて来る京。全く悪気はないようだった。