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第一章 出会い
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「嘘をつくんじゃねーっ!…っうおっ、あぢっ!」
四方に唾を飛ばしながら叫ぶ男に対して、掲げていた火の玉を投げ付ける。当てるつもりがなかったのか、男の足元で弾け飛んだ火の粉が周辺を焦がした。
「煩いんだよ。オレは宿屋に行きたいんだ。邪魔をするな。」
「この野郎っ、調子に乗りやがって!やっちまえ、口を塞げばコッチのもんだ!」
再びバラバラと男達が挑み掛かってくる。
「火の玉…、っぐ!」
黒マントも再び火の魔法球を掲げるが、次の瞬間背後から思い切り後頭部を殴打された。衝撃でフードが捲れ、フワリとした淡い栗色の髪が踊り出る。そしてあらわになったその顔に、正面にいた男の拳がまともに入った。
弾かれるように後ろに飛ぶ身体。
「おっと…。」
だが、それを軽々と受け止められる。周辺を囲んだ男達ではなく、酒場から出て来た図体の大きい男だ。
一瞬意識が飛んだ黒マントだったが、自分の身体を支える者がただ者でないことを肌で感じる。
「っ!」
振り返りその男を見上げた。金色に見間違える程の薄茶色の瞳が背後の男を捕らえる。健康的に日に焼けた肌をした精悍な顔付きの男は、短い黒髪と虹彩の区別が付かない程の真っ黒な瞳をしていた。
「っ?お前達、こんな可愛い娘に何してんだっ!」
黒マントをお姫様抱っこしながら勢い良く立ち上がる。
「誰が女だっ!!」
思い切り拳を大男の頬に当てるが、大してダメージを受けていないのかキョトンとしながら黒マントを見ていた。そしてソッと地面に下ろして立たせると、突然両胸をベタリと触られる。
「ムッ。」
黒マントは苛立ちをあらわにしながらもひとまず我慢。だが次に股間を触られた時には、有無を言わさず頭に拳を食らわした。
「何処触ってんだ、ボケっ!」
さすがに頭は痛かったのか、軽く摩りながら再びマジマジと顔を覗き込まれる。
「本当に男の子だ。」
「てめぇ、オレは男の子じゃねぇ!男だっ!成人の儀式も済んでる、16歳だっ!何処に目を付けてやがるんだ、ボケっ!」
「だって、こんなに小さいし。」
「うるせー、お前がデカすぎるんだっ!オレは175cmある!」
「俺、190cm。ちなみに、21歳独身。あ、名前は京。彼女いないから、付き合って。」
そう言いながら強引に黒マントの腰を抱き寄せた。