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第二章 戦い
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無防備なこの表情を手放すものかと、自らの強い欲望に突き動かされそうになる。理性を総動員してそれを抑え、ベークの縄を引いた。
十本の脚を器用に動かし、砂漠の緩い砂地を歩く。完全に砂地と化した所では腹を砂上に浮かし、脚を櫓の様にして進むのだ。
「…っ、お前ーっ!」
突然我に返った響が京につかみ掛かる。
「危ないぞ。ここは既に流砂の上だ。落ちたら何処に流れつくか分からない。大人しくしていろ。」
「なっ?!…、気持ち悪くない…。あれ?」
しっかりと京に支えられている安心感からか、ベークの足元を覗き込む様に身体を伸ばした。
「何だ。響がベークを苦手なのは、酔うからなのか。酒にも乗り物にも弱いんだな。」
「ムッ!あの時は空腹でビールを飲んだからで、ベークだって慣れれば大丈夫だっ。」
「そうか。じゃあ、次からは暴れるなよ?酒に飲まれて寝るくらいは構わないけどな。」
「ふんっ!うるさい、お前に言われなくても分かってるっ。」
売り言葉に買い言葉である。しかもいつもながら、京に丸め込まれている響だった。
「その言葉忘れるなよ?男に二言はないからな。女なら別だが。」
「誰が女だっ!」
「響が女とは言っていない。」
「ムッ!」
すぐに頭に血が上るらしい響は、京の膝の上にいる事も忘れている。
「で、何処に行くんだ?」
「はぁっ?お前、んな事も分からずに町を出たのかっ?」
「それは、響が教えてくれなかったからだ。だから今聞いてる。」
「…ベトムの町だ。つか、別にオレはお前が来なくて良いんだけど。」
「今更だな。俺は響と一緒にいると決めた。男に二言はない。」
とりあえず南下していた京は、軽くベークの縄を左に引いて方向修正した。
「…お前、方向分かってんのか?」
「当たり前だ。サウンズの町には一年程いたが、その前は転々と旅をしていたからな。」
「ふぅん。」
そういえば、京の事をあまり知らないと改めて思う。大剣使いの筋肉馬鹿で変態というくらいだ。
「何だ?俺に興味がわいたか。」
「べ、別にっ!知りたくねーし。」
「ふっ…、照れて可愛いな。響は意識していないだろうが、それは中々そそる顔だぞ。」
横抱きされている為、響の表情は京から丸見えである。言葉でどう言おうが、赤い顔で口を尖らせていては京にとっての可愛い仕草のようだった。




