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第一章 出会い
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「何でもないと言う顔ではないが、まぁ良い。だが、まだ食べていないのか。それならちょうど良い。この薬も飲め。後で俺が塗り薬を塗ってやる。」
「…塗り薬も自分で塗る。」
「どうやって?背中とかは?」
「…何とかなるだろ。」
「ならないだろ。響は強情だな。とにかく飯食え。俺は薬待ちの間に食べた。」
言い合うが、京の方が一枚上手である。最終的に響が口をつぐんだ。無言で食事を始めるが、身体は痛いし京の視線も痛い。
「…食べにくい。」
「何だ、食べさせてやろうか?」
「違うっ!お前がジロジロと見てるからだろーがっ。」
「何だ、そうか。それなら響は食べてろ。俺は薬を塗ってやる。」
「はぁ?」
「時間の短縮だ。脱げ。」
「っ!」
響の返答を待たず、ベッドの上に乗ってきた。背中の服を捲り上げられ、痛みに響が息を止める。
「我慢しろ。」
背中は引き倒された時に思い切り地面に打ち付けた。首は鎖で絞められた跡、手首足首は強く握られた手の跡がある。
その全てに京が薬を塗り広げていった。
「終わった。ん?大丈夫か、響。」
「…っ…ふっ…、ボケ…痛いって…言ったろ…っ。」
触れられる痛みを必死に堪えていた響は、涙目になった瞳でギッと京を睨む。
「嗜虐趣味はないが…そそるな。わざとじゃないところが、また良い。他の奴にそんな顔見せるなよ?」
「な…っ!…バカじゃねーのっ?」
京の言葉に、馬鹿にされたと思った。プイッと顔を背け、とにかく食事を済まそうと痛みに堪えながら食べ始める。
「腫れが引いたら出発して良い。その時には俺に一言言ってくれ。俺自身は大した用意はないが、世話になった人達に礼を言わなければならないからな。」
本当に旅に同行するようだ。今更断る訳にもいかず、響はただ無言で頷く。
「あ、忘れてた。昨日の金、返すな。俺は受け取れない。」
左手を捕まれ、京に渡したはずの金を握らされた。
「これはお前に支払ったんだ。オレも返されては困る。宿も医者も薬も食事も、全てお前の世話になる謂れはない。足りないならまだ払う。頼むから…、オレを必要以上甘えさせないでくれ。」
十分な程京に甘えている。それが分かっているからこそ、響は今まで感じた事のない恐怖に怯えていた。
「…分かった。じゃあ貰っておく。だが、俺は響を甘やかしている訳じゃない。俺がしたい事をしているだけだからな。」
京は薬を手ぬぐいで拭き取りながら、軽く肩を竦めて見せる。
「…お前は狡い。そんなの…。」
分かりたくなかった。
今まで一人で旅をしてきて、これからも一人で旅を続けるつもりの響。いつかは離れる仲間なら、いない方が良い。一度甘えを知ってしまえば、人間は堕落する生き物なのだ。
「…とにかく、明日オレは出発する。これ以上この町にいても仕方ないからな。」
本当は情報を得た何日も前に出発するつもりだった響。トラブルに巻き込まれた為、かなり予定が狂っている。
「そうか。薬は俺が持って行ってやる。」
「…勝手にしろ。」
口を開いても言い負けるだけなので、響は話すのをやめた。
決して言わない。自分が探しているものも、目的も夢も何一つ誰にも言わないと決めたのだ。




