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第一章 出会い
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「御馳走様。ちょっと聞きたいんだけど。」
代金は料理が運ばれた時に都度支払う為、食事が済めば店を出るだけになる。だが黒マントは従業員に声を掛けて呼び止めた。
「はい?何ですか?」
「この辺りに今日泊まれる宿ってあるかな。」
「あ、はい。店を出て左の方に三軒並んでいますから、お祭りの時以外でしたら大抵何処も空いていますよ。私のお勧めは白い壁の宿屋ですね。親戚なんで一応売り込みです。」
「ありがとう。」
黒マントは柔らかく女の子に笑いかけて背を向ける。その後ろでポーッと頬を赤らめている女の子を残し、再び軋む店のドアを押した。
酒場を出て空を見上げる。明日も天気が良さそうで、三つの月が仲良く三角に並んで輝いていた。
黒マントは従業員の女の子に教えられた通り左側へ足を向ける。しかし、数歩進んだだけでその足は止められた。
目の前に見知らぬ男が三人、道を塞ぐように立っている。振り返るとそこにも二人。どうやら逃がす気はないようだ。
「何。」
前に向き直り、真ん中に立っている男に声をかける。一番小さいが一番胸を張っている為、この中のリーダーだと思われた。
「なぁに、ちょっとだけ助けてもらいたいのさ。あんた、魔導師だろう?金、持ってるよなぁ。貸してくれないかなぁ、ありったけ。」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。その手にはそれぞれ武器を持っていた。
魔導師は魔法を使う。しかしながら魔法を使うには魔力の集中と呪文の詠唱が必要だった。つまりは大勢で取り囲み、それを阻めば良い。
「金?」
目的は金品だったり、身体だったり様々。それゆえに男女共に魔導師は必ずパーティーで行動し、一人にはならないのが暗黙の掟だった。
「一人なんだろう?逸れ魔導師は俺達にとって、貴重な獲物なんだよなぁ。ヒヒヒッ…フードで顔は見えないが、悪くなければ身体も美味しく頂いてやるよ。その後は奴隷市場行きだがなぁ。」
五人の男が一斉に気味の悪い笑い声をあげる。
「阿呆か…、くだらん。」
その中で全く怯むことなく吐き捨てた。
「何をっ!」
カッとなった男達が一斉に飛び掛かって来る。
「火の玉。」
「ぅわちぃーっ!?」
黒マントの掲げた火の魔法球に、三人の男がのたうちまわった。服の何処かしらを燃やしながら、仰いだり転げ回ったりして火を消そうとしている。
「な、何でこんなに魔法を早く使えるんだっ?お前、呪文の詠唱はどうしたっ!」
「したよ。」
逆ギレして怒鳴り散らす男達に、黒マントは平然と答えるのだった。