第76幕 「らしくない」
天楽とアラヤの元に、デウスからの命を受け、ダンシとコクウ――そしてバクという3人の少年がやって来た。
天楽にとって、この3人はあまり馴染みがない。
戦闘能力の実力はトップクラスで、主に暗殺や諜報活動を行い、アラヤやナユタのように表立っての活動はしてこなかった連中だ。
天楽はデウスについて今まで過ごしてきていたので、ダンシたちとは接点がほとんどなかった。
まだアヤラたちの方が、天楽としても馴染みがあったのだが――。
が――天楽は個人的にも、ダンシたちが好きではない。
アラヤたちはプライドが高く自分勝手な部分が多かったが、感情が豊かで、話していても楽しいことが多かった。
だがダンシはまるでロボット――デウスの命令には忠実すぎて、「軍人」のような印象をも受ける。面白みも何もない男だった。
コクウは知的で、リーダー的なダンシの参謀のような役割を持っているが、冷酷で残忍な性格だ。
バクに至っては、天楽とは全く逆で、天楽がこの世界に来てから生まれた――まだ8歳という年齢のはずだが――外見の歳は15~6歳程度まで成長を遂げている。
しかし、「感情」というものは存在せず、そういう意味では――人形のような生気を感じない冷たさを感じる。
まだアラヤの方が、天楽には好感が持てた。
このときも来て早々、ダンシは天楽とアラヤにデウスの命令を伝え
「今後は俺たちの指示に従ってもらう」
と、一方的に告げただけだった。
が、秋たちがピサ島を出なければ、ダンシたちも任務とはならないので――天楽とアラヤとは別の宿を取り、3人で一緒に何やら活動している。
それも天楽にはどこか気に入らない。
「…ダンシたちを送り込んでくるとは…デウスの奴、本気でシュウたちを抹殺するつもりなんだろうな。
デウス的にはあいつらは、切り札として考えていたはずだ。
残念ながら、俺もあいつらには敵わないと認めるしかないし……」
アラヤがそんなことを口にした。
一昨日秋たちと会ってから――否。ナユタを失ってから、アラヤがまったく「らしくない」。
30年も一緒にいたナユタを失い、寂しいのかと考えていたのだが――どうもそれだけじゃないみたいだった。
以前だったら、ダンシたちとこのような顔合わせになった場合、「あんな奴らには負けない」と、息巻いていそうなものを――。
「デウスはダンシたちでも、秋たちには負けるかもしれないと考えているのかな?」
天楽も3人の実力はよく知っている。
ダンシ1人の戦闘能力は、天楽のイメージで秋の2人分だと考えているぐらいなのに。
そんな考えをアラヤに伝えると。
「どうかな?結構いい勝負かもしれないぜ」
と返答してきた――やっぱりアラヤの様子がおかしい。
「なんだよ?」
アラヤが睨むように自分を見ている天楽に言った。
「なんかアラヤおかしいよ?
前はそんな弱気じゃなかっただろ?」
「……僕は事実を言っているだけなんだけどな…そんなにおかしいか?」
「うん。らしくない…ピサ島にいるときも、なんか変だったし」
天楽にそう指摘されて――アラヤは無意識に――首に手を当てた。
二度も秋に切り落とされ、今だうっすらとその傷が残っている。
それを隠すように、今はハイネックの服を着込んでいる。が。
ナユタの死に直面し、アラヤも自分の「死」というものを強く意識するようになっているのかもしれない。
「それよりアマラ。デウスはダンシたちでもシュウたちの抹殺が敵わないなら、お前を手元に戻して、もう表には出さないつもりだと思うぜ。
それでもいいのか?これが最後のチャンスになるかもしれないぞ」
「……何が?」
天楽はわざと惚けた。
秋たちの言葉をアラヤは言っているのは、天楽が一番よくわかっている。
「僕は前から言っているけど、アマラ…お前は僕たちとは合わないと思うな。
このままここにいても、お前のやりたいことって出来ないで終わるんじゃないのか?」
「……アラヤ…自分が何言っているかわかってるの?
それ、僕にデウスを裏切れって言っているんだよ?」
「そうか?お前にとってデウスは「最後の自分の逃げ場所」なんだろ?
前に僕たちにそう言ったことあったよな…」
一体どういう心境の変化なのだろう?
あんなに秋たちを殺したいと望んでいたのに――。
どうしてそんなにも自分を気遣うような言葉を口にするのか?
それも10年前の――出会ったころの話を持ち出され――天楽は驚く以上に、アラヤの変化に、気味悪さすら感じてしまう。
デウスのやり方に反発を感じるものの、それでも自分を理解してくれる優しさをあのときの――10年前の自分は彼を必要とし――デウスを「最後の自分の逃げ場所」と例えた。
そして彼の行動の根底に存在する――「破滅への願望」を何とか変えたいと――いつかの自分の姿にダブらせ、天楽はデウスを変えたいと彼の傍にいることを選んできた。
しかし現在はデウスの考え方には嫌悪の気持ちを抱き、一段とその醜悪なものへと移りゆく「心の変化」を感じてしまう「今」では――天楽はデウスの傍にいることを我慢出来る自信がなかった。
「ねぇ…本当に気持ち悪いよ、アラヤ…本当にどうしちゃったのさ?」
「僕は…もう長くないだろうな」
アラヤはそんなことを――ポツリと呟いた。
「……アラヤ…」
「もうお前の話を聞いてくれる奴は…シュウとかしかいなくなるんじゃないのかな?」
「僕に秋たちのところへ行けって言うの?」
「……それもひとつの道だってこと。決めるのはお前だからさ」
アラヤの言葉に、天楽は急に取り残される不安と――寂しさがこみ上げた。
「そんなことないよ。仲間を裏切れるか」
「仲間…ねぇ。お前…ダンシたちを仲間と思ったことあるのか?」
「これから、一緒に行動する仲間になるんだろうから…」
「まぁ…好きにしろ」
アラヤはそのままソファに横になってしまい、天楽は納得のいかないまま会話を中断され――不貞腐れたまま――薄曇りの空が広がる窓の外を見た。
◆◆◆
アダの部屋に近い、寄宿舎の3階のロビーで、プリムラを通して――秋はネロと話をしていた。
「…アダがそんなことを読み取っていたんだね」
ネロがそう呟いた。
「ねぇ…ネロ。シュウくんに本当の話をしてあげられなの?」
「本当の話?」
秋がプリムラから出た話を、怪訝そうにネロに尋ねる。
「……イロアス協会でも…アダが読み取った事実は…本当は把握していた。ということなんだ」
「は…えっ!?なんですか、それっ!?」
秋はどうしてそんな大事なことを隠していたのか――と、ネロを責めるような言葉を口にしてしまった。
「放置していたわけじゃない。協会は、『ブルゾス』との「対話」を非効率と考えたんだ。
協会の「理念」を、『ブルゾスの殲滅』と位置づけしているからね。
そして『ブルゾス』との「対話」は、『アトスポロス』へ多大な「負担」をかける行為として、危険視した…ということもある。
アダの読み取った通り、『ブルゾス』の感情は「負」の塊だ。
それは、『霊長意識集合体』自体、「欲」の塊だからだよ。
再度の「生」への欲求。でも『万物意識集合体』に帰らない限り、生まれ変わることは叶わない。長い時間が経過することで、それが出来ないもどかしさ、歯がゆさ、悔しさ…それらが集団化し、「負」の感情が呼び起こされ、蓄積され、癒されることなく溜まり続ける。
そして「負」の塊をなっていく。協会はそう分析し、それを癒し、『ブルゾス』となった者たちを救う唯一の手立てが『浄化』ということだと考えている。
アマラの考えを突き詰めると、それは今我々の行っている手段は、戦いによる「強制浄化」ということになり、彼の考えは、「対話」することで「納得した上で「浄化」される」という方向にもっていこうという方法ともとれる。
どうしても『万物意識集合体』への回帰から外れてしまうなら、「生への欲求」を取り除き、自分たちが「霊的立場」であることを意識させることで、「霊」…「神」のような存在として「人」を「守護」する立場になってもらう…ということ。
『ブルゾス』から「欲」という感情を取り除くということであれば…私はヒントが『エフヒ』となる「遺体」への同化現象にあるように思うんだ。
彼らは「生への欲求」を満たしたわけだ。
『カタフ』となる前の……『エフヒ』の存在。
一切の「負」の感情も無くなった彼らは、精神面だけで言うなら、穏やかで「人」と同じような「存在」だ。
クララは違う存在だったけど、本当の『エフヒ』…協会の人間となった『アフピダ』だけど、彼らに話を聞いてみるかい?」
「……そういうことなら…是非っ」
秋は間髪いれずにネロの提案に乗った。
ネロがプリムラに無言で頷き、プリムラが、秋たちがいる寄宿舎のロビーの一角に足を向け、秋からは死角になって見えない位置で誰かと話していた。
すぐにプリムラが1組の男女を連れてきた。
1人はフロガと同じ歳程度に見える男性。もう1人は20代前半程度の年齢の女性。
「初めまして、シュウくん。僕はキート。彼女はクラッペ。
アーラたちの専属の「補佐役」であり、正真正銘の『アスピダ』だよ」
キートと名乗った男性は、秋と握手をかわすと、隣の女性――クラッペを紹介した。
「話はネロから訊いている。大変なことを考えたね…僕らでよければ協力させてもらうよ」
「はい…よろしくお願いします。
話は、俺の仲間たちを交えてお聞きしたいんですが…それでもいいですか?」
秋はセスカやアックス――そして直人たちを加えて話をすることを2人に提案した。
「あぁ、構わないよ」
キートは頷き、クラッペも「よろしく」と笑顔で秋に答えた。
秋は2人の友好的な態度に恐縮しながら、「お願いします」と頭を下げた。




