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第64幕  戦いはこれから

 まずは『アカデメイア』内にある寄宿舎へと案内された。

 飾り気のない外観。今まで豪華な建物を見慣れてきた秋たちにとっては、とても質素に感じるが、秋はこの3階建ての寄宿舎あたりで丁度よかった。



 割り当てたれた部屋も然程広さはなく、2人部屋でベッドが2つ並び、もうひとつのベッドルームより小さめな部屋があり、2人で使うにはほとんど不便を感じない広さだった。



 秋はここをセスカと使うことになっている。

 アレティは護衛を兼ねてベンジーとクララが付き添い、学長ナギの屋敷に住まうことになっていた。

 それもこの寄宿舎の隣なので、会おうと思えばいつでも会える。ということでアレティも納得していた。

「一緒が良いのじゃ」

 と我侭を言われたらどうしようかと秋は考えていたが、アレティもちゃんと現状を見ているということなのだろう。



 明日、新設する騎士団の候補生と対面する予定ということで、今日はこのままゆっくりと休むことになった。



「大丈夫か、シュウ?」

 セスカが心配そうに秋を見ていた。

「本当にごめんなセスカ。ここのところ、いつもお前に心配かけてばかりだ」

「ううん、いいんだ……」

 いつもと違い行動が控えめなセスカに、秋がセスカが座るベッドの隣に腰掛ける。

「俺が無理させた。お前の体調は大丈夫なのかセスカ?」

「うん。大丈夫だ」

 セスカは秋に笑ってみせた。



「1ヶ月か…少し長いな」

「うん…ロバロの強化とは言え……今頃アンナ様が激怒していそうだな。

 アンナ様は私たちをこの『アカデメイア』に預け、ご自分が「デウス・エクス・マキナ」の標的になろうと考えられていたのだろうし」

 セスカにはアンナの考え方がよくわかるのかもしれない。

 秋は天楽の話を終えたあと――フロガから出た話のことを思い出していた。



◆◆◆



「今日より1ヶ月間、君たちにはこの『アカデメイア』に留まってもらう。

 その間に、ロバロ公国と『キュノサルゲス』には、対『ブルゾス』、対『デウス』の対策をこうじる。具体的には、人員の増強や結界の強化…一番はロバロ公国内の危険人物と思われるの者の排除…とかな」

 フロガが苦笑をまじえつつ、そんな話を始めた。

 秋たちが唖然となっている中、直人だけは想像がついていたのか、落ち着いてフロガに質問をしていた。

「では…真っ先にアンナ様を排除したり…しないですよね?」

 真剣な顔で真剣な――内容とは思えない質問に、秋たちが一斉にコケそうになる。

「リストのトップではあるだろうが」

 フロガは動じることなく――真剣に答えた。

「真面目にやってくださいよ」

 秋が直人に怒り、直人も「ごめん、ごめん」と苦笑いを浮かべ謝った。

 フロガに怒れないのは――まだ遠慮があるからだ。

「まぁ…別な意味で危険人物だろうな、アンナ殿は。そんなアンナ殿を助けたいから…ノモスが思い切ってこうじた策でもあるのだが……」

 フロガがそんなことを付け加える。

 秋やセスカたちが驚いてフロガを見たが――これに続けたのはナギだった。

「あなたたちには1ヶ月間、この『アカデメイア』で出来る限りのことを学んでもらいます。准士じゅんし…シュウやナオトには学生と言ったほうがわかりやすいのかもしれないけど、それになる必要はありません。

 ここにいるアーラたちにも手伝ってもらい、ランクアップしたあなたたちの能力の使い方や剣術の鍛錬、戦闘の知識…それらを中心に「修業」と捉えてもらってかまわないわ。

 戦いを望まないあなたたちには辛いことだとは思うけど、差し迫った状況を考えると、いつかは必要になることだと思うから。

 ここには『キュノサルゲス』にはいない高ランクの『アトスポロス』が揃っています。

 彼らを相手に、出来うる限りのことを私たちもやらせてもらいます」

「…ひとつ質問なんですが……」

「どうぞ…シュウ」

 ナギが微笑んで秋を見た。

「この内容には関係ないんですが…『アトスポロス』は『ガイア』…『地球』が選んだ人間なんですよね?

 自分が選んで『ブルゾス』を倒すために与えた力を、そんな人間同士で戦って、『ガイア』は何もしてこないのか……って思ったのですが」

 それにはフロガが答えた。

「しない。『ガイア』は、『アトスポロス』として選んだ人間が『ブルゾス』さえ退治することを続けていれば、何もしてこない。

 だからアラヤやナユタのような連中が存在出来る。

 『ブルゾス』を利用しながらも、それを退治し、『ガイア』からの「粛清」を免れている。

 悲しい話だが……立場は少し違うがこの2人に限らず、『アトスポロス』の能力を対「人間」に使う連中はけして少なくない。傭兵やどこの国にも属さない魔導騎士や魔導戦士などにはそういう者たちが多いんだ」

「……なるほど」

 そう納得する言葉を返すものの、秋の表情は冴えない。

「シュウ、これだけは知っておいて欲しい」

「はい?」

 秋がフロガを見た。

「…『ガイア』は能力を与えた『アトスポロス』には、その後基本的に介入はしてこない。

 だが、一部だけ…例外がある。それが『第2級 (ゼフテロス)』以上の『アトスポロス』だ。世界にどれほどの『アトスポロス』とイロアス協会は認めた者はいるか俺も把握していないが、『第2級』と認定された『アトスポロス』は…今のところ30人ってところだろう。

 俺から言うのもおかしいが、『ガイア』から見れば、それが真の『アトスポロス』と言えるのかもしれない。

 その中でも特に『ランクアップ』する『アトスポロス』は、『ガイアの申し子』と言って、

『ガイア』の加護がついてまわる。

 いつどのような加護を受けるかわからないが、そのひとつの例が、アダの目やベンジーの足という形だ。

 基本的にランクは、生涯に渡って変化しないものなんだ。

 それがトントンとランクアップしていく君らは、『ガイア』にとって最も護るべき…愛する子供たちなのかもしれない……」

 そう聞かされて――秋はただ呆然とフロガを見つめるしかなかった。

 たぶん――その自分の立場を自覚しろ――と言っているのだろう。

 それだけは秋にも理解出来た。 



◆◆◆



「ふざけるなっ!!」

 アンナの怒りは収まらない。

 自分の部屋にノモスを連れ込み、大声で怒鳴り散らしている。

 ノモスはそれを仕方なく聞いていたが、何十回目かの「ふざけるな」の台詞のあと、ようやく口を開いた。

「もう…この辺でよろしいですか?」

「貴様…まだ言い足りないっ。今すぐ撤回しろ」

「無理です」

 きっぱりと――ノモスはアンナに言った。

「貴女は私に「タイミングを間違えるな」とおっしゃいました。

 私もこれが最善のタイミングと判断してのことです。そして私は貴女の意見に同意しているわけではない。ロバロ公国の未来を託される立場ではない…とだけお伝えしておきます」

「……わかった。ならフォマーに……」

「それはおやめください」

「何故だっ!!」

 アンナが怒り心頭でノモスに問うた。

「フォマー様の政治手腕は私も評価させていただいております。

 が、秋たちを襲った黒幕と思われる…疑いのある人物に、フォマー様はつながりを持っています。

 彼自身はそう思われていないでしょうが、フォマー様からその人物に情報が伝わった可能性があります。また、フォマー様の傍にいたことで情報を得たこともあったでしょう。

いずれにしても、疑いのある数人の人物の中に、フォマー様と関わりのある者が幾人かおります。あくまでそれは「疑い」の域を超えないのが…わたしたちの力不足なんですが」

「ではフォマーを探っていれば、その人物とやらに行き当たるのだな?」

「それこそタイミングを間違わないでください。今、大公の代理は貴女なのです。当然協会の人間で1日中、監視させていただきますが。

この宮殿内にも協会の人間が溢れかえることになり、彼らも表立って活動は出来なくなるでしょう。

 探っても無駄ですし、アンナ様は何も出来ませんし、やらせません」

「貴様ぁっ!!」

 これも何十回目の「貴様」だったのだろう。

 ノモスはそれを涼しい顔でやり過ごす。

「では私はこれで…それと、貴女は今のところ、別な意味で一番の危険人物ですので、真っ先に護衛の強化をさせていただきます」

「ふざけるなぁぁっ!!」



 ノモスは20人ほどの、イロアス協会から対「アンナ」のために派遣された――ノモスの側近たちによって部屋の内外を固め、今だ怒りが収まらないアンナに配置した。

 部下の苦労は目に浮かぶのだが――仕方がないことと理解してもらおう。



 


 そしてノモスは廊下で一息つき、その後窓の外を見上げた。

「戦いはこれからですよ…シッジル殿」







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