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第53幕  僕らは「異端」だ。だからこそ!

 ロバロ公国――「スヴェートスチ宮殿」内、大将軍専用室。

 


 昨日アンナはイオより、イロアス協会の関係者から、秋たちが『デウス・エクス・マキナ』の刺客、「アラヤとナユタ」に命を狙われ、秋を始め、ベンジー、セスカ、アックス、アダ、直人、カエナの6人と1匹が瀕死の状態に陥っていることを聞かされた。

 


 アンナはこの部屋で一晩を過ごし――今日になって、全員が一命を取り留め、意識を取り戻している者たちもいるとの再度の報告を受けた。

 アレティ、イルエ、クララは無傷。

 そして秋たちの怪我も2~3日の間に、ほぼ完治するだろう――とのことだった。



 その後、アンナはこの部屋にノモスを呼び出した。

「…本当に良かったですね」

「あぁ…本当に良かった……」

 普段の豪快さはなりを潜め、アンナは憔悴しきった表情で、実感を込めてノモスの言葉を繰り返した。

「…これで腹は決まった。

 アレティやシュウたちを『アカデメイア』に預ける良い口実も出来た。

 あとはマルガリタリ女王陛下やスフェラ殿が上手くやってくれるだろう。

 大きく成長したあいつらの顔を拝めないのはとても残念だけどな」

 寂しそうな笑みで話すアンナに対し、ノモスの表情は渋面のままだ。

「私はシュウやアレティ様たちが、いくら女王やスフェラたちが話したところで納得するとは思いませんよ……」

「困るんだよ。納得してもらわないと…。

 それとノモス。君をここに呼んだのは、私にもしもの時があったなら、ロバロ公国の全権を君に委ねたいということの再確認だ。

 それから…だいぶ絞り込めたのか?敵の正体は?」

 まるで世間話のように笑顔のまま話を進めるアンナに、ノモスは軽くため息をつき、仕方なく口を開いた。

「……馬車の件や「アラヤとナユタ」が出てきたことで、間違いなく敵は大臣クラス…またその側近の何者かが関与している可能性が高くなりました。

 アンナ様にとっては、お身内のどなたかが関わっている…と考えてよいかと思いますよ」

「そうか。シュウたちが帰ってこないとわかれば、あぶり出しに私を狙う可能性は大きいな」

 アンナの顔に浮かぶ笑みは、大胆なものへと変化していた。

 「そのとき」を待ち焦がれているかのように――。

「アンナ様。策はいくらでも……」

「待ったんだよ…10年も。待ちくたびれるぐらい待ったんだ。

 やっとこの大嫌いな「赤」色からも開放されるチャンスなんだよ、ノモス。

 タイミング…間違えないでくれよ」

 アンナは積年の恨みを込めて、見えない敵へと思いをはせ、ノモスの説得にすら聞く耳は持ち合わせていなかった。

「…何故それほど大嫌いな「赤」を身につけておられるのです?

 脱いでしまえばよろしいことでしょう」

 ノモスはわざとアンナを怒らせるような質問をぶつけてみる。

「「誓い」なんだよ」

「…誓い…ですか?」

「「赤」は私の敬愛するシャルロッタ姉上の大好きな色だった。そして私の嫌いな「血の色」だ。

 10年前…姉の暗殺された場所は、本来私が赴くべき場所だった。

 姉は私の代わりに行ったために殺された。

 そして私は「誓ったのだ」よ。姉の仇をうつまでこの大嫌いな「赤」い色を身に着け続ける…とな

 それから10年…ようやくその機会が訪れる。だからタイミングを間違えるなと言うんだ」




 秋や直人の言葉を借りるなら――今のアンナこそ「死亡フラグ」が何十本と立っているのではないだろうか。



 ノモスは考えを巡らす。

 アンナが考えていることとは――おそらく真逆のことを。

 どうすればこの「最悪」の事態を回避出来るのか?

 


 それはエリュシオン大使として――この事態の収集を収めるために派遣されてきたイロアス協会のメンバーとして。一番の腕の見せどころかもしれない。

 ノモスは決意を固めた。



◆◆◆



「…僕らは「異端の存在」…ですか」

 スフェラの言葉を受けて、直人が冷静に答えた。

「異世界から来たナオトやシュウが「異端」と言ったんじゃない。

 高ランクの『アトスポロス』のことを言い表しただけだ」

「…ふざけるなよ……『アカデメイア』の先生だからって我慢してりゃ……」

 秋が顔を俯け、肩を微妙に震えさせている。

「シュウ、こんな話を聞くことはない」

 アックスが秋に言った。

「その通りだシュウ。私も聞いていて腹が立った。

 「異端」というなら、余計にここにいても迷惑だろう」

 セスカもアックスに続いた。

「それは大丈夫だ。たかだが出来て数年程度の『キュノサルゲス』と、こういう場合を想定して作り上げ、その都度増強していった…出来て数千年の『アカデメイア』では、古さと実力で雲泥の差がある。一緒にされてはこちらが困る。

 そして過去においても、今においても、お前さんたちのような奴は掃いて捨てるほどいるんだ。なにもお前さんたちだけのお話ってわけでもない。

 それに…これはアンナ大将軍のご意思でもある」

「はっ!?」

 最後の言葉は――特に秋たちは驚いた。



「アレティ殿が、女王陛下に渡したアンナ殿からの「親書」がそれだ。

 中身は…イレクスのことを侘び、君たちの身に起こった数々の事件、事故。

 そのことに対し、ロバロ公国内…かなり高い地位にいる者が企て、関与している可能性が高いということ。

 だがその人物の特定には至らず、今回の旅はとても危険を伴うことが考えられる。

 だからこそ、もしも君らの身に危険が迫り、ロバロ公国に戻ることが危ないと判断された場合は、君たちの身柄を『アカデメイア』で保護して欲しいと。

 もちろんアレティ殿込みでの話だ。

 アンナ殿だってとても寂しいだろうさ。

 「親書」の方にも、君たちはまるで子供のように可愛いと書いてあった。

 だからこそ、これ以上の危険に巻き込みたくないのだろう。

 その思い…君らは自分たちの勝手な気持ちで踏みにじるつもりか?」

 一瞬秋たちの反論が止んだ。

「どちらにしても……イロアス協会も、エリュシオン王国としても、「アラヤとナユタ」まで動員させた君らの存在を消させるわけにいかない。

 


「アラヤとナユタ」という名が歴史に登場したのは…今から30年ほど前。

 その名が関与し、滅んだ国の数は5……それは少ないと感じるか?

 たった2人でだぞ?国ひとつの軍が束になって敵わないんだ……。

不老不死アンテッドの化け物」と噂されるだけの凄まじい戦闘力。

 その2人が関与して生き残ったのは君らが初めてだろうよ。

 「アラヤとナユタ」の秘密まで暴露させたんだから…。それだけあちらとしても君らの抵抗がすごかったと認めた…ということだ。

 余計に君らを我々としても失うことは出来ん。

 いずれにしても、君らがどんなに拒絶しても…もう決まったことだ。認めろとしか言えないけどな」

「…そう…ですよね」

 直人がスフェラに同意するような言葉を吐き出した。

「直人さんっ!?」

 秋が驚いて直人を見る。他のメンバーも同じだ。

「……それが普通の『アトスポロス』でしたら従うべきでしょう。

 でも僕らは残念ながら「異端の存在」だ。普通で正しいことからは外れてしまっている。

 それでは余計に従うわけにはいきませんね」

 そう言った直人の笑みに、スフェラが頭を抱え、秋たちの顔に明るさが増した。

「それは屁理屈ってんだよっ」

「そうですか?言ったのは貴女です、スフェラ・ディアマンディ(ダイヤモンド)・パンセス教官。僕らはそれに従おうとしてるんですよ?」

 秋たちが笑い出した。確かにその通りなのだ。

「…アンナの王導師だけはあるな…ナオト・アエラキ・カザマ」

「恐縮です」

「だがけして認められねぇ。私が全力でわからせてやってもいいんだぜ?

 私の全力は…「アラヤとナユタ」以上とだけは言っておく」

「最後は実力行使ってわけですか」

 直人の表情に険しさが増す。恐怖ではなく、怒りからによるもので――。



「それでは…オレらも加勢しますよ」

 そう言ったのはアーラだった。

「さすがに私の弟子だ。よく言ったな。現状をよくわかっている。えらいじゃないか」

 スフェラは弟子の発言を喜び、秋たちは唖然とアーラの顔を見た。

 やはり――『アカデメイア』の味方なのか――と。

「いいえ。加勢するのはシュウたちにです。

 オレたちもシュウたちの意思を尊重します。だからスフェラ師匠が力づくで彼らをねじ伏せようとするなら…オレらは全力でシュウたちに力を貸し、彼らの思いを助けたちと考えています」

「それは俺たち全員同じ気持ちです。スフェラ師匠」

 ジンも間髪入れずアーラに続く。

 ヴノ、クレイ、ミゲ。エペにプリムラも。皆ジンの言葉に大きく頷いた。

「…お前ら……いい加減にしろよっ」

 スフェラが呆れ気味に大きく息を吐き出し、秋たちからは歓声が上がった。






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