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第28幕  その始まりのきっかけ

 団長のワルーンを先頭に、神聖アギオ騎士団の50名と秋たちの団体は、街道を北へと向かっていた。

 その勇姿に、すれ違う人々は興奮した様子で、一行を見送り――手を振る者たちもいた。

「…なんか人気あるような……」

 そんな人々の様子を見ていた秋の感想である。

「『ブルゾス』退治の救世主だからね。ロバロの国民には意外と人気あるんだよ。

 神聖騎士団は」

 そう言うアダはどこか誇らしげだ。

 そして何より、セスカの姿を見つけた民からは、黄色い歓声があちらこちらで上がった。

「本当に人気あるなぁ、お前」

「…嫉妬するか?」

 セスカの人気に秋は感心していたが、セスカはにっと笑って秋に訪ねた。

「嫉妬…ってより、素直に嬉しいよ。セスカはそれだけ人のために頑張ってきたんだからな……」

 セスカは――自分の乗る馬を、秋の乗る馬に寄せ、ピタリと横付けにした。

「……そうシュウに言われると…すごく嬉しい」

 恥ずかしがるセスカのなんと可愛いことか。

 が、周囲には、セスカがついこの間まで所属していた騎士団の仲間たちがいるのだ。

 ひゅーという冷やかしの声と、「熱いねぇ、新婚さんは」と揶揄する声と。

 秋はなんとも照れくさくて居たたまれない心境になった。

「……アックスは…随分落ち着いたね?」

 1人、黙々と馬を進めるアックスに、アダが声をかけた。

「…諦めと慣れ…だな」

 悟りの境地とは、こういうことをいうのではないか?

 アダはいつもと同じ――落ち着いた表情を崩さないアックスを少し尊敬してしまった。



「これ…ペース早いの?」

 ベンジーが馬の頭に立ち、そう言いながら秋に振り向いた。

「どうなんだ?」

 秋が隣にセスカに訪ねた。

「早くはない。ケイナの街で一泊すると団長も言っていた」

「ふうん。初めてのお泊りだね」

「……そういや…そうだよな」

 相棒は――ベンジーはいつも前向きだよな。

 緊張で肩に力の入っていた秋は、ベンジーの楽しさからくる興奮気味の様子に、その力を抜くことが出来た。

「シュウ、先は長い。ここから緊張してもあとが持たないぞ」

「……だな」

 セスカにも心配されていたようだ。秋は苦笑いで答えた。



◆◆◆



「よしっ。今日はここに一泊したあと、明日は早朝からザイタンへ向けて出発する」

 ワルーンの説明のあと、騎士たちはそれぞれ割り当てられた宿の部屋へと分かれていく。

「ケツ痛ぇぇ」

 乗馬は父の趣味で、小学生のころからの経験があるとはいえ――これほど馬に長く乗り続けることはしたことがない。

 上下の振動に、秋のお尻の痛みは限界だった。

「シュウにとっては慣れない遠乗りだからな。でも、さすがに乗り慣れているというだけあって、堂々としてたぞ」

「……ありがとな。でも痛ぇぇ」

 お尻をさする姿がなんとも情けない。

「だが、シュウが乗馬の経験があったおかげで、我々も助かった。

 お前が行くことが決まった時、正直馬車の用意を考えていたからな。

 ナオトは…今はいいが、最初は馬に近づくことさえ出来なかったくらいだった」

 そう言いながら歩み寄ってきたワルーンの話に、秋はなんだが直人が意外に情けない面が多いんじゃないかと思えてならなかった。

「人間、完璧はないからな。今のシュウの姿も情けなかったし……」

 ワルーンにくすくす笑われて、秋は「すみません」と謝るしかなかった。

「秋ぅ、セスカぁ――助けてぇっ!!」

 ベンジーの声がした。

 秋とセスカの表情に緊張が走る。そしてワルーンも――と、ここで3人の顔が――呆然としていた。

 ベンジーとクララは、馬たちに興味を持たれ、繋がれているとは言え、馬たちにしきりに匂いを嗅がれたり、顔をすり寄せらりたりと――2匹としてはパニック状態だった。

 ここで3人はつい――あまりの可愛さに大笑いしてしまった。



「ひどいよ…秋」

「本当ですわ。シュウ」

「どうして俺ばっかり責めるんだよ。ちゃんと助けたじゃんっ」

 すっかり拗ねてしまったベンジーとクララに、秋は助けたことを強調した。

 しかし自分たちが大変なときに、大笑いしていた秋たちに2匹は怒っているのだ。

「うわぁ、僕も見たかったなぁ」

 アダがつい――口を滑らせた。

「アダともう口きかなーいっ」

「ごめんなさいっ!!ごめんね、ベンジー、クララっ!!」

 2匹のご機嫌は――直るのに時間がかかりそうだった。

「可愛いところ申し訳はないが、シュウたちに少し話がある」

 ワルーンが人差し指を部屋の外――ドアの方を指していた。

 この部屋ではまずいのだろうか?

 秋とアダが顔を見合わせたが、セスカ、アックスの表情は真剣そのものだった。



 ワルーンの案内で、宿の外――裏の雑木林の――少々奥まった場所まで案内された。

「こんなところ…メルさんに…イレクスさん」

 すでに林の中には、メルと、騎士団では副団長補佐という――騎士団では3番手の地位にあるイレクスという人物が待っていた。

「遅かったですな」

「すまない。ちょっとヤボ用がな」

 ワルーンがメルとイレクスに目配せをする。

「この近辺に人や『ブルゾス』の気配はありません」

 イレクスの答えに、ワルーンが頷いた。

「ここの6人(ベンジー、クララ含め)に来てもらったのは、この遠征の真の目的を話すためだ」

 すでにその目的を察していたのだろう、セスカが口を開いた。

「どういうことですか?」

「そう警戒するな。シュウを危険に合わせるために、ここに連れてきた訳じゃない」

「……そうですが……」

 セスカが途端、恥ずかしそうに小さい声で答えた。

「実はこの遠征は…とある敵の確認のためという意味がある」

「敵の確認?」

 アックスの表情は更に緊張を増した。

「あぁ。反ロバロ派の『イデアール』や『ブルゾス』ではない。だが、この2つに大きく関係した連中だ」

「……それは?」

 アダがワルーンたちに問うた。

「ここ数カ月、『キュノサルゲス』と同じ『綺晶魔導師メイスン養成学宮』である『アカデメイア』で、君たちも知っているだろう今年の4月の入学時に、頭角を現した5人の高ランクの『アトスポロス』である准士(学生)たちと、すでに名の知れた『アトスポロス』の准士たちが、何者かに頻繁に命を狙われている。

 敵の名は『デウス・エクス・マキナ』。

 『カタフ』という死人にとり憑き、そのままその体に居座った『ブルゾス』派のゾンビ連中を集め、その『アトスポロス』たちの命を狙っている。

 そいつらがこのロバロ公国に現れたという報告が入ったんだ」

「……それは?」

「お前たちを狙っている――ということになるだろうな」

 アックスの質問に、ワルーンの説明を聞いていたメルが代わって答えた。

「あの…意味が……」

 アダは少々戸惑っている。話の辻褄が合わないのだ。

 自分たちを狙っているというのであれば、この遠征に連れ出した目的に矛盾する。

「だから言っただろ。敵がそうなのかという確認と…ここ1ヶ月、ザイタンの街の周辺で行方不明者が30人以上も出てりゃ、異常事態だろうが」

 メルの話に秋たちは驚いた。

「『ブルゾス』だけならその近辺だけということはない。もっと広範囲に被害が出る。

 『デウス・エクス・マキナ』は、組織的な動きをする厄介な連中だ。

 ザイタンには『ブルゾス』が集まる『不浄地』が存在する。

 その『不浄地』の『ブルゾス』の量も、ここ1~2週間で異常に高くなってきているそうだ。大量の行方不明者との件と何か関連があると考えて間違いないだろう。

 そして、その『カタフ』が確認されたのも、そのすぐ近くなんだ。

 商人の馬車を襲い、馬車に積まれていた荷物には手をつけず、乗っていた3人を連れ去って行ったそうだ。

 それを報告してきた協会の『調査役』数人が、3日前から連絡が取れなくなっている」

 秋たちが黙ってワルーンの話に聞き入っていた。

「この遠征に来ている連中は騎士団の精鋭ばかりだ。

 実を言うと、メルさんがエリュシオンから直接連れてきた連中なんだよ。

 セスカたちは当然知っているが、対『ブルゾス』の訓練だけじゃない、こういう場合の訓練も経験してきた猛者ばかりを集めた。

 これは演習と言う名の――ちょっとした『戦争』だ」

 イレクスの話に顔を強ばらせた秋を庇い、セスカが抗議しようとしてワルーンに止められた。

「お前の気持ちはわかる、セスカ。だが、シュウやベンジーたちはこれからもっと凄惨で厳しい現実を相手しなければならない。

 事実すでに『アカデメイア』の准士たちは、その戦いに嫌でも巻き込まれているんだ。

 もうあまり時間もない。それはシュウやベンジーが高ランクの『アトスポロス』であり、その仲間であるお前たちが一番の標的と考えられる以上、その現実を受け入れないといけない必要がある。

 敵はほっといてはくれんだろう…だからこそ、シュウたちには経験が必要なんだ」

「ワルーンさんたちの話はわかりました。これは俺とベンジーのためでもある…ってことですね?」

「そうだ。ひどいとは思うが……」

「……とにかくそのザイタンという街に行くっきゃないってことな訳だ」

「…ありがとう…シュウ」

 ワルーンは秋に頭を下げた。

 セスカは愛想笑いを浮かべる秋の心中を思い、唇を噛み締めた。






 


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