創造譚
神が人間に施した、是正措置とは一体
「で、報告はまだかね。」
そういうと天使は神に書類を献上する。
「ここに全てのデータを集約しました。どうぞご高覧を。」
「ほう。」
神は受け取った書類に眼を通す。
「なんだこれは」
そこには人間の欲が生み出した醜態がありありと書き連ねられていた。
自然環境の破壊。
妬み、憎悪、甘え、裏切り等々の道徳無き心理作用。
それに伴う社会秩序の混沌と温和な心の退廃等々。
全てを憂え終えると神はため息をつく。
そして書類をぶちまけて叫んだ。
「人間を担当している者は誰だ、出て来い!」
神に名指された一人の天使が虚空に遊ぶ書類の紙片をかき分けおずおずと前に出て言った。
「昨今の人間の心理には、私も呆れ果てます。」
神は眼を見開いてその見解の根拠を問うた。
「と、言うと?
何故人間の心理に呆れ果てるのか。
具体的な事例を挙げて説明してはくれないか。
私はね、人間の世界にはあまり興味が無いからできる限り詳細に頼むよ。うん。」
人間の管理を担当する天使は神に人間の態様の報告を始めた。
それに神は時折コメントをつけて返した。
「人間の世界は彼らが年号を意識し始めてから2050年という時間が経ったそうです。
なんでもその中で神が人間を創造した際に進化と発展を助けるために授けた「欲」が、
良くない方向へと人類のベクトルを傾斜させているようなのです。
部下から報告を受けているデータを頼りに、以下具体的態様を述べあげます。」
「ふむ。」
「人間はバス・電車などという労働資本運搬容器、そうですね、いわば牛車にすし詰めにされて一人一人が目的とする場所へ集まるため日々向かうのですが、その過程において人間の欲がとくに顕著に現れているということだそうです。
例えばその労働資本運搬容器には立ち続ける人と座り続ける人が混在していて、座り続けていた人がその権利を手放すと立ち続けていた人や新たに乗り込んできた人が権利欲しさに血眼になって椅子取りゲームを始めるだとか。
他にもいっぱいになった労働資本運搬容器に道徳の欠如した人間が僅かな隙間に入り込もうとする、時間厳守という規則を守らない、道徳がなっていない等々、欲を抑えきれずにモラルを蹴散らすという想像に難い現状がそこにはあるようです。」
「下らん。」
「また人間は義務を為さずに欲求に流されるままに自分に法という、そうですね、人類の決まりごとによって付与されし権利のみを叫び不満ばかりをたらしているそうです。」
「こざかしい。」
「他にも甘えなどの欲望に支配された“金”という人間の世界における価値が具現化された物を貪り求めんとする者たちが、だましや裏切り等々卑劣な手法を使ってその価値具体化物、金をかき集めようとしているそうです。」
「なに?」
「そして思い通りにならないという欲求不満に囚われてあたりにいる無関係の人間に日ごろの不満をぶつける、いわゆるやつあたりや陰口の横行等々。
特にこの件に関して枚挙しなければならない例は“殴られ屋”という商売の流行という現象です。」
「何だそれは?」
「先述いたしました価値具体化物の多寡によって人間が悩まされる「貧富の差」というものがどうやら人間界にはあるらしいのですが、それなりに価値具体化物を持っている人間があまり価値具体化物を持っていない人にそれを分け与えることによって、一定時間支払人が受領者に対し日ごろの不満を晴らすべく殴る蹴るの暴行を加え、もって精神的な満足を得て帰っていく、そしてその対価として殴られ屋が価値具体化物、金を得るという醜悪な商業体系が蔓延しているようです。」
「は?」
「さらには人間達が口にする飲食物を作成する「企業」という人間の集まりが、人間の食欲を不必要に増進させる薬物をその供給する飲料物に大量投入し、それを口にする人間が異常な購買を起こし、もって飲食物の供給者が莫大な利益を上げるという卑劣な商業が蔓延しているようです。
さらにはそれに伴う“肥満”という人間における状態異常を治癒する薬をまたもや「企業」という人間の集まりが白々しくも供給し、莫大な富をあげるようなまったくもって無益で馬鹿げた営みがなされているというらしいのです。
以上、神が人間に授けた欲の弊害と思しきものを、私が報告を受けた順に発表いたしました。
今この時点で私はもっともっと人間そのものの研究及び人間界における現地調査を進めていく必要があると考えております。
長い間人間を放っておいたという怠慢もあるのかもしれません、申し訳ありません神。」
天使が言い終えると神は先から震わしていた拳を振り上げて叩きつけた。
そして眼を見開いて憤怒する。
「私はそんなつまらぬことをさせるために人間に欲を備えたわけではないぞッ!」
人間界に雷が落ちた。
慌てふためき驚く神に召集されし、天使一同。
側近の天使たちはあたふたと神のご機嫌を取ろうとする。
そこで人間の管理を担当する天使は言った。
「ごもっともです。そこで提案なのですが、是非ここは一つ人間に是正を施してみてはいかがでしょうか」
人間担当の天使がそう言うと地球の自然環境を管理する天使も追随した。
「神!人間と自然との調和も考えてください!人間の欲が今自然にとって非常に危険かつ重大な侵害の原因となっているのです!神はまた新しい惑星を、生命体を作ればいいとお考えなのですか!?それではあまりにもコストがかかりすぎます!」
「ご決断を!」
「ご決断を!」
追随する他大多数の天使たち。
神は騒がしい天使たちを見て呆れ果てた。
これが人間の世の中か。
つまらないことに手を煩わせてくれる。
消してやろうか、でも面白くない。
それでは知恵ある動物としての人間をつくった意味が無い。
もうすこし人間を見て楽しんでいたい。
一連の思考を経て神はひらめいた。
そして騒動を起こしていた天使たちを鎮めるように言った。
「よろしい。私に良い考えが浮かんだ。皆の衆、今日はもう下がってよいぞ。
人間担当の天使は、このあと私の下に来るように。」
神の口元には不適な笑みが浮かんでいた…。
「か、神!なりません!そんなことをしては!人類の文明は停止してしまう!せめて価値具体化物を無くすにとどめてください!」
人間担当の天使が叫んだ。
しかし神は反論する。
「ふざけるな!そんなことしても石ころ100個で薬草1個などといった経済ができあがってしまうだろうが!私はやる!やるぞ!」
言うと神は天使の反対を押し切って、座っていたイスから立ち上がる。
そしてそのまま手を大きく広げて何かを造物した。
そして足で円を描くと雲が穴を開け、人間界への道を示した。
神は満足げに微笑んでその人間の形をした生成物にこう言った。
「さぁ行けグリーター。人間共の欲を食らい尽くして来るのだ」




