花
「贅沢じゃけ!」
「これだけで千五百円?!」
「蛍がビールってめずらしいな」
「焼肉ならビールじゃけ」
「花もどんどんお食べ」
静香が、焼けた肉を全部花の皿に入れた。
楠木が、店員に「ハラミ」と言うと、静香が、「お兄さん!ビールも!」と言った。
「初めてじゃけ?」と、楠木が花に聞いた。
「初めてじゃけ!!」と、静香が答えた。
「たれが、上手いじゃけ!!」と、蛍も言う。
花は、静香が皿に入れてくれた肉を口に入れた。
楠木が気を取り直してもう一度花に言った。
「初めてじゃけ?」
「初めてじゃけ」と、ようやく花が蛍と静香の間で答える。
特に騒がしい音楽はないのだが、焼き肉屋の一角を借りての商談だった。
楠木からの条件は、花を自分の王子製紙の中の一角に囲いたいという、ある種の「連携」であった。
河原町からの花のファン以上である、楠木は、渋々花を、黒澤に渡した経緯がある。
「最近のSNSは、パパ活ならぬオフパコじゃけ」
皆伐は、本当のところ酒は苦手だった。
重要な商談とあらばなおさらなのだが、黒澤は、「あえて飲め」というので、仕方なく二杯目のビールに口をつけた。
「再三、商談を持ちかけた八坂が手を引いた。マフィアが動いとる、伏見は、喉から手が出るほど欲しかったが、泣く泣く手放したじゃけ。じゃが、花はやれない」
黒澤の手には、ビールではなくハイボールがあった。
ここ焼き肉屋の「藤寿」では、大手電機メーカーが幅を利かす、黒澤はそれを知りながらも、祇園との、ある種のコビを含め選んだ商談の場所である。
「そこでじゃが・・・」
皆伐が言うと、店員が、「ハラミお待ちです」と、肉を並べた。
女の店員が後ろから、「ビールです」と、全員分を持って来る。
「うまそうじゃけ!」と、蛍が肉を見て興奮している。
「どんどん焼くじゃけ!」と、静香が鉄板に肉を並べた。
じゅーという音とともに、煙が上がる。
「どうもじゃけ?高級な肉というのは、食べた気がしないじゃけ」
静香が言った。
「飯をもっと食ったらいい。サラダばかりじゃ飽き足らぬ」
蛍は、どうやら酔いが回り始めたようだ。
「SNSは、今後すだれて行くじゃけ。ただ、「京」と言いながら、時間ばかり過ぎて行く、森林伐採による紙不足も、茶番じゃけ。うちはそれより、舞妓たちをどうにかして欲しい。現実は、「楽」を求めるばかりではなく、金ではない、女が暴走する」
花の言葉に、一同がシーンとした。
深刻と茶番の狭間で、祇園はうごめく。
花の伝えたかったのは、現実という真実であり、救いの嘘という真理であった。
蛍は、ビールを一口飲んだ。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは、現実のことだろうと思いつつ、それをどうにか、笑いに出来ないだろうかと、深刻になり、それこそ、本末転倒だと思う。
「ハラミが焼けたじゃけ」
静香が、肉を皆に分配する。
とろけるような肉の味は、この世の真実だと思う。
「国産牛とは、なんとでも言える」
蛍は、深刻さよりたかがはずれる方を選んで、事なきを得る方がいいと思いつつ、ご飯をほうばった。
「美味しかった」
蛍が言ったのだが、花も静香も同じく満足だった。
楠木が会計をした。
「また、おいでやす」
楠木が、「おおきに」と言った。
花は、楠木をパトロンとし、黒澤はそれをOKした。
祇園は今後、舞妓を中心として成り立つならば、セックスにおいての倫理観をどうしようか?
そして、そのあとすぐに、花のひきいる祇園は繁盛するのである。
性批判は、男事情である。
けしてセックスしない娼婦、花は十六歳であるが、黒澤の妻としてそこにいた。
皆伐は、その後、祇園のトップに立つことで、この世界の変革をねらう。
この京都祇園では、花が十八になるまでの間、うなぎ上りに人気をえるのだった。
不穏な空気は、時に安心に変わる。
黒澤が花にむしゃぼりつく時、花は、安心しながらもあせりを感じながら、それでも至福であった。




