ゴミのような存在だと蔑まれてきた令嬢ですが
貴族令嬢である私は、恵まれた生活などは送ってはいない。
いつも蔑まれて生きてきた。
それは、一族の中で、私が唯一無能だからだ。
貴族とは、選ばれた存在。
特別な存在だ。
先祖に世界を救った住人の英雄の血が流れている。
その影響で、貴族は英雄の子孫にふさわしい能力を扱える。
炎を操ったり、水を出したり、雷を自在に扱えたり。
けれど、私は何の力も扱えなかった。
だから、ゴミのように、役立たずな存在だとさげすまれてきた。
けれど、そんな私を愛してくれる人がいた。
家から出たいと。
貴族の世界で生きたくないと、そう泣いていた私に、とある使用人が手を貸してくれるといった。
「ゴミのような存在だと蔑まれているご令嬢ですが、私にとってあなたは宝石のように尊い存在です」
いつも自分を無価値だと思ってしまう私に、彼だけがそういってくれたから。
彼とならどんな世界でも、どんな場所でも生きていけると思ったのだ。
私は三日三晩悩んだ後、彼の手を取って、家を抜け出した。
そして、遠くの辺境の地に腰を落ち着けた。
新しい生活は大変な事ばかりだったけれど、とても充実した日々だった。
けれど、そんな日々は長く続かない。
世界中で、男性よりも女性が多く罹患する、謎の病が流行した。
その影響で一族の女性が病に倒れ、新しく子供が残せなくなった。
実家の者達は、私は無能でも、その子供は違うかもしれないと思ったのだろう。
私を探してほしいと多くの人に頼み、賞金まで用意した。
いち早く情報を掴んだ事で、私は住んでいた場所を離れる事ができたけれど、逃避行は長く続かない。
私は、彼と別行動している時に、お金に目がくらんだものたちにつかまってしまった。
そんな私を、神様が哀れんでくれたのだろうか。
荷物のように詰め込まれた馬車の中には、武器になるものが多くあった。
まさか元貴族令嬢である娘が、物騒な武器を手にしようとは思わなかったのかもしれない。
管理が甘かったのだ。
この先、私の人生が誰かに辱められ、利用される道しかないというのなら、ここで命を落としてしまおう。
そう思い、私は喉に剣を突き付けた。
けれど、私の頬を涙がこぼれる。
一度知ってしまった穏やかな生活、幸せな日常が恋しい。
もう一度そんな日々を送りたかった。
そんな私はとうとう決心ができないまま、実家に戻ってしまった。
元居た時は一度も着たことがない豪華なドレスに身を包み、贅沢な家具の置かれた部屋で過ごす私は、時期に誰かの妻となり、飼い殺しにされる運命だ。
私はやはり、命を絶つべきだったのだろう。
四六時中見張りがついていて、しかも治癒の魔法を使える一族のものが近くに控えているため、自ら命を絶つことなど、不可能だ。
深い後悔にさいなまれた。
そして、とうとう誰かの妻にならなければならない日がやってきた。
私は、辺境の地できた質素な花嫁衣裳など比べられないような豪華な服に身を包んだ。
式場に連れてこられた私の前にいるのは、性格が悪いと有名な貴族の男性だ。
蔑んだ目で視線をあびせてくる彼を、私はこの先一秒だって愛する事はないだろう。
式は進行し、私は新郎と誓いのキスをしなければならなくなる。
私は、抵抗しても無駄だとあきらめた気持ちで、なすがままだった。
いよいよ互いの唇が降れるとなった時に、式場の扉が勢いよく開かれた。
何度も夢の中に見た彼の姿がそこにいた。
私は、涙をこぼす。
「問題になりますよ」
「それでもかまわない」
彼に手を引かれて、式場から一緒に走り去る。
「追手が放たれ、すぐに命を落とすかもしれません」
「それも本望です」
この先には厳しい逃避行しか待ち構えていないだろう。
「ゴミのような存在だと蔑まれてきた令嬢ですが。こんな私をもらってくれるのですか?」
「当たり前だ。私が愛するのは、この世でただ一人あなただけなのだから」
それでも彼と一緒にいられるのならば、地獄さえユートピアになるのだろう。




