閑話 *2 金糸雀
金糸雀色の髪の男の場合。
導くもの (Uma pessoa para conduzir **2)
魔導師の試しが行われる。
そのことを聞いて驚いた。全属性使いって、本当にいたのか……。
魔導師になるためには皇帝の認証が必要だ。
父上が魔導師の試しを見にいくことになるから、俺もついていった。
さて、どんなやつが全属性使いなんだ?
訓練の会場―――正式には魔術師が使う訓練所で訓練の間だが ―――の見学席で待つ。
出てきたのは、クルスと、俺よりも年下だと思われる女、だった。
クルス=全属性使いということはない。
じいさんとは長い付き合いだからな。
じいさんが2属性使いだっていうことは知っている。
ってことは、隣の女、だよな。
女だから、という理由でじいさんに勝てないとは思ってはいないが、一体どうやって勝つつもりなんだ?
魔導師の試しはすごかった。
特に火の試しだな。バルドメロも容赦ないな、オリジナルでくるとは思ってなかった。
彼女が始め火の壁でただ防いだだけだったから無理なんじゃないか? と思ったが、まさかバルドメロのオリジナルの術をコピーするとは思わなかった。
しかもバルドメロのほうの火を消すとは。
俺には魔法の才能はほとんどない。
それでも一級魔術師のオリジナルの術は簡単にコピーできるものじゃないことくらいわかる。
……小さいころにじいさんに見せてもらったじいさんオリジナルの術は構築式の理解がまず俺にはできないものだと思ったし。
魔導師の試しが終わった後、バルドメロに彼女が連れて行かれるのが見えた。
……バルドメロは真面目だからな。俺が行ったら巻き添えをくらうだろう。
クルスのじいさんのところに行けば会えそうだ。後で行こう。
頃合をみてじいさんの部屋に行ってみたが、まずじいさんがいない。
じいさんの部下(浅緑色の目のほうな)に聞いたら父上との謁見、だそうだ。
魔導師候補と一緒に。
彼女の顔を見るのにもちょうどいい機会だ。
そう思って謁見の間に入るとちょうど彼女が城の防御魔法をかけるところだった。
俺達にも見えるように水鏡を出す。……短詠唱でできるのか。
魔導師候補も伊達じゃねえよな。
「<大いなる光 敵を阻む風 敵を探す闇 捉えるもの ここに仇なすものをとらえ
ここを守護する力 3つの力を持ちて ここに守る力を成せ
大いなる 光 阻む 風 探す 闇 力を なせ>」
さすがに防御魔法は長詠唱だった。そりゃあそうだ。
だけどあとで聞いたら、
「それのほうが魔法かけてるってかんじで陛下もまわりにいた方々も安心するのでは
ないかと思ったので。……短詠唱のほうがよかったですか?」
て言われた。ちょっとむかついた。
城の防御魔法かけるのを見て気に入った。彼女は腕がいいし、誰の部下でもない。
魔法が使える奴がほしかったところだ。
どうしようか、と思いながら彼女を見てると視線に気づいたのか、彼女が俺のほうをみた。
よし、今父上に言って彼女を部下にもらおう。
そう思って俺は彼女ににやり、と笑ったあと(にやりと笑ったのに気づいたのだろうか?)父上に声をかけた。
「俺、こいつが気に入りました。父上、こいつ俺の部下にくださいよ。」
「……は?」
父上は許可してくださるようだったが、彼女のほうが戸惑っている。
「え、あの、クルスさんの部下、とかではいけないのでしょうか?」
「なんだ、俺の部下になるのは嫌か?」
悲しそうな顔(しているつもり)で彼女を見る。
彼女は俺のことを知らないから、俺が本当に悲しいかなんてわからないだろう。
まあ、断られても強制的に部下にするつもりだが。
「わかりました。」
「そうか。じゃあ明日、とりあえず俺の部屋来いよ。」
お、了承したな。
とりあえず今日はこれでいいだろう。明日、また話すことにしよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
<一級魔術師 1日目>
……まず、騎士団と魔術師についての説明が必要らしい。
ティーナ(改めて自己紹介してこう呼ぶことにした)に騎士や魔術師についてどれくらい知っているのか、と聞いたら昨日門番さんに聞きました、とすごく基本的なところを話された。
魔女は相当世俗から離れたところにいたのか?
しょうがないからティーナにもう少し説明することにした。
現在、帝国が抱えている軍隊は騎士団のみということになっている。
(有事の際には魔術師も軍の一員だが。)
騎士団には白騎士と黒騎士の二つの部隊があり、基本の隊の構成は同じ。
まず一般騎士。もちろんこれが一番多い。一般的な騎士はこれのことだろう。
地方に派遣され、2年交代で派遣場所を白と黒を入れかえる。
(今北・南が白騎士だったら2年後は黒騎士、というようにな。)
次に壮騎士。地方や大会での活躍によって一般騎士から昇進する。
壮騎士の半分は地方、半分は帝都だ。
ちなみに俺も今壮騎士である。
俺は「王子」だから普通の壮騎士よりちょっと上、てところだ。
ティーナは全く知らなかったが。
これより上に騎士隊長が白・黒に7人、あとは白騎士団長・黒騎士団長、騎士団全体を統べるのが騎士団長になっている。
黒騎士団長とは「試し」で戦ったじゃないか、といったらしばらく考えた後、顔を赤くした。
そういえば、闇の試しのあとなんかされてたよな。
「マルシアルは俺の従兄弟だ、苗字同じだろ?」
「気づいてませんでした……。だからあの時……。」
なんかぶつぶつと言っていた。
その後、ザール殿下(なぜかこう略された)と似てますね、と言われた。
……ティーナは自分が勝ったやつがどれくらいの地位にいるのか理解していなかったらしい。
魔術師もまあ、人数はかなり少ないがおなじようなものだ。
一級魔術師が一番えらい。現在、12人である。
これは2年に1度の二級魔術師からの昇進試験、または大会での成績によって決まる。
服装としては、黒いマントをつけることが義務付けられており、黒いマントに魔力をこめた糸で一本の線が縫ってあり(それぞれ目と同じ色になるらしい)、首もとに帝国の釦がついている。
首もとの釦は魔術師全体でマントの同じところにある。
二級魔術師は1年半に1度の三級魔術師からの昇進試験、2属性使い以上は魔術師の試験に受かればはじめから二級魔術師になれる。
服装は白いマントで魔力をこめた糸で3本線が引かれている。
三級魔術師は1年に1回の試験によるものだ。
服装は白いマントで1本線のものである。
特に見分けるのが重要であるので、服装について説明した。
なんというか、どっと疲れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
<一級魔術師 3日目>
昨日は大変だった。
……さすがにバルドメロの部屋で夜通し本を読んでるとは思わなかった。
むかついたからバルドメロの息子に少し八つ当たりしておいた。
え?なんでティーナにやらないのかって?
……仕返しされたら勝てる自信がないからだよ。俺が上司だからしてこないかもしれないけど。
仕事に関しては普通、いや優秀だが、常識がないのは困る。
魔法についての書類(さすがに魔導師候補なだけあってかなりの知識だ)を片付けていたら、ティーナが何か思い出した、という風に口を開いた。
「そういえば、ザール殿下って3男なんですよね?陛下の。だったら別に騎士団に
入らなくても王子様の生活していればよかったんじゃないですか??」
……そうか、知らないんだよな。
2日もいろいろと説明をしてきたのでだんだんなれてきた。
「次の皇帝、15代皇帝だな、を兄上が継ぐとは決まってないんだ。まあ、第1継承権は
一番上の兄にあるけれどな。この帝国の帝位の継ぎ方は特殊でな、
一番下の子ども、今だと俺の妹だが、が25歳になるまで皇帝の子どもは
何かしらの職につき、騎士でもよし、魔術師でもよし、
とにかく成果をあげることが必要なんだ。帝位を継ぐ、てことだけではなく
自分の兄弟が帝位についたときにそれまでの成果によってその後の地位とかまで
決まるんだよ。俺は別に帝位につきたいわけじゃあないが。
父上も13代皇帝の長男じゃなく次男だったからな。あ、女でも帝位は継げるぞ?」
「そうなんですか……。なんていうか、実力主義、ですかね。」
ティーナは関心したように話を聞いていた。帝国は確かに特殊だからな。
クルスのじいさんのところで文句を言っていたら、ティーナが入ってきた。
俺に頭を下げてからじいさんに話し始めた。
……ん? 部下?
「おい、ティーナ、聞いてねえぞ?」
「げっ、ザール殿下。……ザール殿下の許可が必要でしょうか?」
「当たり前だ! いいか? お前は俺の部下! てことは
俺は上司だろうが! っていうかお前、「げっ」てなんだよ!」
「声に出てました?すみません。それで、ザール殿下、よろしいでしょうか?」
こいつが言うからには使える奴だろう。
ちょっと調べてからだったら問題ないに違いない。
「……マクシミリアン・インフォンティーノ、だな? インフォンティーノ、てことは火使いか。」
「え? 苗字に何か関係があるんですか?」
「おま、……クルス、説明してやれ。」
クルスにインフォンティーノ家について説明するように言う。
……本当に基本的なところが抜けてる。
「なるほど。そうなんですか。」
「……俺が調べておくから、お前、俺の部屋行って本でも読んでろ。」
「いいんですか!? ありがとうございます! クルスさん、失礼しました。」
ティーナは満面の笑みを浮かべた後、部屋を出て行った。
いや、普通にかわいいけどよ、……なんか、疲れる。
「クルス、ちょっと手伝え。」
「わかりました。」
クルスは少し楽しそうだ。俺だって、別に嫌なわけじゃない。
が。……インフォンティーノの次男を入れたら違うだろうか?
とりあえず、会いにいってみるか。
閑話2話、バルタザール・デオ・ロジオンの場合でした。
なんかリアンとザールの性格がかぶっているような気が……(汗)
午後に本編を1話UPしようと思っています。