*17 祝福祭とは?
「今日は勉強してこい。」
「……何でですか? 何のですか?」
「殿下、俺たち休んでいた間の書類が溜まってるんですけど……。」
殿下が突然言い出した『勉強』。こういうパターンが多い……げふん、すみません。
「安心しろ。リアンは知っていることだからティーナだけだ。」
「何についてなんですか? 私も知っていることかもしれませんよ?」
私が知っていることだったら大助かりです。書類が片付けられます。
私の知らないことだったらリアンも知らないことであってください。そうしたら道連れです!
「祝福祭についてだな。」
「……シッテマスヨ。」
「俺は流石に帝都育ちなのでそれはわかります。」
「よし、ティーナはクルスのところで勉強な。」
私の発言はあっさりと流された。
いや、知っていることには知ってますよ! 魔導師の試しをやるのは祝福祭のときですよね?
「その他には? 詳しく説明できるか?」
殿下がにこにこ(というよりにやにや)笑いながら私に問いかけてくる。
おばあちゃんは魔法については詳しく教えてくれたけど、世間の習慣とか行事とかについてはほとんど教えてくれていないっていうこと……殿下知ってますよね?
その態度はあえてですよね?
ああ、書類が……たまっていきますね……。
「クルスさんの所に、行って、きます。」
「よし。」
導くもの (Uma pessoa para conduzir *17)
「じゃあ祝福祭について簡単に説明するかの。」
「はーい!」
「お願いします。」
クルスさんの研究室に行くとエメがいた。
エメも村……というか田舎育ちで祝福祭については知らないので私と一緒に話を聞くことになった。
クルスさんが祝福祭について話してくれたことをまとめると、こんなかんじだ。
昔(400年くらい前)、帝国はなく、今の帝国の領地は王国のものだった。
王国の身分制度は厳しく、貴族は平民からとったお金や食べ物で贅沢な暮らしをし、王家は貴族以上に贅沢に、そしてその王家に気に入られるように貴族は賄賂を送る――ということが当たり前のようにあったらしい。
その身分制度に疑問を持ったのが当時王国の1つの領土の管理官として領土を治めていた1人の男――エーリアル・ロジオン――後の初代皇帝だ。
彼は平民出身であり、貴族だけが贅沢な暮らしをすることをよしとしていなかった。
彼は彼の仲間たちとともに王国に反旗を翻し、帝国を建国するに至ったという。
さて、そこで疑問に思うのが「なぜ彼が帝国を建国できたのか?」である。
彼は貴族といってもただの人。王家に歯向かってすぐに新しい国が作れるというような能力があるわけではなかった。
彼が行ったのは唯一の精霊との契約である。
唯一の精霊はその国の自然の加護を司る最上級の位の精霊のことらしい。唯一の精霊が居ない国は植物が上手く育たないし、魔法を使うのに多くの魔力が必要となるらしい。
「唯一」とつくのはその精霊は自分が契約した人――今回の場合で言えばエーリアル・ロジオンだが――の血筋が存在する限りその国の加護を司り続け、その血筋以外の人とは契約をしないから。
それに対して皇帝家の人間が差し出すものは魔力。それだから今も皇帝家からは自分で魔術ができるほど強大な魔力を持つ人はとても珍しい。
唯一の精霊と契約できたエーリアル・ロジオンは王家の人と約束をしていたらしく、無事に帝国を建国できたというわけだ。
その唯一の精霊が帝国を「祝福した」(こういう言い方をしているが、意味としてはエーリアル・ロジオンと契約したことを指しているらしい。)ことから祝福祭が始まったらしい。
「今は祝福祭で行われているのは唯一の精霊に感謝を示しての踊りや
武道大会だの。それに今年はティーナの魔導師の試しが入るわけじゃ。
城下では出店が出るんじゃぞ。」
……そういえば、この季節の前後には村でお祭りがあった気がする。
祝福祭があったからこの季節に村でお祭りをしてたのか。
「唯一の精霊の姿はどんな形なんですか?」
「エメは会える? 精霊さんなんでしょ?」
「一説としては翼を持つ光の精霊だと言われておるし、また他の説では女性の形をして
絶世の美女とも言われておるの。
残念ながら今わしが知っている限りでは唯一の精霊の姿を見た
ものはいないんのじゃ。」
え? 何で?
私とエメはクルスさんの答えに頭の上に「?」を浮かべ、次の言葉を待った。
「唯一の精霊との契約を行ったことについては帝国建国の歴史書に載っておるし、
王国の歴史書でもその部分を見れば今話した流れはおおまかじゃが載っておる。
だけど唯一の精霊そのものについての記述が全くと言っていいほどないんじゃよ。」
魔術師で精霊に興味を持っている人も、精霊使いの人たちもそこの部分については歴史書を調べ、その契約について行った人たちが書いた本を調べ、当時書かれた本全般を読みあさったらしいが、それでわかったことはほとんどなく、唯一の精霊の姿は仮説の中でしか存在しないことになっているみたい。
唯一の精霊の姿を見てみたいという人はこれまでも多くいたけれど、どんな方法を使えば見ることが出来るのか、どこに行けばいいのかなど全く分からないらしい。
「おねえちゃんなら見れるかなっ? ね、見たらエメにも教えてね!」
「う、うん……。
(姿わかんないのに? っていうか誰も見たことないんじゃ私も無理かな。)」
「祝福祭の起こりはこれでいいかの。
ティーナを呼んだのには他に話すことがあるからじゃ。
エメはモデロと一緒に字の練習してくれるかの?」
「ほかの事?」
あれ? 殿下は祝福祭について教わって来いしか言ってなかった気がするんですけど……。
「おじーちゃん、後で本読んでね!」
「分かりました。」
エメとモデロはもうひとつの部屋のほうに移動していった。(クルスさんの研究室は2部屋につながっているんです。エメがいるからだと思うんですけど。)
「私、殿下からはクルスさんに祝福祭について教えてもらうように、としか
言われてないんですけど……。」
「ん、これから話すのも祝福祭についてじゃよ?」
「え?」
「祝福祭の起こりについてはまた後で本を貸すから
それでもう少し勉強しといてくれるかの?」
「はい。それで……?」
「祝福祭は1週間に及んでいろんな出し物が行われるんじゃよ。
での、ティーナが主役としてやらなくてはいけないことが2つ。
それと仕事としてやってもらわねばならんことがあるんじゃ。」
「主役として、というのは魔導師の試しと?」
「そう。後魔導師に無事なることができたら陛下に認証してもらう式が
あるからの。魔導師の試しは祝福祭の2日目、認証式は4日目。」
「はい。」
ああ、そういえば陛下の認証が必要だって前説明してましたもんね。
それも大勢の人の前でやらなきゃいけないのか……変なことがおきないといいんだけど……。
「それと祝福祭の準備と片付けを手伝ってもらうことになるの。
これは魔術師も騎士も行うかなり大掛かりな準備なんじゃよ。
ティーナは全属性使いだからかなり忙しくなると思うがの、
がんばってやっておくれ。」
「は、はあ……。」
そう言ってクルスさんは笑っていた。私は苦笑いだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
部屋には1人の女。
「なんであれが……!」
女はショックを受けていた。
自分が次期当主と謳われていたはずだった。
自分はそれに見合った実力を持ち、そうなるのが確実だと思っていた。
「あれが、次の当主になるのよ……!」
先日、祖父から言われた。「お前は次期当主になれない」と。
女の燃えるような赤い眼に怒りが宿る。
自分の実力はあれよりもはるかに勝っている。
なぜ、自分が次期当主となれないのだろうか……?
「落ち着いてください。彼を、どうしたいのですか?」
荒れている女に声をかけた1人の男。
魔術師のマントとは違う別の白いマントを着た男は、今いる暗い部屋の中では目立つ色なはずだが、なぜか暗闇に溶け込んでいくように思える。
――さて、彼女を自分の思惑通りに動かすのには、どうすればいいか?
「決まっているわ! あれを失脚させるような手立てを考えなさい!」
「それでは、そういたしましょう。……」
男は女に自分の計画を話す。
女は計画を聞き、微笑んだ。
これであれは失脚! 私が当主となれるはずだわ!
「いいわ。それを実行しなさい。」
「御意に。」
男は心の中で自分の計画が上手くいくことを喜んだ。
――馬鹿な女だ。こんな計画では女が陥れたいと思っている男を失脚に追い込むことなどほぼ不可能だというのに。
俺の目的が他にあるのにも気づいていない。
その様子を、彼らを照らす月だけが見ていた――――……
2ヶ月以上更新できていなくてすみません……。
ようやくの祝福祭編です。