*16 パーティー(2)
ジスレーヌさんとヴァランさん2人と別れてから会場の人にリアンが話しかけられて、私も挨拶をして……を繰り返した。
すみません。名前言われてもさっぱり覚えられないと思います。
周りにいた人がぱっと2つに分かれて私たち2人のところまできれいに道ができた。
そこに歩いてくる男の人が1人。鶯茶色の髪の毛にリーフグリーン色の目で、短髪でゆるい波みたいな天然パーマだ。
……?
導くもの (Uma pessoa para conduzir *16)
「はじめまして、魔導師候補さん。僕はセリノ・シルヴェストリ。
今のシルヴェストリの当主で君と同じ一級魔術師だよ。」
「初めまして。アルベルティーナ・ギラルディーニです。」
『シルヴェストリ』は確か……インフォンティーノと同じように古くからある風使いの一族だったっけ?
当主っていうとバルドメロさんくらいの世代だと思っていたんだけど……彼は若い。25歳にもなっていないんじゃないだろうか。
「僕が魔導師の試しでは相手になるよ。」
「よろしくお願いします。」
一級魔術師を見るのはこれで3人目だ。確か、私を入れないで12人居るはずだから、あと9人、いるんですよね?
魔導師の試しの『風』の試しをさっきのシルヴェストリの当主様がやるなら、あと『光』と『土』の試しをやる人に会ってないですよね。……祝福祭? とやらまでに会うことができるのでしょうか。
そこで私の隣にいるリアンにさも今気づいたかのように目を向けた。(隣にいたのはわかってたと思うんですけど……)
「……おや? 隣にいるのはインフォンティーノの当主の息子さんかい?
二級魔術師になったんだっけ?」
「シルヴェストリの当主自らインフォンティーノの前当主のパーティーに来ていただき、
ありがとうございます。」
「いえいえ。これも僕の役目だからね。
聞いているよ、君が二級魔術師になったのは風使いだったからだって?」
「……はい。」
リアンがどことなく答えにくそうにしている。 どうしたんだろう?
「あの事件に何か関係があるんじゃないかい?」
「、!」
リアンの顔色が変わった。
……怒ってる? 驚いてる?
「私の弟であることからあの事件に関係はないということはわかっておられるのでは?
あの血族はそのときに……シルヴェストリの当主様である彼方が
一番知っておられることと思いますけど?」
「あれ? 君も来ていたのかい? いつも通りバックれるかと思ったよ。
弟君を庇うとは、さすがの氷の姫君もそれくらいの情はあったんだね。」
リアンがシルヴェストリさんに答える前にジスレーヌさんが私たちのもとに歩いてきてシルヴェストリさんに言葉を返した。
シルヴェストリさんはおどけた感じで言葉を返した。
シルヴェストリさんとジスレーヌさん、2人はお知り合いですかね?
ジスレーヌさんはシルヴェストリさんを冷ややかな目で見ている。
「冗談も程々にしていただけませんか。
彼方がこの場に来たのはそれを話すためだと仰られるのですか?
そのことを持ち出すというのは……それ相応の覚悟が、おありですか?」
「いや、やめておくよ。今日ここに来たのはそのためじゃなく、魔導師候補さんに
会おうと思ってここに挨拶しに来たからね。君が相変わらずだとわかってよかったよ。
アルベルティーナさん。」
「、はい。」
「僕は前君がやった魔導師の試しを見ていないから、君の実力は
噂で聞くしか知らない。魔導師の試し、楽しみにしてるよ。
君の実力が僕が期待しているくらいあるといいな。」
そういってシルヴェストリさんは去っていった。
『僕が期待しているくらい』って……なんか嫌味なかんじですね。
――あの事件、て何? と聞きたいところだけど、リアンとジスレーヌさんの態度から見て好奇心で聞いてよさそうなものじゃないように思える。
わかるのは、風と火の2属性使いが何か関係がある、てことだけだ。
「わるいな、ティーナ。」
「あのバカはほっといて。」
「いえ。」
シルヴェストリの当主様に向かって『バカ』って……。
来たのがジスレーヌさんでよかった。
私のところにシルヴェストリの当主様が来たということだけでちょっと注目を浴びていたのにヴァランさんの声でなんか言われたらかなりの注目を浴びているところだった。
「リアン、ティーナ。」
「殿下。」
パーティーに出されている料理を食べていたらザール殿下が来た。
殿下は会場で別れる前よりもくたびれている感じだ。
「やっと終わったぜ。ったく、話が長いったらありゃしねえ。」
「……お疲れ様です。」
「次行かなきゃいけないのはリアンかティーナのどっちか、……いや、まずティーナかな。
俺と話しているときも時々魔導師候補がどうたら、て言ってたから。」
殿下が私たちとここに来てから今まで話していた、てことは私が行ってもかなり時間がかかるんじゃないでしょうか。
さっきまでみんなそれぞれに談笑していた会場が急に静かになる。
会場内でステージみたいに一段上がっているところに車椅子に座っているおじいさんが現れた。
「あれがインフォンティーノの前当主――――エルモ・インフォンティーノだ。」
リアンが私に小声で教えてくれた。
あの人ですか。私、この後直接会いに行かなきゃいけないんですよね?
「本日は私が主催したパーティーに来てくださってありがとうございます。
私は今はもうインフォンティーノの当主ではございませんが、
以前と変わらずこのようにたくさんの方々にパーティーにお越しいただけて
うれしく思っております……」
……長かったので省略しますが、要するに今後ともインフォンティーノが火使いの筆頭として火使いのレベルを高め、帝国の魔術レベルを上げていきましょう、というかんじのお話でした。
エルモさんがお話をした後はまた会場から出て行った。
殿下の向こうに見えたバルドさんがこっちに向かってきているのが見える。
「お呼び、だな。」
「……一体どんな人なんですか。」
「まあそれは会ってからのお楽しみ、ということで。」
そういって殿下がニヤリ、と笑った。殿下がそうやって笑うのを見るのは久しぶりだ。……そして、その顔で笑うときは大抵私にとってそんなにいいことではない。
「ティーナ、悪いな伯父のところまで一緒に来てくれ。」
「はい。」
正直今日は前当主様に会う前にたくさんの人に挨拶されて、話をして、とやっていて結構疲れました。
リアンと殿下の会話を聞いていただけどあまり会いたくないんですけど、そんなことは言ってられませんよね。
バルドさんについて行く。
会場になってるホールから結構離れたお部屋にいらっしゃるみたいだ。
バルドさんがある部屋の前で止まり、部屋をノックした。
「バルドメロか?」
「はい。」
「入れ。」
「魔導師候補のお嬢さん、こんばんは。私が開いたパーティーに来ていただけて
うれしいですよ。」
「いえ、こちらこそ、インフォンティーノのパーティーに招待していただき、
ありがとうございます。」
「それでね、お嬢さんに見てもらいたいものがあるんだよ……こっちに。」
最後の言葉は部屋の中にいた男の人に向かって言った。
男の人はエルモさんに言われて、指輪を持ってきた。
「先日、私の友人から解析してほしいと頼まれたものでねぇ……私は魔装具に
ついて詳しくないから困っているところなんだ。
お嬢さんに解析してもらってもいいかい?魔眼を使ってくれていいよ。」
「わかりました。」
指輪を視る。
指輪に刻まれている効果を発動する術式の上にその効果を打ち消して違う効果……「呪い」と言えばいいだろうか、そういう類の術が施されている。
「<解除>」
変な術式をかけていると思われたら嫌だから無詠唱ではなく口に出して詠唱する。
これで呪いは解除ですね。
「指輪に刻まれている術式とは別にこの指輪には呪い――この場合はこの指輪をはめた者に
対してですが――がかけられています。呪いの効果ははめた者の魔力を吸い取ることと、
指輪を一度はめたらもう取れないようにする呪い、そして指輪の効果を無効に
するものですね。
解除はできますが、この術式がまず視えないと呪いがかかっていることを
確認するのも難しいと思います。
指輪の効果は魔術の安定化と構築式の読み取りですね。」
指輪の効果自体は魔術師向けの効果だから持ち主は魔術師だろう。
呪いがかけられているって……死ぬようなことはないけれど(魔力を吸い取られると死に近づくことにはなってしまうかもしれませんが)一体何をしたんでしょうか?
指輪について説明すると、エルモさんは笑みを深めて私に言った。
「いや、すばらしい! 想像以上だよ。」
「ありがとうございます。」
さっきの顔からして私が指輪を解析する前にこういうことを得意としている魔術師に解析させたに違いない。解析をした上でもう一回呪いをかけなおして、私を試すためにこの指輪を出した……と思う。
私が魔装具に詳しいということも魔眼が使えるということも調べたのだと思う。
「さすが帝国初めての魔導師候補だね。
君がこんなに解析するのが早いならはじめから君にお願いすれば良かったね。
その呪いをかけ直すのにかかった時間がむなしくなるくらい早く呪いの解除が
早いよ。そして、指輪の効果の読みとりも視ただけですぐにわかったんだねぇ。」
……やっぱり。
「聞くところによると、お嬢さんはマクシミリアンと同じところで働いているとか?
あいつは君から見て、どうかね?」
「どうか、というと?」
「インフォンティーノの名を継げるような実力のあるものかという意味でね。
……ああ、君がもしマクシミリアンと結婚することがあるならば、
君が次期当主だね。このバルドメロに勝っていることだし。」
「……は?」
「叔父上! 冗談はやめていただきたい。」
「バルドメロ、私は冗談なんて言ってない。本気だ。」
おっと、思わず「は?」と言ってしまいました。
殿下たちが前当主が……と言っていたのはきっとこの本気と冗談の境目がさっぱり分からないかんじが話しているのに大変だからということかもしれない。
今の発言も本気、とは言ってるけど、私は本気だとは思えないし……。
「まあそれはともかく、今日こうやって会うことができてよかったよ。
祝福祭の魔導師の試しは私も見に行こうかな。
これからもマクシミリアンと仲良くやってくれよ。」
そう言われて答える前にバルドさんが私を連れて部屋の外に出ることになった。
殿下が相当な時間がかかったみたいだったので私もかなりの時間かかるかな、と思ってたんですけど……前当主様と会っていたのって殿下と比べるとかなり短い時間でしたよね? ちょっと拍子抜けなかんじです。
まあ、『陛下の名代』と『魔導師候補』の違いですかね?
この部屋に来たときと同じようにバルドさんに連れられてホールに戻ると殿下たちが大勢の女の人に囲まれているのが見えた。
…………。あっちに戻るのはやめておこう。
このパーティーの中で私の知り合いはバルドさんとリアンとザール殿下とジスレーヌさんとヴァランさん。(シルヴェストリの当主の方も自己紹介はしましたが。)バルドさんは無理、殿下たち2人も今の様子じゃ近づきたくない。(お姉さま方に睨まれたくないですからね。)
ということでジスレーヌさんを探す。(ヴァランさんも女の人に囲まれているかもしれないし、そうじゃなくてももし私1人で行ったら話に暴走しだしたときに止められないので。)
バルドさんがこの後リアンが前当主様に呼ばれていると言っていたので殿下1人であの大勢のお姉さま方の相手をするんだろう。
お疲れ様です。美形って大変ですね。
心の中で殿下に合掌しておいた。
リアルタイムで読んでくださっている方、更新が遅くてすみません。
次回から祝福祭編に入れると思います。
一体いつになったらティーナが魔導師になれるのでしょうか……(汗)