閑話 *4 3人
それぞれの場合。
導くもの (Uma pessoa para conduzir **4)
※ある黒騎士の場合
『門以外のどこからでもいい。城の中に入って来い。
城に入る方法は何でもいい。何を壊してもよし。
ただし、自分の身には細心の注意を払うように。』
簡単に言うと、こういう任務内容でしたね。たしか。
僕のいる小隊だけの任務だったんだけど、みんな首をかしげるわけですよ、何で? って。
疑問に思っても任務は任務ですから、城の外に出る。
入ってくる方法は指定されていなかったのでみんなばらばらになったあと考える。
よくわかんないですけど、魔法使って入るってことしてもいいですよね? 僕、土使いなので。
城に防御魔法がはられていることは知ってますから、城が損害を受けることはないでしょう。
そう思って門から適当に離れた場所の城壁の前に立って、詠唱をする。
「<激しき嵐 彼の物を打ち砕かん!>」
詠唱をしながら剣で基本構築式を描く。僕は騎士ですから、魔術師のようにぱっと魔術が発動しないんですが、別に城に入るのに時間制限はなかったので時間をかけて城内に入っても大丈夫でしょう。
「<砂嵐>!」
城壁に向かって魔術を発動……てあれ? 城壁にあたる寸前で魔術が消えてしまった。
威力を弱めたわけでも方向を変えたわけでもないのに……。防御魔法って城壁まで有効でしたっけ? 詠唱は間違ってないはずなんだけどなあ。
疑問に思いながらも城壁を魔術で壊せないことがわかったので、城壁をよじのぼり(任務だからやってますけど、こんなことして入る人物はいないと思う。だってかなり目立ちますから。僕が騎士の格好してなければ絶対に門番に知らせが行ってつかまってると思います。)城の敷地内に入る。
これで城の中に入れば任務終了ですよね? 一体何の目的でしょうか?
そう思って一歩踏み出した瞬間に悪寒が走った。何か変じゃないかと思って足を止めた次の瞬間、黒い穴が足元にできる。
……え?
僕がいまいち状況がわからなくて混乱しているうちに黒い穴から何本か紐状のものが出てきて僕を拘束して、一瞬視界が真っ白になったと思ったら、どこかの部屋の中。
同じ小隊の人たちも同様に拘束されている。
みんな訳がわからないみたいで戸惑っていると(勿論拘束はされたままだ。)部屋にあったドアから今回の任務を指示した小隊長と白いマントを着た黒髪、深緑色の目の女の子が入ってくる。
「全員……いるな。魔術師さん、陛下からの任務だってことは
わかってるんですけど……これだけでいいんですか?」
「はい。これで有事の際には対応できると思います。
みなさん、すみませんでした。今拘束ときますね。
ご協力ありがとうございました。」
そう言って女の子が指でくるっと円を宙に描くと拘束がとけた。
魔術師ですか。しかも、無詠唱で今の?
「城壁を乗り越えた後のことお聞きしたいんですけど、いいですか?」
その後、いくつか質問を受けた後に今回の任務について説明してくれた。
どうやら、城の防御魔法は女の子が張り替えたらしく、侵入者対策や魔法対策が施されていたらしい。魔術が消えたのはそれが理由だったのか。よかった。魔法が使えなくなったのかと思った。
それと、侵入者を拘束したまま転移させてこの場所にくるようにするということが本当にできているかどうかを調べるための実験だったとか。
この女の子は防御魔法をはっている魔術師? 勿論女の魔術師だっているのは知ってるし、見かけることはあるけれど……こんな若い女の子、いたっけ?
その日はその任務だけで仕事は終わり。そんなに大変じゃなくてよかった。
僕たちに聞きにきた女の子が帝国初めての魔導師候補で今は一級魔術師、そして僕たちが拘束された防御魔法を1人でかけたということを知ったのはそれからしばらく経った後の日のことだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
※調理場で働いている女の場合
私は調理場で料理師さんたちのお手伝い(雑用みたいなもの)をしています。
調理場で作られた料理は城の食堂 ―――― 騎士様たちがよく使われているところと、魔術師様たちが多く利用されているところと2箇所ありますが ―――― に転移魔法を使ったり、私たち下働きの者が運んだりしています。
食堂は基本的に24時間体制です。騎士様たちは騎士棟で、魔術師様たちは城の専用棟で生活されてますから、自分でご飯を作られる、ということがないのです。
騎士様も、魔術師様も、一人ひとりかなりの量の食事を食べられます。小食の方というのは見かけませんね。お手伝いしている身として、残らず食べていただけてうれしいです。
いつものように働いていたのですが、ある日のお昼過ぎ。食事が終わった後のお皿を持って調理場の中に入ろうと思ったのですが、入る前に声をかけられました。
「いきなり声をかけてしまってすみません。
ここって食堂で出すお食事作ってますよね?」
そうやって私に声をかけたのは黒い髪に深緑色の目、そして、黒いマントのまだ女性、というよりは女の子というかんじの人でした。
そう、黒いマントでこの城の中を歩いているということは一級魔術師様なのです!
私のような下働きの人間としては初めてのことでちょっとかたまってしまった記憶があります。
「は、はい! ここです。」
「ありがとうございます。」
緊張しながら返事をすると、魔術師様は中に入っていかれました。……一体何の用でしょうか?
私はお皿を運んでいたわけですから、魔術師様の後に続いて調理場の中に入っていきました。
私はお皿を洗って、洗ったお皿を拭いて、またお皿を取りに行って、他の人が持ってきたお皿も一緒に洗って……という作業を繰り返して、一段落着いたとき。
途中から魔術師様が行かれたほうにたくさん人が行くようになっていました。何があったのでしょう?
私も気になったのですこしのぞいてみようと思い、そっちの方角へと歩いていきました。
たくさんの料理を作るわけですから、この調理場は広いのです。私がいたのはわかるかもしれませんが、食器を洗うスペースですが、魔術師様がいらっしゃったのは火を使うところでした。
そこで魔術師様が近くにいる料理師さんたちと話をしながら、何かを作っているところでした。
魔術師様は料理を作るような立場ではありません。それなのに、慣れた手つきで何かを作られている魔術師様の姿を見て驚きました。
そこで、私と同じように様子を見に来ている知り合いに話を聞きました。
どうやら魔術師様は食べたいものがあったらしく、調理場に来られたそうですが、火を扱う道具を見てしばらく呆然とした後に『おーぶん』というものを開発されたそうです。作っている途中で「冷蔵庫と同じ要領で温度維持……? それでいいのかな?」とか「温度調節ができないといけないわけだけど……150℃と180℃と200℃だけでも……いや、自分で……」とか色々とつぶやいていたそうです。『れいぞうこ』って何ですかね?
帝国の首都、帝都の陛下の住まわれる城の調理場です。最新の技術の魔装具がそろっていると思います。そんな城の調理場にない新しいものを作られたということは驚きです。魔装具屋の方ではないのでしょうか?
そうして新しく開発された『おーぶん』によって作られた『けえき』というものを私も一口味わうことができました。
食べたことのないものです! 甘くて、ふわふわしていて。
魔術師様は「失敗だなぁ、これ。」とおっしゃられていたそうですが、これで十分おいしいと思います。
魔術師様が帰られた後、作り方を見ていた料理師の方が「『おーぶん』というものはすばらしい……」と感動していました。
魔術だけではなくて料理にも詳しい魔術師様がいらっしゃるんですね!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
※ある白騎士の場合
あの日、丁度訓練所で剣の練習をしていた時。訓練しようと思ったのはたまたまだったんだけどよ、偶然に感謝したね。
丁度バルタザール殿下がいらっしゃったんだよ。2人の人を連れてな。連れていた2人は2人とも魔術師。マントから見て一級魔術師と二級魔術師。一級魔術師が若い嬢ちゃんだった。
殿下が訓練所に来るのは最近はなかったからちょっと驚いたな。
殿下は結構真面目だから、一般騎士のときはよく来て模擬試合みたいなのしてたんだけどよ、壮騎士になってからは外で剣を振り回すよりも部屋の中でペンを片手に書類整理が多かったそうだからな。
壮騎士でも普通はそんな書類整理とか多いわけじゃあないらしいんだが……殿下は何しろ『殿下』だからな普通の壮騎士より書類の処理の仕事が多いらしい。皇帝家って大変だよな。
そういえば、最近部下をとったんだっけ。後ろに居るのはその部下ってわけか。でも、何で魔術師を訓練所に連れてくるんだ?
まあ、その疑問はすぐに解決。
殿下が嬢ちゃんと向きあって打ち合いを始めたのを見ればな。
いや、嬢ちゃん相手に殿下が打ち合いするとは思わなかったよ、さすがに。もう1人の男のほうとすると思ったんだけどな。
殿下は壮騎士。『殿下』だからその位についているわけじゃなくて、一般の騎士より強いからこその壮騎士となっている。はず、なんだけどね。
嬢ちゃんは殿下の攻撃を避ける、受け流す、跳ね返す。
魔術師、なんだよな? 殿下の攻撃を全部防いでるけど。
俺、あの連中は肉体派じゃなくて頭脳派だと思ってるんだけど。ヒョロヒョロしてて、運動は無理。ましてや、剣なんて使えないんじゃなかったのか?
でも嬢ちゃんは1回も殿下に攻撃を仕掛けない。なんでだ?
攻撃を仕掛けないにしても嬢ちゃんの剣さばきはあざやか。すげえなあ。
カンッ
嬢ちゃんの剣が殿下に攻撃を仕掛けたと思ったら、殿下の剣が宙に飛んだ。殿下の剣を取ったのか。そんなこと、俺できねえよ。
殿下と嬢ちゃんはすこし話した後、殿下は嬢ちゃんを引きずるようにして剣の練習場から違うところに移動していった。
俺は剣が専門だが、殿下が連れてきた人物 ―― しかも殿下から剣を取り上げられるような腕のある ―― が気になったからな、殿下がどこに行かれるのか、見に行くことにした。まあ、野次馬、っていえば野次馬だな。他の連中も結構ついて来てたよ。
次に嬢ちゃんがやったのは弓。
嬢ちゃんが始めの1本を弓に番えて矢を放つ。……真ん中。
殿下に何か言われた後、次は1、2、3本と連続で別々のところを狙って矢を放つ。……真ん中。
見ていた奴らはみんなぽかん、としている。俺もぽかんとしていたに違いない。
はじめの1本はおいといてよ、次に放った3本、何だよ?
騎士の中で弓を使う奴もそりゃあ、いるけどさ。そんなにひょいひょいと放てる物じゃないんじゃないか?
矢を番えて狙いを定めて放つ。この動作が速すぎだろ!
殿下がまた嬢ちゃんを引っ張って次のところに去っていった。
去っていった後に嬢ちゃんの真似をして矢を放とうとしている人が多々いた。……おいおい、そこの奴、ちゃんと狙い定めろよ。的から大きく外れてるぜ。
もしかしたら怪我をするかもしれないここにいるよりも、さっきの殿下たちの後に続いて嬢ちゃんが他に何が出来るか見てみよう。殿下たちの後を追いかける。
槍。2本構えたかと思ったら何故だか槍から火が出ていた。……術を使ったのか? でも何で火?
ナイフ。はじめに殿下の剣と手合わせをする。ナイフで殿下の剣をすべて防御した後、バチッという音がしたと思ったら殿下の剣がまっぷたつだった。……練習用の剣だってことは知ってるけどよ、そんなに簡単に割れるものなのか? 隣で話していた話を聞いていたら、どうやらナイフが一瞬雷の属性を帯びたらしい。だからバチッて音がして割れたらしいが。
次に投げナイフ。弓と同じように的の中心に百発百中の腕前。…etc,etc.
一体どんな訓練をしたらできるようになるんだよ?
そういえば、魔導師候補は黒髪だって聞いた。もしかして……この色々とすごい嬢ちゃんのことじゃないか? だったら普通の魔術師じゃないことも納得できる気がする。
そして1番すごかったのは2対1での模擬試合だ。
2人のほうは殿下と二級魔術師。1人は嬢ちゃん。
殿下は剣、魔術師の男は後方から魔術、嬢ちゃんは素手。
殿下が切りかかってきたのを光の盾を作って受け止めたり、1歩後ろにさがって避けたり、ありえないくらいの高さまでジャンプしたり。魔術師が放った火の玉は嬢ちゃんにぶつかる前に手をかざしただけで消える、次に発動した風の魔術は嬢ちゃんが跳ね返す、火の滝はさすがにやべえんじゃないか!? と思ったら水の盾を出して防いでいた。
模擬試合やる前にいろんな武器をやってたからな、疲れたみたいで途中で殿下たち2人の勝ちということで終わったが……すげえな。
殿下たちが訓練所を出て行った後しばらくは嬢ちゃんの真似ができるかと試す騎士が多くいた。
さて、俺も訓練するとしますか。
嬢ちゃんの腕前には遠く及ばないが、帝国の騎士として剣の腕前をあげることに専念しよう。
閑話*4 3人の方のお話でした。
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ありがとうございます。
未熟者ですが、これからもがんばります。