*11 訓練と……
毎日更新、といいながら間があいてしまってすみません。
「よし、修行だ! ティーナ、剣の稽古付き合えよ。」
導くもの (Uma pessoa para conduzir *11)
「子どもさらい」事件から、数日。
あれから、事件報告を書き、エメの待遇を考え、エメの部屋を用意し、……etc、etc。
エメはクルスさんにお世話になりながら魔術師としての勉強をすることになりました。
一段落つきました。……と思って、「今日の仕事が終わったらバルドさんから『炎の構築式 ―― ろうそくレベルから大砲レベルまで』を借りて読もうかな」と考えながら、執務室(といっても殿下の仕事部屋なんですけど)を開けたら、殿下から冒頭の一言。
「殿下、冗談はいいですから、今日の書類はどれですか?」
「冗談じゃない! 今日は……やることがあってな。
書類を処理することはしなくていいから。 で、その『やること』までは
まだ時間がある。せっかくだから、お前の剣の腕前を見ようと思う。」
「……その、『やること』って何ですか?」
「まあ、それについてはまたあとで。おい、リアン、お前も行くぞ。」
色々とつっこみたいことがありますが、質問は受け付けない、てかんじですか?
今まで部屋の端のほうでこちらの会話をスルーしていたリアンがぎょっとしてこっちを見た。自分も行くとは思っていなかったらしい。
「……バルタザール殿下。俺、剣使えないのですが。」
「これからやらなきゃいけない時がくるかもしれないだろ!
形だけでもいいから、やっとけ。上司命令。ティーナも。」
「「……はい。」」
白騎士の訓練所。
殿下が「場所を貸してくれないか?」といったら、2人が剣を交えるのには十分すぎるほどの場所を開けてくれた。……殿下だから? それとも後ろにいたのが私だからだろうか? それともただの好意であけてくれたのでしょうか?
……2番目ではないことを祈ろう。そうだったらへこみます。
「よし、剣は持ったな! リアン、取り合えず見とけ。
魔法はなしだぞ? 使われたら俺じゃ相手にならないからな。
ティーナ、準備はいいか?」
「よくないです。全く準備できてません。ていうか殿下とやりあうなんて無理です。
殿下が怪我されたらやばいじゃないですか。」
「お前治癒術師でもあるんだろ?
俺が怪我したらお前が治せよ。」
「いや、……わかりました。どうぞ。」
殿下は私が何て言っても剣の稽古に付き合わせる気だろう。
しょうがないから剣をかまえる。
殿下は一息ついてから、私に攻撃を仕掛けてきた。
結構鋭い攻撃ですね。さすが壮騎士様、てかんじです。
任務で行ったところで稽古をつけた白騎士の皆さんよりも上手いです。
殿下の攻撃を分析しながら攻撃を右に、左に、下に、後ろに、と受け流したり避けたり。
殿下が怪我をされないように終わらせるには、私が殿下の剣を取るのが1番いいんじゃないでしょうかね?
カンッ
殿下の動きを見て剣を弾き飛ばした。
「……お前、手加減しただろ? 攻撃しかけてこいよ。」
「手加減なんてしてないですよ。私が『剣を扱う』と言うことに関して
1番得意なのは、『攻撃』じゃなくて『防御』なんです。
私、攻撃すごく下手です。祖母相手に攻撃なんて仕掛けられませんでしたから。」
「そうか。……そうだったな。」
殿下がなぜか同情するような目でこっちを見てきた。……祖母のことですか?いや、彼女はやばいですよ。祖母の修行についていくためにはまず防御を完璧としないといけませんでしたから。
「武器全般一通り使えるんだっけ? じゃあ、次。
リアンはまず剣の持ち方から怪しい。そこらへんの騎士捕まえて
稽古つけてもらえ。」
「は、はい。」
私は殿下に「次は弓、かな。」とか言われながらひっぱられていく。
魔術師は運動が必要とされている職業ではないから、間違えなくリアンは明日筋肉痛だろう。
私は心の中でリアンに合掌しておいた。
「まず魔法なしで1回。」
「はい。」
的を狙って放つ。真ん中。弓をやったのは久しぶりですが、上手くいきましたね。
「……お前、補正なしでもそれかよ?いや、まあいい。次は魔法で補正してみろよ。」
あれと、あれ、それと、さっきのやつ。と言っていったのは私が当てた的より20Mくらい奥でちょっと左右にある的。1,2,3。よし。全本命中。
「……魔導師になるまで騎士でもよかったよな?お前。」
そう見えますか?
その後は、槍とか、ナイフとか、武器を一通りやらされて、その後ヘトヘトになったリアンを後衛にして殿下が前衛になって訓練しまして……いや、やってみますか? とは言いましたけど、色々やったあとっていうのは疲れますよ。
2時間くらいでしたかね。気がついたら観客がまわりにたくさんいました。最近人に見られるのも慣れてきましたよ。慣れようと思っていたわけではないんですけど。
「そろそろだな。2人とも、行くぞ。姉上が会いたいそうだ。」
「……聞いてないんですけど。」
「言ってないからな。今日の『やること』はそれ。姉上に会うこと。」
確かに会ってみたいとは思っていましたけど……! 何で皇帝家の人たちに会う時って疲れているときなんでしょう? 嫌がらせですか?
「ティーナは姉上について……俺は説明してないが、他の誰かから聞いたか?」
「いえ。殿下にお姉さまがいらっしゃることも今はじめて聞きました。
妹さんもいらっしゃるんですよね?……何人兄弟ですか?」
「5人だ。兄が2人、姉が1人、妹が1人。つまり、俺は4番目の子どもってこと。」
そうだったんですか。ザール殿下は17歳でしたっけ?
頭の中に皇帝家について記憶しながら殿下のはなしを聞く。
「長兄 ―――― オビディオ・ルツ・ロジオン。
俺より8つ上だな。俺の兄弟は長兄と妹で12離れてる。
長兄は父上が帝位を退くまで父上に何かあったときは皇帝となることが
義務付けられている。長兄は体がそんなに強くなくて武道には向かないが、
政治の関係の仕事には頭がまわるからな。父上が頼りにしている。
次兄 ―――― ブノア・レク・ロジオン。
長兄と年子だ。何でかは知らないが、長兄と仲が悪い。
皇帝家はあまり魔力が多くない。次兄が一番魔力があって、多少だったら
魔術も可能だ。……一番腹黒い。
長女 ―――― レオーヌ・ドイ・ロジオン。
今年成人を迎えるから、20歳だな。
姉上は『魔法に関わるもの』……魔眼とか魔装具とかの
研究が好きで留学してる。今は休みだから久しぶりに帰ってきたそうだ。
それで俺、バルタザール・デオ・ロジオン。
で、妹 ―――― パメレシア・オザ・ロジオン。
今13歳。パメラって呼んでんだけど、パメラは弓使いだ。
来年あたりに騎士の入隊試験を受けて多分騎士になるな。」
カタカナが多すぎます……!すみません、殿下の兄弟一気に覚えられません。今から会うっていうレオーヌ様のことだけしっかり覚えます。
「普段はみんな城にいないことが多い。帝国の統括地は広いから、俺たち兄弟や
親戚が視察というか、その土地を見てまわる。全員そろうのは……そうだな、
一番近くて祝福祭だ。ティーナの魔導師の試しをやる時。
で、ティーナの事が帰ってきた姉上の耳に入ったわけだ。
今日次兄も帰ってくるから、多分明日次兄にも呼び出されるぞ?
何しろ、歴史上初めての魔導師候補だからな。」
うわぁ……なんか、面倒くさ……おほん。大変ですね。
「辞退できませんか?」
「無理。姉上は昨日帰ってきたんだが、本当は昨日ティーナに会わせろ、って
うるさかったんだ。夜だったのに。なんとか説得して今日にしたんだぞ?」
「今日、疲れてるんですよ……それにお姫様と会うなんて……」
無理です。お願いします。
無言で殿下に訴えていると、殿下がしばらく考えてから口を開いた。
「そういえばお前マルシアル苦手だよな?」
「苦手、というか……会いたいとは思いませんね。」
「任務から帰ってきてから時々ティーナに会わせろって言ってくるんだよなー。
今日ティーナがこのまま帰るなら、ティーナに黒騎士団長のもとまで
書類を届けてもらう仕事が近いうちにできるかもしれないな……。」
「…………わかりました。今日の『やること』やりましょう。」
脅し、ですよね? マルシアルと会うのは嫌ですから。
「姉上、バルタザールです。魔導師候補、アルベルティーナ・ギラルディーニと
二級魔術師、マクシミリアン・インフォンティーノを連れてきました。」
「遅いわ! もう。早く入って!」
お姫様に会うのは初めてです……と緊張しながら入った途端、中にいた女の人(多分姫様。侍女みたいな人はみんな壁際で同じ服装してる)がこっちに歩いてきた。
姫様は……陛下と同じ髪の色と目で、顔立ちもどこか陛下に似ている。そして、美人。
「あなたがアルベルティーナ・ギラルディーニ?
魔眼が可能で魔装具が作れるってザールから聞いたわ。
全属性使いなのよね? それから……ああもう!
聞きたいことが多すぎるわ! どれから聞こう?」
「姉上……2人とも、この人がレオーヌ・ドイ・ロジオン。俺の姉だ。」
「姫ではなくレオーヌ、と呼んでほしいわ。姫だとパメラもいるから。
そっちはインフォンティーノの当主の子、てことは火使いね?
あなたの姉とは学院で時々話すわ! 彼女の話、おもしろいの。
ティーナとリアンってザールが呼んでるわよね? 私もそう呼ばせてもらうわ。
そう、それでティーナは他人に魔眼を発動させることが
できる、て聞いたの。私に魔眼ができるようにしてもらえないかしら?」
すごいマシンガントークですね。レオーヌ様……。
それから魔眼を発動させたり、任務の時に作った魔装具について性能を聞かれたり、矢継ぎ早に質問されるのはバルドさんで慣れたかな、と自分では思っていたけどレオーヌ様から聞かれることは脈略がなく、次から次へと。
ザール殿下が時々レオーヌ様を止めようとしても、レオーヌ様に睨まれると、口を閉じてしまう。……レオーヌ様、強い。
一番すごかったのは私とリアンの相性がいいと聞いたときだった。
「確かに、二人の魔力の波長、すごくぴったりで相性がいいみたい。
その『相性』ていうのもどういう風に決まっているか研究したいわ。
ティーナ、あなたなら魔導師になるのは確実!
実力だけじゃなくて、知識もしっかりとあって……ザールはずるいわ。
わたくしも魔導師の試しの日に城に居たらわたくしの
部下にしたのに! いえ、今からでも遅くないと思うの。
ティーナ、わたくしと一緒に学院に行って勉強しましょう?」
「姉上! ティーナは俺の部下です。渡しませんよ。
ティーナ、姉上について行くってことは……ないよな?」
そういって殿下はレオーヌ様の隣に座っていた(座らされていた)私を自分のほうに引き寄せ、耳元で囁いた。マルシアル。……私の弱点か何かですか! そうですけど。
「は、はい!
レオーヌ様、すみません。私殿下の部下なので……。」
「あら、ザールに愛されてるのね。残念。しょうがないわね。
ザール、彼女明日の予定は? 空いてるでしょ? というか空けなさい!」
レオーヌ様は前半の言葉を私にふふっと笑って言った後、後半の言葉は殿下に向かって言う。
「無理ですよ。姉上、今日次兄が帰ってくるの忘れてます?
明日は空いてますけど、むしろ次兄のために空けてるって言ったほうが正しいですから。」
「城に帰ってくる時期が重なるなんて……珍しいわね。
ブノア兄にはわたくしは勝てないわ。ティーナと話したいことはまだたくさんあるのに!」
今度帰ってきたときは相性論について話しましょう、と約束をすることになったのでした。
明日、殿下の兄様に会うのは確定なんですか……がんばりましょう。
色々とあって間があいてしまいました……。
これから忙しくて毎日更新は無理になると思います。
読んでいただければうれしいです。