閑話 *3 深緋色
深緋色の目を持つ魔術師の場合。
導くもの (Uma pessoa para conduzir **3)
「火使い」の当主の息子、1属性使いの魔術師。
俺に関して言われることはこれだけだった。兄は魔法を使えないが、槍の使い手。騎士として帝国に仕えている。(騎士は剣じゃないか? ……俺にはよくわからない。)姉は所謂「天才」。新しい魔術の構築式の理論を立てて、その構築式は親父の新術の材料となっている。
俺は別に1属性使いという肩書きに不満があったわけではない。インフォンティーノは1属性使いだからこそ、純粋に火の魔術を極められることが多い。
兄弟の中でインフォンティーノの姓を継いだのは俺だけだから、魔術師としてレベルが上がるように親父の下で勉強していた。
ティーナは不思議な少女だった。
魔導師の試しの後、親父に(無理やり)連れてこられた少女。
親父のオリジナルの術を一回見ただけで理解し、その弱点をついて親父に勝った。
魔眼を体験できるとは思わなかった。身に付けてみたいとは思っていたが、彼女を介してできるとは……。
彼女に他意はないだろうが、俺の手を握ったまま考え事を始められるのは落ち着かない。自分が顔にでないタイプでよかったと思った。
(後でこれは俺とティーナの相性のよさについてティーナが考えていたということがわかった。)
それにも驚いたが、本当に驚いたのは彼女が陛下への謁見をするということで部屋を出て行こうとしたそのときにいった言葉。
「訂正したほうがいいね。リアン、風も使えると思うよ。今度試してみて。」
実際この後、ティーナに教えてもらって初歩的な風魔法を使ったら発動できた。インフォンティーノ=火使いだから風を使おうと思ったことがなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2属性使いということから二級魔術師になった。それから1週間もしないうちに「バルタザール殿下直属、ティーナの同僚(ティーナの部下だったはずだが、ティーナが部下じゃなくて仲間がほしい!と抗議したらしい。)」というポジションになった。
どうやら、仕事をするときに相性がいい俺が一番よかったらしい。親父の研究室にずっといるというのもどうかと思っていたのでまあいいか。
「いいか? あいつは自分が気になることがあるととことん熱中するタイプだ。
仕事に10分遅れる、なんてもんじゃないことはこの前(ティーナの一級魔術師 2日目)
のことでお前も十分わかってるだろうが、あいつの行動には気をつけておけ。」
という殿下からのお言葉があった。
……その後に殿下一人でティーナにいかに振り回されたかを話された。
そういう常識はずれなところを除けば、ティーナはすごい。14だというのに魔導師候補なだけある。ほぼすべての魔術を無詠唱、本人曰く「危ないもの」(普通の魔術師だったら4人がかりの長詠唱でやっとというもの)を短詠唱でぱっとやってしまう。
彼女が俺に風の魔法を教えてくれるのだが、正直、自分でもこんなに早く上達するとは思わなかったほどだ。……火の魔法も教えてもらうべきだろうか。(年上のプライド? 魔導師候補相手にそんなものは無駄だということが初日にわかっている。わからないものは聞けばすぐ教えてくれるしな。)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
バルタザール殿下の下についてからはじめての任務。
魔装具を2つ作りました、というかんじで作れるって本当にわからない。下級魔術とは言えど、2つも魔術が入っているし。……俺が使える属性じゃないから、あとで使ってみよう。どんなかんじなのだろうか。
殿下が魔力は大丈夫か、とティーナに聞いたらかえってきた答え。底なし、って。魔女に言われるなら間違えなく底なしなんだろう。俺が自分の魔力ではなくティーナの魔力を使っても気づかないに違いない。
ティーナが魔物の気配を感じたというのでティーナの戦っているところを黒騎士にも見せるつもりで馬車を止めた。
一応助けに入ることも考えて、遠距離でも使える魔法を考えていた。
正面からイノシシみたいな魔物が3匹、上から鳥みたいなのが2匹、左右から狼みたいなのが4匹。
まず狼を右手で氷の刃を4つ作ってまっぷたつ。
左手でイノシシに向かって土の壁を出す。
そして上から突っ込んできた鳥の攻撃を避け、今度は火の槍を作って鳥に向かって投げる。
イノシシに向かって作り出した土の壁だったものを変形させて土の檻に変える。
水の剣を作ってイノシシをきる。
…………………………
ティーナ、口、動いてないよな? 全部無詠唱だったよな?
(戦う前に何か言ってたみたいだけど、こっちまでは聞こえなかったし。)
ていうか一気にいろんな属性、使いすぎだろ。……全属性使いだから、日常茶飯事か? 「援護」とかティーナには無縁の言葉だな。
1分も戦っていないだろう。
ティーナが強すぎるのか、魔物が弱すぎるのか……。
「リアン、俺は魔物が今度襲ってきても馬車を止めるだけ無駄な気がしてきた。
大丈夫、というか余裕だよな? あいつだと。」
「余裕でしょう。俺もそう思います。」
馬車が走り出してから武器を使えたか聞くと、祖母に対抗するために一通り使えるようにしました、という答えが返ってきた。……一体どういう意味だ?
「剣使えるんだな? じゃあ帝都に帰ったらお前、俺の相手な。」
「げっ、殿下の相手ですか? ……手加減は?」
「なしだ! ていうかさっきのを見た限りだとお前のほうが強い可能性もある!」
「……冗談ですよね? リアン、あなたがぜひ、かわりに!」
「俺、剣使えないからな……ちょっとは練習すべきでしょうか?」
「やっておいて損はないだろう。魔法当てるのとかに役立たないのか?」
確かにさっきティーナがやっていた火の槍を投げるときにコントロールが必要かもしれないな。いや、その前にあの術は<火の槍>の無詠唱で発動するものなのか?
色々考えていたときティーナからかえってきた答えは、……ティーナらしい答えだった。
「私の場合だと風で補正とかしちゃうので……あ、そうか。むしろリアン、
風補正の練習する? 風使いでもあるからさ。」
「そんなことしてたのか。風補正なんて聞いたことな……全属性使いだもんな。
できないことはないよな。あぁ、じゃあ帝都に帰ってからやるか。」
風で補正するのか? どうやって?
考えたこともない。ティーナとの会話は常に新しいことの発見な気がする。
「じゃあ殿下とリアンでペア組んだらどうです? 殿下は近距離、リアンは
長距離ですから、それで慣れればいい線いくと思いませんか?」
「お前1人で大丈夫なのか?」
「はい。伊達に7歳のころから祖母に言われて山賊狩りしてませんよ!」
正直、ちょっと引いた。山賊狩りって……。
必要に迫られてですよ。と付け加えられたが、……さすが魔導師候補、というべきか?
それから襲ってきた(といっても近くに来る前にティーナが撃退してしまうので実際よくはわからない)魔物は時々ティーナが外に出て倒すことになった。
精霊は感動ものだった。親父も精霊は従えていない。初めて見た。
「<エーヴ>」
「なんでしょう? 風向き変えます?」
「や、そうじゃなくてね。こっちの方々に挨拶してくれる?」
「ハイ。わかりました。はじめまして、ワタシ風の眷属でアルベルティーナ様と契約を
結んでおります、<エーヴ>と申します。」
「これ、は鳥、の形をとってるな。風の精霊はみんな鳥の形をしているものなのか?」
「イエ、ワタシたち精霊はもとは<姿なき者>。我が主の魔力と、イメージによって
この形となりました。」
触ってもいいか、と聞いたらティーナは許可してくれて、<エーヴ>は俺の腕に止まった。
本物の鳥みたいだ……!
ティーナはすごい。本当に、すごい。
村について早速(任務ではないが)仕事。
……守護魔法、て騎士の分野だから魔術師は勉強しないのだが。しかも、普段は3、4人でやるところじゃないか? 騎士がはる守護魔法より高度で2属性付加?
ティーナが他の村も心配していたので俺と<エーヴ>とで近隣の村の守護魔法を確認しに行くことになった。さすが精霊だ。俺が普段歩くよりも何倍の速度で移動できるし、しかも風の魔法についても教えてくれた。
ティーナに真剣にどうしたら契約できるか、と聞いたらまず魔眼ができないと、と言われた。俺も精霊と契約したい。がんばろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
任務は実際「子どもさらい」が起きたらあっさりと解決するものだった。ティーナの活躍によってだが。
黒騎士は来なくてもよかったんじゃないか? まあこれでティーナの万能さが騎士のほうにも伝わるだろう。
「犯人」だった子ども+精霊+今までさらわれていた子どもを連れて帰ってきたティーナだが、何か様子がおかしい。疲れてる、だけじゃないようだ。何かを我慢しているような。
そのまま部屋に戻ろうとするティーナをとめて、俺の部屋に入れる。
「泣きそうな顔してるぞ? 何かあったのか?」
「何もないよ、だいじょ「大丈夫、ていう顔じゃない。」
ティーナは俺が口をはさむと、黙ってうつむいてしまう。
「泣きたいなら泣け。そんな顔でいるなよ。」
ティーナを抱きしめる。
そんな1人で抱え込む必要はないのに。
「見てほしくないから、見ないから。
泣かないようにするくらいなら、今ここで泣いちゃえよ。」
俺に抱きしめられたティーナはそのまま抵抗しない。
「精霊と、あの子がいたところで何かあったんだろ?
聞かないから。言わなくてもいいからさ。」
できるだけ優しく声をかける。
両親については聞いていないが、もう身内がいないんだろ? 甘える相手がいないんだろ?
1人でがんばって、1人で抱えこむ必要はないから。
「……っふ、……ごめ、」
「いいから。」
ティーナはしばらく、声を押し殺すように泣いていた。
俺はただ、抱きしめているだけ。
ティーナは確かに俺なんかより、はるかに強い。
だけどまだ14歳で、身内をなくしたばかりの、女の子だ。
強いけどどこか脆い。
誰かを頼ればいいのに。
任務の疲れもあっただろう、しばらくするとティーナはそのまま寝てしまった。
俺の部屋、ていうと駄目な気がする。流石に。
ティーナの部屋に運ぼうと抱き上げて部屋の外にでると、殿下が立っていた。
「……泣いてたか?」
「はい。まあ、やっと、と言いますか……」
「そうか。魔導師候補といってもまだ『候補』。完璧が望まれているわけではない。
それに14歳の子ども、だ。もっと周りに甘えればいいのにな。」
頼んだぞ、と行って殿下は部屋に入っていった。
殿下も帰ってきた彼女の様子がおかしかったことに気づいていたんだろう。
ティーナをベットに寝かせて部屋を出る。起きたら、元に戻ってるといいのだが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
帰りの馬車の中。ティーナは朝から俺と目があうと顔を赤くして目をそらす。
……そうやっていると普通の女の子、てかんじでかわいいんだけどな。普段が魔術師としてのレベルからか、あまりそういう風には見えない。
「ティーナ」
「な、何?」
こっちを見ないままティーナが返事をする。
「重くなかったから、安心しろよ。」
「………………」
ん? 何か更に悩んでる?
俺が首をかしげていると、殿下が隣で笑っていた。
「……殿下? 何でわらってるんですか?」
「いや? 天下の魔導師候補でも悩み事があるんだなぁ、と。」
「私、人ですから! 悩み事の1つや2つ、ありますよ。」
「そうですよ、バルタザール殿下。悩み事の1つにきっと親父の扱いが
入っていると思います。」
「そうですよ! バルドさん実験実験、て姿を見かけるとおいかけ……ではなくて、
リアンも私のことからかってるんですか?」
俺は君の仲間なんだろう?
君は強いから、俺に何も求めていないかもしれないが、俺にできることは何でもやることにしよう。
……甘くなんてできません。すみません。
「恋愛要素、ほぼなし」なのでこれで。
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ありがとうございます。