*9 任務(3)
「子どもさらい」の事件の任務についてから、5日間経ちました。
導くもの (Uma pessoa para conduzir *9)
一言で言うと進展なし、ですね。
毎日夜は暗闇を通じて不審な人物や魔物がいないかを見張って、昼間には連れ去られた子どもの家に行って手がかりがないか探索したり、村に子どもたちに何か知らないかを聞いたり……色々としましたが、犯人につながるものが全くないんですよね。
夜に来るのは村長さんが言っていたイノシシとか火をはく鳥とかですし(守護魔法にかかる前に私が撃退しました)、子どもの家には魔法の痕跡がないし(「魔法が使われた」ことがわかっただけでした)、子どもたちは怖がっているし(一人ひとりに追跡の魔法をつけさせてもらいました)。
……逆に手がかりがないことが手がかり、というか。
もうかなりの魔力をもった人が関わっているとしか考えられないんですが、探索の範囲を広げても目立った魔力は感じられませんし。
や、任務ではない部分ではかなり役立っていると思いますよ? 私。
白騎士さんたちに訓練をつけたり、村の荒れていた畑をなおしたり、リアンが近隣の村に行って弱まっていた守護魔法をかけなおしたり。
……リアンに真剣な顔で「<エーヴ>みたいな精霊はどこに行ったら契約できるのか」と聞かれたので「魔眼が使えれば、森林に行けば精霊に会うことはできると思う」と答えたら、今までの倍くらい魔眼の練習をはじめてしまった。
契約できるかできないかはまた違う話だから言わないでおいたんだけど。
リアン、動物好きなのかな。
<ノーテ>(私が契約している闇の精霊の名前です。姿はブラッキーです。)を見せたら飛びついてくるかもしれない。
「殿下、この任務の『達成』は何ができたらですか?」
「この場合は『犯人を捕まえること』と『子どもたちの行方を追い、子どもたちを
連れ戻すこと』の2つじゃないか?」
「……つまり、2つが達成できるまで帝都には戻れない、と。」
「そうだな。」
昼間、感知・探索の魔法を村で何か変わっているものがないか確かめながら、殿下と会話する。
帝都自体に帰りたいわけではないのです。城にある本が読みたいんです。
バルドさんに教えてもらった「炎の構築式 ―― ろうそくレベルから大砲レベルまで」とか、クルスさんの研究室で発見した「光の補助 上級編」とか!
おばあちゃんのところにあった本とは違うジャンルがあるんですよ!
魔装具の新しいのも作りたいですし。
「……え?」
一瞬だけ、巨大な魔力が網に引っかかった。急いで探索範囲を魔力が引っかかったほうに大きく伸ばし、魔法の痕跡を探る。
「見つけました。……これは、精霊、ですね。契約はしていないようです。
ですが、具現化が可能なもののようです。契約はしていませんが、……人の気配を
感じます。人と精霊が一緒にいることは間違いないでしょう。
闇の精霊であることは確かです。<ノーテ>と同じ感じがしますから。
私の探索網に引っかかったことに気づいてすぐに引き返してしまったようです。
追跡は不可能ですが、魔法の痕跡から見るとこんなかんじですね。
今日、この村の子どもをさらいに来るでしょう。殿下、明日には帰れますよ?」
「魔法の痕跡だけでそこまでたどれるのか、お前は。」
「こんなもんじゃないんですか?」
「普通はお前が見つけた痕跡くらいだとたどれるのは精霊がいたことと人がいたかくらい
だぞ? しかも、自信満々だな。」
「自信がある、というか……精霊にもレベルがありますから。元のレベルが高いので
人から魔力を少しもらったくらいでも色々できるようですが、<ノーテ>には
及ばないくらいのものです。それぐらいでしたら、大丈夫ですよ。」
「……まあ、いい。リアン、騎士たち全員に伝えろ、『子どもさらい』は
今日起きる。各自、入り口と子どもの家に1人ずつ配置につくように、てな。」
「わかりました。」
今村に残っている子どもは5人。誰が狙われるかはわからないのでとりあえず一番魔力が多い子の部屋で待機する。
精霊が狙うわけですから、魔力の多い順にさらっていくか、少ない順にさらっていくかだと思うんですね。……わからなんですけど。
ということで一番魔力が少ない子のところにはリアンに行ってもらう。
リアンに向かって転移するのが一番やりやすいからだ。
「いいか? ティーナが精霊を感知した時点で黒騎士と
ティーナは精霊を追え。白騎士は俺と他の子どもたちに異常が
ないか確認。リアンは魔眼で村の守護と警備をしろ。
他におかしいところがあったら騎士たちはティーナ、リアン、俺の
誰かに報告しろ。これ以上の被害はごめんだし、今日逃がしたら俺の面子にも関わる。
早く帝都に戻りたがっているやつがいるからな。最善をつくせ。」
「はっ。」
殿下が最後のほうは冗談っぽく言う。……そんなに帰りたがっているように見えました?
「俺の面子、て何ですか殿下。」
「別に気にするなよ、プレッシャーをかけただけだ。」
「誰に? 騎士さんたちにですか?」
「お前だよ。期待してるからな? 魔導師候補。」
さっさと終わらせるんだろ?
そういって殿下が私に微笑んだ。
……本当に私が金髪青目が好きなのを知っていてやっているのではないのだろうか?
知っているか聞いて墓穴をほりたくないので言いませんが。
きっと私の顔が赤くなっているに違いない。
悪魔の微笑みですよ、悪魔の。
「1時ですね。」
そろそろ現れるんじゃないだろうか?
<ノーテ>に手伝ってもらい、今感知範囲は最大にしてある。蟻1匹レベル、とは言えないけれど、ウサギ1匹レベルの大きさなら完全にどこに、どんな姿のものがいるのかはっきりとわかる。
不意に空間がゆがむのを感じた。
転移。
移動先は ―――― 私のいる、この子どもの部屋。
予想大当たり、ですね。
睡眠魔法をかけてくるのがわかるが、相手の精霊のレベルは<ノーテ>よりも低い。
魔法の威力は魔力の量、自分の使える属性では耐性があるものだ。
私は自分がいる子どもの部屋を除いてすべての家の睡眠魔法をはらう。
私が見ている子どもは、言ってしまえば囮だ。追跡魔法をかけてあるし、危なくなったら防御魔法が発動するようにしてある。
黒騎士さんたちに転移の魔法をかけるために魔力の糸をつなぎながら、子どものもとにくるであろう精霊に警戒する。(私は寝ているフリだ。起きていたら精霊逃げてしまうと思うので。)
―――――――――― 来た!
精霊の姿を感知して確認する。
……これは、人、型。おんなの、ひと …… ?
なぜ、人のかたちをとっているのだろうか?
自分で? それとも犯人に言われて?
子どもを抱えて精霊がどこかへ転移しようとした瞬間に精霊の魔術に私の転移の魔法をひっかけるようにして精霊についていくように「飛ぶ」。
飛んだ先は、たくさんの木が覆い茂り、花の甘い香りがするところだった。
ここは、森? 黒騎士さんたちがまわりをきょろきょろと見回していた。
「主がいた村から北東に15キロ、……精霊の加護がよく感じられる。
さっきの精霊の加護かと。」
「ありがとう。1人村に戻すから殿下たちに報告を。1人はここで待機。
2人ついてきてください。」
15キロ先か。さすがに私の探索の魔法はそこまでの広さがないから、この魔力を感じることができなかったわけですか。
うなずくのを確認してから1人を村に送り、ついて来る2人に念のため睡眠魔法がかからないようにする。
ここに着いてから巨大な魔力を感じる。精霊も一緒にいるみたいだ。(巨大、といっても一般人に比べると巨大、という意味だ。この量だと魔術師の魔力の平均の量くらいはあるだろう。)
それに、複数の人の気配。さらわれていった子どもたちだろうか?
魔力を感じるほうに歩いていくと家(普通の家よりは小さい。小屋以上家未満、て大きさだ)があった。
黒騎士さんたちには家の前で待っていてもらう。
私は「壁抜け」をして家の中に入った。(空間魔法と土魔法と闇魔法の応用だ。)
私が入った部屋にはだれもいない。
子どもにかけた追跡の魔法をたどると、同じ1階の部屋にいることがわかった。その部屋に感じる人数は ―――― 全部で、7人。正解、ですかね。
今日さらわれていった子どもより、みんな魔力が多い。どうやら、魔力の量が多い子からさらっていったみたいだ。精霊の加護が感じられるこの森にずっといることを考えると、魔力がすくないと体に影響があるからかもしれない。
言われている任務は殿下曰く、「犯人を捕まえること」と「子どもたちの行方を追い、子どもたちを連れ戻すこと」の2つだ。
後者をやってしまおう。犯人だと思われる魔力と、精霊には2階の1室から動く気配がない。
子どもたちを私が今いる部屋に移動させる。
怪我は、なし。夜だからか、ずっと眠らされているのかわからないが、みんな寝ている。先月さらわれてきた子どももいるはずだが、病気も、栄養失調でもなさそうだ。
……一体何が目的で連れ去ってきたのかさっぱりわからない。
健康状態が悪いわけでもないし、犯人が単独犯なこともわかった。魔法陣が書いてある部屋があるわけでもないから、悪魔を呼び出すための生贄、という可能性もないだろう。
「<ノーテ>」
「はい。」
「<彼の者達に 闇の守護を>」
子どもたちには申し訳ないが、鳥かごみたいなかたちをしたものを作り、子どもたちを全員いれて、闇の防御魔法をはっておく。これでもし建物が倒壊したとしても、危険はないだろう。
子どもたちがいる部屋(私が侵入してきた部屋)のドアの鍵をかけて2階へ向かう。
精霊がこんな近くにいる私に気づかないなんてことはないだろう。
入ってきたときに攻撃がなかったから、犯人のところまで来てもいいよ、ということだと思う。……罠かもしれませんが。魔力の量からしても、精霊のレベルからしても、負けることはないだろうと思う。
家の中を「視」ながら進む。
この森に入ってから精霊の加護がかなり濃いと感じでいましたが……この家、特に2階の今犯人と精霊がいる部屋に向かうにつれて更に濃くなってきていますね。
精霊がここにいるのも4、5年なんてものではないだろう。
もっと長く……15、いや20年はここにいるのではないだろうか?
よし。逃げる気配がないから部屋を探らせてもらいましょう。
2階に部屋は2室。2階の犯人と精霊がいる部屋ではないほうの部屋のドアをあける。
そこにあったのは、2つの棺だった。
…………
余談だが、私は幽霊がこわい。転生前でも、今でも。というか今のほうが幽霊がいそうで私は闇使いでもあるので見えそうでこわい。
何もいませんように、と思いながら部屋に入って棺を見る。開けてゾンビが出てきましたー、とかだと私がショック死してしまう。開けない。
…………ん? 棺に何か書いてある?
じっくり見ると文字が書いてあった。……精霊語だな。隣の部屋にいる精霊が書いたのでしょうか?
二人が、愛、する、…あらん、ことを、共に
「愛する二人が共にあらんことを祈り、ここに記す」
……………………
棺、か。
おばあ、ちゃん。火葬にしたけれど、それで良かったのだろうか?
…………まだ、1ヶ月もたってないのか。色々あったからなぁ。
「主、大丈夫か?」
「あ、ごめんね。行こう。」
いけないな、任務中でした。
部屋を出、隣の部屋に向かう。
よし、任務を終わらせます。行きますよ!
ドアを開けると、そこにいたのは、2人。
まるで、子どもを見守る母のように精霊が寝ている子どもの隣に座っていた。
表現が下手ですみません……。
わかりにくいところが多々あると思います。
「任務」もあと1話で終わる(予定)です!