*8 任務(2)
<エーヴ>の力をかりて、1時間で目的地までついたわけですが。
導くもの (Uma pessoa para conduzir *8)
「……これから、精霊の力を借りて速度を上げるときは事前にいうこと。いいな?」
「はい。すみませんでした。」
殿下に怒られました。
リアンは私が<エーヴ>を消してしまったので残念がっていた。
黒騎士の皆さんはこんなに早く着いたのに驚いていたが、馬車から荷物をおろしている。
「バルタザール殿下、ティーナの説教は後にしていただいて、とりあえず村にいる
白騎士の人たちに話を聞きに行きましょう。」
「そうだな。ああ、黒騎士たち、荷物そこにおいていっていいぞ?
こいつが運ぶから。」
「ちょ、運ぶなんて言ってないんですけど……。」
「運んで、くれるよな?」
殿下が私の耳元で低い声(甘い声じゃあありません、脅している声です。)で言って微笑んだ。
……私の好みが金髪青目だってわかってやっているのだろうか。
ちょっと黒い笑みでも美形は美形。かっこいいじゃないですか。
逆らえないので光魔法で重力操作してから風魔法で運んだ。
宿に荷物を預けてから白騎士さんたちのもとに話を聞きに行ってきた殿下たちと合流する。
「ティーナ、お前はこの『子どもさらい事件』、どう思う?」
「そうですね、いくつか考えてみたんですけど……」
今回の事件に関わっている可能性のあるものは
・闇使い(かなりの魔力をもった)
・精霊(こっちはもしかしたら、ではあるが)
の2つだと思っている。
人を眠らせる魔法は闇属性のものだ。そして、騎士を眠らせることができるということはかなりの魔力を持っている可能性がある。
精霊であれば、魔法を使うことは人間が手や足を動かすことと同じくらい簡単だ。精霊は単独では人にちょっかいを出すことはまずないだろうから、精霊がいたらその精霊と契約している人間もいるだろう。
子どもさらいの目的はわからないですね。
山賊とかの仕業であれば子どもを売りに出していることが考えられる。
……さすがに悪魔を呼び出すための生贄、とかではないと思うのですが。
そのことを殿下たちに説明した。
「じゃあ、どうやって犯人を捜す気だ?」
「それが、ですね。犯人が犯行を起こしてくれない限り、無理ですね。」
殿下たちが白騎士の人たちからの話で、魔法の痕跡を探ろうとしたら消えていた、と言っていたのを聞いた。
痕跡を追えれば今からでも犯人にたどり着くことができるだろうが、消えてしまっているのなら追えないと思います。
「犯人を追う前にまず、ここの守護魔法が気になります。」
「何かおかしいのか?」
「おかしい、というか消えかかってますね。かけなおさなくていいんでしょうか?」
「わからないな。白騎士たちに聞きに行くか。」
「はい。」
犯人が何か仕掛けてくるようだったら「感知」の魔法を村にはったのでわかるだろう。
白騎士さんたちがいる家に行って、ドアをノックした。
「はい、何でしょう?」
中から白騎士が1人出てくる。私を見て不信そうな顔をする。
……人間、外見で判断するべきではないと思いますよ、お兄さん。
黒マントを見て一級魔術師とは気づきませんか?
そんなことを考えているのは顔には見せず、にっこりと笑って言う。
「夜分にすみません、本日ここにやってきました、一級魔術師に就いております、
アルベルティーナ・ギラルディーニと申します。白騎士の責任者さんは?」
「ここに。何か御用でしょうか?」
「この村の守護魔法は、いつはりなおすことになっているのかご存知でしょうか?」
出てきたおじさんに聞くと、おじさんは不思議そうな顔で私に聞き返してきた。
「守護魔法が弱くなっているのでしょうか?」
「………………殿下。」
「俺に言われてもな。ここに魔眼を使える者はいないのか?」
守護魔法が弱くなっていることに気づいていなかったのですか!?
殿下が出てきて聞くと、その場にいた白騎士たちは姿勢を正した。
が、殿下の質問に答えるものはいない。
……ということは。
「殿下、ここの騎士さんたちが黒騎士さんに変わるのは何年、
何ヶ月後ですか?」
「ここの任期はあと1年だ。そうだよな?」
「はいっ。1年で交代となります!」
「次は魔眼使える人派遣してくださいよ?」
「……父上に言っておこう。」
1年、ですか。じゃあ今私がはるのがいいだろう。
「リアン、村の守護魔法はるから手伝ってくれる? 殿下も手伝っていただけますか?
リアンは村の北端、殿下は西端、白騎士さん1人東端に立っていてください。
魔力を使える必要はありません。目印なだけですから。
私は村の南に向かいますが、誰か村長さん連れてきてください。いいですか?」
それぞれに指示して私は南に向かう。リオンも殿下もすぐにうなずいて移動してくれた。
「殿下、着きましたか?」
「ああ。……ここに来て早速魔装具が役に立ったな。」
「こんなことに使うとは思っていなかったんですけど。 リアンも着いた?」
「着いたぞ。」
「リアンは魔眼使ってくれる? 私が今使ってるから魔力をこめれば
すぐできると思う。」
「よし、視えるようになった。」
「じゃあ2人ともそこで待っていてください。今のところ気配を感じませんが、魔物に
気をつけていてください。」
守護魔法は城ではった防御魔法とは違う。言ってしまえば防御魔法は「人」を相手としての魔法であるが、守護魔法は「人ではないもの」を相手としている魔法だ。
私は白騎士さんが村長さんを連れてくるのを待っている間に水鏡を作り、陛下達に見せたときのように「視」えるようにする。
「一級魔術師殿、連れてまいりました!」
「ありがとうございます。 村長さん、夜分にすみません。私は一級魔術師に
就いております、アルベルティーナ・ギラルディーニと申します。守護魔法をはるに
あたって、村長さんにお聞きしたいことがあって来ていただきました。」
丁寧な態度で。おばあさまに教えられたことだ。
この守護魔法の調子だと、魔物が村の中に入ってきてしまったことがあったに違いない。
きっと作物に被害が出ているだろう。
村長さんにどんな姿の魔物が村に入ってきたことがあるか聞いた。
「それでしたら、イノシシみたいなやつと、火をはく鳥が来たでさぁ。
守護魔法はってくれるだか? 助かるべ。」
「いえ、村に守護魔法をはるのは帝国の使いとして当然のことです。
夜分に失礼いたしました。ご協力ありがとうございました。
明日には魔物は入ってこれなくなります。これから1年単位ではりなおすので
安心してください。」
そう、これは魔法が使える者としては当然のことなのだ。
おばあさまも言っていたし、私もそう思う。
人を守ってこその魔法、人のためになってことの魔法だ。
白騎士さんに村長さんを家まで送り届けるように言ってから、早速守護魔法をはることにする。
イノシシ型のやつは大した問題ではないだろう。どの属性の魔法をはってもちゃんと守護魔法が作用するならば村に入ってくることはなくなる。
火をはく鳥はちょっとやっかいだが、これは水を守護魔法に組み込めば問題なくなるはず。
「いいですか? これから村の外と空間を切り離します。
リアンはずっと東に立ってる白騎士に意識を集中させていて。
殿下はそのまま、動かないでくださいよ?」
2人に声をかけてから詠唱をはじめる。
私、リアン、殿下、白騎士さんを空間の軸として切り離す。
白騎士さんの魔力はわかりにくいのだがリアンがサポートしていてくれるので楽に見つけだせた。
「<空と土 光と闇 我が存在せし空間
4つの印を持ち ここに 我と汝とを隔てる 壁を>」
詠唱しながら私とリアン、殿下と白騎士さんの間を魔力の紐でつなぐ。
よし、隔離成功。
「<堅固なる守り 悪しきものを浄化する光 水の守護をもちて ここに>」
2本だった魔力の紐を更にこまかく網目状にし、そこに布をかぶせるように水の膜みたいなものを作る。
「<防御>」
イノシシもどきは浄化、火をはく鳥は水の盾で防御、これでいいですかね。
空間を戻してから白騎士さんたちがいる家にまた行き、水鏡を見せながら守護魔法について説明しておいた。
「お前、前にも守護魔法はったことがあるのか?」
「前にも、ていうか……1年に3回ははってますね。」
「そんなに!? お前帝国の使いじゃなかっただろ?」
「そうなんですけど。私が住んでいた村と、両隣の村に。騎士さんは
いなかったんですよ。小さいころは祖母がはってたんですけど、9歳のときから
私がはることになってたんです。」
だからもう5年ものですよ? と冗談っぽく言ってみる。
「騎士がいないのか!? どこの村だ? 騎士を向かわせるぞ?」
「いや、必要ないと思います。祖母に鍛えられた魔術師の卵たちがいるので。
私がはった守護魔法も、かなりの強度なはずですから。
魔術師って村ではそうやって守護魔法はるためにいるんじゃないですか?」
「俺は帝都育ちだからよくは知らんが……多分、違うぞ。
守護魔法は騎士がはるものなはずだ。
殿下、ティーナがいた村に調査隊を送るのがいいんじゃないですか?
ティーナが言うなら間違いなく、魔法が使える人がいるはずですよ?
しかも魔女に鍛えられたなら、かなりの実力かもしれません。」
「そうだな……検討しておこう。」
あれ? 何か話がずれているような。
この村の守護魔法がこんな風になっているのを見ると不安になってきた。
近くの村の守護魔法も弱まっているのではないだろうか?
もしかしたら守護魔法がしっかりとしてなかったから子どもさらいが起きたのかもしれないですね……。
殿下に相談して、リアンが<エーヴ>を連れて近隣の村を回ることになった。
殿下はこの任務の隊長だから、村を離れることができない。
私は一応、この任務は主に私がやることになっているので昼間でも村にいなければいけないらしい。(面倒くさいですよね……。)
リアンだったら私が魔力を送れるし、魔眼が使えるし、魔術師だからその他の問題があっても大丈夫そうだからだ。<エーヴ>がいれば移動速度は上昇、私が<エーヴ>と「視界共有」も可能だから困ったことがあれば私も手伝えばいい。
いざとなったらリアンに向かって転移魔法を使えばいいかな、と思ったので。
「いいな、精霊。俺も契約したい……」
<エーヴ>と一緒に行くことになったときのリアンは喜んで、<エーヴ>を腕に止まらせて撫でたり、ぼーっと見ていたりした。
「おい、リアンが怪しいやつになってるぞ。大丈夫なのか? あれで。」
殿下に言われたけど、まあ、いいんじゃないですか、と答えておいた。
PVが1000人越えしました……!
見てくださっているかた、ありがとうございます。