表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚の身代わりにされた姉ですが、王子に一目惚れされていました  作者: 葉月麗雄


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

ジュリアン・ヴィレール

ジュリアンは自分の花嫁が宮殿に来るのを待っていた。

ただし、正装ではなく普段着で。

それも王室や迎賓館でもない、自分の城内にある庭園でハーブティーを飲みながら読書をしてである。


「エルドラスト王女クラリス様がご到着されました」


執事の呼びかけにジュリアンは手を挙げてわかったと合図する。


「ここにお連れしろ」


「ここでございますか? 迎賓館や王子の部屋の方がよろしゅうございませんか?」


「構わないよ。自分の花嫁をどこで見ようと僕の勝手だろう」


「相手に対する敬意を欠く事になりませんか?」


「敬意は十分に尽くすつもりだけどね。僕に考えがあるんだ。言う通りにしてくれ。責任は僕が持つ」


ジュリアンにそう言われては執事も従うしかなかった。



それからまもなくクラリスが庭園に到着した。

なぜこんなところへ?

それは王女を迎える場所とは言い難かった。

確かに青空の下、色鮮やかな緑色の芝と花で彩られている素敵な庭園であった。

恋人とティーを飲むなら最高の場所であろう。

だがクラリスは婚約者として来たのであって、まだ恋人でも王妃でもない。


〔私は何かを試されているのだろうか? それとも敬意を払う気がないという意思表示なのだろうか〕


不安が一気に膨らむ。

エルドラストからの政略結婚相手などここで十分だと思われているのか。

軽々しく扱われる程度の存在なのか。

私の態度がエルドラストの評価に繋がるのならしっかりしなければ。。

クラリスはそんな思いを抱えてジュリアンの前に立ち挨拶をする。


「初めまして。エルドラスト王女クラリス・アントワーヌと申します。ジュリアン王子でございますね?」


クラリスの挨拶中もジュリアンは本に目を通していてクラリスを見ようとしなかった。

そして本を読みながらクラリスにチクリとトゲを刺すようなひと言を言い出す。


「随分と豪華な馬車に乗って来たんだな。見栄に大金を使う国はいずれ破綻する」


会うなりいきなり何を言って来るんだこの人は?

クラリスがジュリアンに抱いた第一印象であった。

あの馬車は私の意思ではなく婚約に来た王女としての体裁、エルドラスト王国の威信を見せるために用意されたもの。

私はただ用意された馬車に座らされてここまで来ただけだ。


「エルドラストの王女として恥ずかしくないように準備して来たのです。そのように言われるとは思ってもみませんでした」


ついカッとなって言ってしまったが、言い終えてからしまったと後悔の念が走る。

私の言葉がエルドラストの評価に直結するのだからうかつな事を言ってはいけなかった。


「エルドラストの王女としての体裁のためにお金を使うのが悪いんじゃない。そのお金のために救われなかった人たちの事を君が思い浮かべられるかを知りたかったのさ」


そう言われてクラリスは怒りから恥ずかしさに変わった。

考えた事がなかった。

王女とはそういうものだと思い込んでいた。


これがミレイユであれば「私の威光を見せるための馬車の何がいけないのかしら?」とでも言い返していただろう。

一万人の庶民のパンより私が首にかけるネックレスの方が大事なのよと悪びれる事もなく。


「で? 君はどちらの王女だ?」


「言っている意味がわかりません」


「王位継承権のある方なのか、条約の抜け道用に準備された方なのかと言えばわかるだろう」


失礼な人。。

怒るのもバカバカしくなってきた。


「君は自分が身代わりでここに来たという事はわかっているのか?」


「知っていたのですか?」


「質問に質問を返してどうする。ああ、なぜ僕が身代わりだと知っていたのか知りたいんだね。それには答えてあげよう」


ジュリアンはそう言うと読んでいた本をパタンと閉じて初めてクラリスと目を合わせた。


「まず4年前に交わした条約。エルドラストの王女を嫁がせると書いてあるが名前の表記がない。

これは王女と表記しておけば誰でも王位継承者を想像するだろうという盲点を突いたものだ」


「そのようですね。そして私が妹でエルドラストの次期女王になるミレイユの代わりにここに来たというわけです」


「それは兄であるアレクシスの体調が良くなったからだろう。自分が王位継承者であるならば同じ王位継承者である兄と婚約した方が権力が持続されるからな」


「そこまでわかっていてなぜ異議を申し出なかったのですか?」


「それについては正式に結婚したあとに話してあげるよ。君はこの婚約を納得してここに来たわけじゃないだろう。それでも来るには理由があるはず。今は聞かないでおくけどね」


ズルい。。

そうは思ってもこちらの立場をある程度わかってくれていたのは嫌な事を説明しなくて済むから助かったのは確かだ。

隠す必要がなくなってクラリスは一つ心の荷を下ろすことが出来た。


この人は私を政略結婚の相手としてではなく1人の人間として見ている。

少なくとも身代わり王女として粗末な扱いを受ける事はなさそうだ。

ならば、私の意思をぶつけてみよう。

クラリスはジュリアンに対して正直な思いをぶつけた。


「私が嫌ならいつでも帰して頂いて構いません。ですが、私も覚悟はしています。ここにいて良いと言うのならばあなたの王妃としての任務は全うします」


言ってしまった。。

これで帰されたらどうするとか考えもせずに。

だけど温情や情けでここに居させてもらうつもりもない。

必要とされていないのならはっきりそう言ってもらいたい。


王女としての役目は果たせるだけの自信はある。

これまでもミレイユの代わりにやって来たのだから。

あの何もしない見栄だけの妹の代わりに手柄だけ横取りされて。。


ジュリアンはクラリスの態度から投げやりではなく責任を放棄しない性格だとみた。だから彼女は身代わりに選ばれたのだろう

相手にすがるような態度ではなく、自分に任された任務はこなすという覚悟がジュリアンには感じ取れた。


試すのはこれくらいでいいだろう。

ジュリアンは目の前にいる少女を王妃として認めた。


「嫌などとは言っていない。君が身代わりだということも承知の上で僕は君を正式に王妃として迎え入れよう。王子として夫となる者として君に敬意を持って接するし君を守る」


「はい?」


こんな告白のようなセリフに慣れていないクラリスは思わず声が裏返った。


「ようこそ我が国へ。僕の王妃様」


「お、王妃様。。」


クラリスは脳から蒸気が出るような感覚に陥り、照れで頭がくらついた。


「なぜ庭園で会う事にしたのか? それはここが僕の仕事場だからさ」


ああなるほど。

彼と話していると確かに迎賓館や王宮で会うよりここの方が良かったと思える。

変わり者と言われる理由が一つわかった気がする。。


彼は身分や地位で人を見ない。

1人の人間として見ている。それが周りの人たちからすれば奇行と取られるのだろう。

どうやら第一関門は突破したようだ。

クラリスに安堵の表情が出て来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ