身代わり結婚
「お姉様、私の代わりにジュリアン王子と結婚をしてもらえませんか」
言葉使いこそ慇懃丁寧だが、それはうぬを言わせぬ上から目線での命令であった。
「私が? ジュリアン王子との結婚はあなたじゃなかったの?」
「状況が変わったんでね。私とお母様が望むのは王位継承権のある王子との婚約。王位継承第二位の王子と結婚したところで我がエルドラストとジダルクとの間で好条件の条約が結ばれる可能性は低いのですのよ」
理由はそれか。。国のためじゃなく自分のための条件じゃない。
クラリスは内心ため息が出た。
ミレイユは幼少の頃から自分が何か失敗をすれば私に罪をなすりつけていた。
怒られるのはいつも私。
そしてついには婚約者の代わりまで。。
「ミレイユはこの国次期女王になる身分。王位継承権もない側室の娘とは立場も地位も違うのじゃ」
その都度、王妃ジャクリーヌにそう言われて怒りを押し殺す日々。。
〔お母さん。。〕
そんな時クラリスは亡き母を思い出していた。
「ごめんね、あなたにまで苦労をさせて。。側室である私が産んだあなたよりも正室であるジャクリーヌ王妃の子、ミレイユの方が身分が上。これが動かない事実なのよ」
私にはなぜお母さんがこんなに謝るのか理由がわからなかった。
側室ってそんなに悪い者なの?
じゃあ、どうして国王はお母さんを側室にしたの?
幼少のクラリスにはその疑問が常に付きまとった。
確かに国王は母にそれなりの生活と宮殿は与えてくれた。
与えられなかったのはクラリスの王位継承権だけと言って良かった。
でもお母さんはそれで幸せだったのだろうか?
いつも正室であるジャクリーヌ王妃の顔色を伺っていた表情が記憶に残る。
「勝手にすれば。。どうせ何を言ったところで私が行かされるんでしょうから」
クラリスはそう言った直後、自分の中で何かが壊れる音が聞こえた。
閉塞感にあふれたこの世界から解放されるかもしれない。
都合の良い考えなのはわかっている。
まだ相手に認められるかすらわからない状況で希望と不安な入り混じる複雑な心境であった。
もちろんミレイユに見抜かれないために顔には出さないが。
「聞き分けのいい姉を持って幸せですわ。ではその方向でお母様と話を取り決めるから。それまでに少しは身だしなみを整えてせいぜい綺麗に見せる努力をしておく事ね」
棘のある言い方に怒りを覚えるものの、クラリスが何を言ったところでミレイユの思惑通りに事を運ばれてしまうだろう。
どうせこの国に居ても王位継承のない身。
であれば第二継承者である王子と一緒になれば万一という事もある。
クラリスはそう気持ちを切り替えて身代わり政略結婚に望む事となった。
☆☆☆
クラリスはジダルク王国に向かう馬車の中で物思いにふける。
〔私はいつからミレイユの都合のいい存在になっていたのだろう。。〕
用意された馬車はエルドラストの威光を見せつけるために豪華絢爛に作られた特注であった。
前衛兵士たちが道路を舗装しながら進むので揺れも少なく乗り心地も良好である、
だが、クラリスの気分は晴れない。
別にエルドラストに未練はないし、残ったところで名前ばかりの王女。
だけどミレイユの身代わりに結婚させられるのにはやはり釈然としないものが胸に残る。
幼い頃に側室である母を亡くしたクラリスにとってミレイユは逆らえない存在だと教え込まれてきた。
あなたは姉であるだけで、ミレイユの方が身分が上なのだと言われ続けた。
だけど、王女という立場なのだから国のために尽くしなさいとは言われる。
理不尽な言葉の数々に耐えてここまで育ってきたクラリスにこの結婚は居場所のない自国にいるよりも外に出て自分の居場所を見つけるための新たな旅立ちであった。
「ジダルク王国第二王子ジュリアン・ヴィレール。面白いじゃない。。聞くところによれば変わり者だって噂だけど、どんな人物なのか見てみたい」
クラリスは決してか弱いだけの王女ではなかった。
自分の地位と立場を理解してミレイユにあえて口答えしないだけで、芯は通った女性である。
身代わりがばれたらどうなるのか?
エルドラストに帰国させられたらまた閉塞感の世界に逆戻り。
でもミレイユみたいに見た目の豪華さで相手の目と気を引くような事はしたくない。
乗っている馬車こそ豪華だが、着ているドレスは王女とは思えない質素なものである。
身代わりに来させられたと最初の数日でばれるであろう。
「私はまだ相手に選ばれたわけじゃない。4年前の取り決めでジダルクに行くだけだ。ジュリアン王子に身代わりの偽物と指摘されたらどうなるかわからない」
不安はある。
だが後戻りは出来ないしするつもりもない。
馬車はジダルク帝国の城門に近づいて行く。
いよいよだとクラリスは気を引き締めた。
「ありのままの自分を見せてそれでダメなら仕方ない。。でも、もし選ばれたのなら私の持つ政治と歴史の知識をジュリアン王子に捧げる」
好きとかの感情などない。
相手を信頼してお互い協力しあえるパートナーとなれれば。
そう思うのだった。




