打算の綻び
「あの女は今動けない。ここで一気に片付けたいわね」
ミレイユは前回、クラリスを事故に見せかけて怪我させるところまで成功した。
クラリスは寝たきりで動けない。
今がとどめを刺すチャンスだと見ていた。
「メイドと臣下はどちらも役立たずだったわね。他に使えそうな奴はいないのかしら? 金で動く奴。。」
目障り。。とにかく存在しているだけで胸をかき乱す。
ミレイユにとってクラリスは感情的に受け入れられない存在となっていた。
何をやっても私より上手く立ち回り、評価の高い女。
王位継承権もない飾り王女の分際で。。
ミレイユにとって王位継承権は絶対に動かない芯であった。
ジュリアンの言う「国がなくなれば何の価値もないもの」などと想像する事もなかった。
ミレイユは臣下たちにこう告げる。
「金で動きそうな奴を見つけ出してきな。お前たちの中でも構わないよ。クラリスを葬れそうな奴を見つけ出して私の前に連れておいで」
とても14歳の口調とは思えなかった。
「本当にお金を貰えるんですか?」
それを聞いた臣下の1人がミレイユに尋ねる。
ミレイユは怪訝な表情で男を睨みつけた。
「私の言う事が信じられないっての? 金が欲しいならやるからクラリスを始末してきな」
「せめて前金だけでも。。」
ミレイユは苛ついたが、金を欲しがる人間はこういうものだと認識しているので、袋から金貨を10枚ほど取り出して男に向かって放り投げた。
「前金だよ。成功したらその10倍の金を払ってやる。ただし、失敗したらどうなるかわかってるね」
「そのお言葉、お忘れなきよう」
臣下の男はそれだけ言うと立ち去っていった。
「気味の悪い奴だね。使い物になるの?」
「奴は金がかかれば確実にやるでしょう。気になる点と言えば少々派手なやり方をするところですが。。」
男はエルドラスト軍に所属する徴兵であった。
剣を持てばその剛腕に物を言わせて相手を叩き斬るというやり方で戦果を上げたのだ。
一方で酒と借金にまみれる私生活であったため、金になる事ならなんでも手を出した。
ミレイユはクラリス暗殺と同時に自身の婚約も母ジャクリーヌに頼んで進めていた。
「お母様、私とアレクシス王女の婚約の話はしてくれたの?」
「ええ、手紙を送っておいたわ。健康状態は上向きになっているからとりあえず一度会ってからにしたらどうかと言ってきたわ」
不安材料であったアレクシスの健康状態が上向きと聞いてミレイユはほくそ笑む。
「ならばジダルクに行きましょう。私がアレクシスと結婚して王妃になればクラリスをこの手で直接始末出来るし。これ以上使えない奴らに任せるのはお金と時間の無駄よ」
☆☆☆
男は直接クラリスのいる宮殿に正面から乗り込むという大胆な方法に出た。
力ずくで強引に始末しようというのだ。
「ちまちましたやり方は面倒くさい。正面から乗り込んでグサリとやっちまえばそれで終わりよ」
男は確かに金のために動いた。
しかしやり方が雑過ぎた。
策略も何もない正面突破の一点。
彼にはミレイユに対する忠誠心すらなかった。
金のため。それだけで動いたのだ。
ミレイユにとってこの男を選んだのは後の運命を決定づける事となってしまった。
宮廷は混乱に陥った。
男はクラリスの眠る部屋に向けて正面から乗り込んで来たのだ。
急ぎ警備兵たちが食い止めようとするが、さすがに剛腕で戦果を上げた人物であった。
剣の腕は相当で、次々と警備兵を斬っていく。
剣を振るう音と警備兵たちの怒号、悲鳴が響き渡る。
「強引に正面突破してくるとは。。やり方が雑になってきているな」
ジュリアンは少し予想から外れたミレイユの動きに戸惑っていた。
暗殺とは闇討ち、つまり影に隠れて行うものだ。
ここまで堂々とやって来るとは正気の沙汰じゃない。
とは言え、あの男をどうにかしなければクラリスが危ない。
このままでは警備兵の犠牲者も増すばかりである。
思案しているジュリアンの元に警備隊長がやって来た。
「ジュリアン様」
「隊長。状況はどうだ?」
「芳しくありません。一対一の戦いではあの男には敵わないでしょう。そこで、一つ提案があります」
警備隊長がジュリアンに作戦を持ちかける。
「私が見る限り、あの男は猪武者です。己の力量に慢心して正面突破に来ているのでしょう。ああいう輩にまともに戦うのは危険です。落とし穴を作り、誘い込んで落としましょう。それで捕えらます」
なるほど、突進型のタイプならそれは効果的だとジュリアンはその案を採用した。
隊長の命令で警備兵たちは適度に戦って逃げていく戦法を取った。
男は相手が弱いと思い込んで警備兵たちを追っていく。
そして見事に落とし穴に落ちて身動きが取れなくなったところを捕らえられた。
騒がしい音に眠っていたクラリスが目を覚ました。
「ここは?」
介護をしていたメイドが「クラリス様の寝室でございます」と答える。
クラリスはしばらく考えていたが、社交界の日にバルコニーから落ちた事を思い出した。
「そうだ、私はバルコニーから落ちて。。」
「お医者様からはしばらく安静にしていれば大丈夫と言われています。クラリス様、今はゆっくりお休み下さい」
またミレイユの仕業。。
どうしてここまで私を狙って来るの。
そこまで私が憎いの?
私が彼女に何をしたというのだろう。。
クラリスはそんな疑問にとらわれながらベッドで考えていた。
この国に来てからジュリアンに迷惑を掛けっぱなしだ。
やっぱり私は来ない方が良かったのかな。
そんな風に考えてしまうのだ。
☆☆☆
「言え、お前を雇ったのは誰だ」
ジュリアンの指示により男はジダルク軍に預けられ拷問に掛けられた。
「エルドラストのミレイユ王女か?」
男はいくら鞭や鉄棒で叩きつけても口を割らない。
「お前は任務に失敗した。国に戻ったところで待っているのは処刑だろう。正直に白状すれば命までは取らぬ」
そんな言葉を信用するとは思えないが、一応言ってはみた。
反応は想像した通りまったくの無反応。
ジュリアンは臣下たちを集めて協議した。
「あの男、おそらく口を割らないだろう。ミレイユが差し付けたのには違いないと思うが、どうすれば口を割らせられると思う?」
ジュリアンを含めた臣下たちはいくつか意見を出しあい協議していくが、1人の臣下からの発言がジュリアンの心を動かした。
「ジュリアン様、口を割らせる必要はございません」
「どういう事だ?」
「裏で糸を引いているのがミレイユとわかっているのならあの男を利用するのです。ミレイユの前にあの男を連れ出して「この男がすべて白状した」と言えば良いのです。
ミレイユの仕業ならそこで何か反応があるでしょう。男は何も言ってないと言うでしょうが、そうなれば自白したも同然でございます」
「なるほど、いい案だ。皆の者、今の案件はどうだ?」
ジュリアンが他の臣下たちに反対意見があるか確認したが、誰からも反対は出なかった。
「決定だ。口を割らぬのなら利用させてもらおう」




