ジュリアンの思い
クラリスを怪我させてしまった事で自分自身に腹を立てているジュリアン。
「僕は彼女をミレイユとジャクリーヌの手から守るためにここに連れて来たのに。。」
クラリスが側室の子で王位継承権がない事は事前にわかっていた。
ジュリアンはかつて舞踏会で一度だけ遠くから見ていたクラリスに目を惹かれた。
立ち振る舞いも見事なら社交ダンスも文句の付けようがない。
その後、ミレイユに罵倒されて謝罪している姿を見ておおよその察しがついてしまった。
あの子をエルドラストから逃してやりたい。
出来れば自分の王妃として迎え入れたい。
それがジュリアンの思いであった。
「エルドラストと政略結婚のう。。我が国に何か利益があるのか?」
「攻め取りましょう」
ジュリアンの大胆な言葉に皇帝も驚いだ。
「政略結婚で手を結んでおいて、攻め取ろうというのか」
「政略結婚は不可侵条約ではありません。歴史上政略結婚後に相手国に攻め込んだ例はいくつもあります。相手を油断させておいて攻め取るのも戦略だと思います。つまり単なる口実です」
「ふむう。。お前の考えている事を申してみよ」
「僕がサンドリアンで求めているのはただ1人、クラリス王女です。彼女は実に聡明で政治能力も長けています。彼女にないのは王位継承権だけ。クラリス王女は僕が貰い受けます」
「とりあえずお前の目的はそのクラリス王女という事はわかった。その後に攻め取る理由は?」
ジュリアンは国王に自身の計画を伝える。
そんなに上手くいくかは国王も首を傾げてはいたが口は出さなかった。
軍事力はジダルク王国の方が上である。
攻め込めばエルドラストは数ヶ月で攻め取られるであろう。
「父上、王位継承権とはそんなに大した物なのでしょうか? そんな物を振りかざして傲慢にしている連中に、それが通じない相手の前ではどうなるか見てみたいというのが僕の考えです」
「国があっての王位継承だからな。国が無くなってしまえば王位も何もあるまい」
「もちろん、取るからには我が国にも恩恵がなくてはなりません。エルドラストは金の産出国です。我が国の倍以上ある金が手に入れば財政不安も解消されるでしょう」
皇帝は少し考えていた。
最終的に好きな女のためだけに国ごと奪い取るという息子の気概が気に入った。
「いいだろう、政略結婚の話は進めてやる。あとはお前の好きにするがいい。サンドリアン相手に我が国が苦戦するような事はあるまい」
「お聞き入れ下さりありがとうございます」
はっきり言ってジダルク国王にとってエルドラストなど金以外に何の価値もない国であった。
息子の嫁取りに国ごとと言うのであればそれくらいは認めてやろうとなったのだ。
一方でジュリアンはそれが王子として正しい選択かどうかわからなかった。
戦争となれば犠牲者が出るのだから。
だが一人の男として、引くという選択肢は最初からなかった。
☆☆☆
「姉さん」
ジュリアンは「姉」である"ヴィクトワール"に相談を持ちかける。
「え? 私が男という事にするの?」
「そして王位継承権第一位という事でね。そうすればミレイユとジャクリーヌはクラリスを僕に嫁がせるだろう。王位継承一位の姉さんとミレイユを結婚させるために」
「呆れた。。もしミレイユが来たらどうするの?」
「その時は姉さんに出てもらうよ。婚約者は女性でしたってね。怒って帰っておしまいさ。でも政略結婚は確定している。結局クラリスが来る事になるだろうね」
声を出して笑うジュリアンにヴィクトワールはため息をつく。
「ま、話はわかったわ。あんたが惚れた女の子と一緒になりたいっていうのなら協力してあげる。お礼に何をくれるのかしら?」
「王位継承権じゃダメかい」
「私は歴史学者になるのよ。王位なんていらないわ」
「そうか、まいったな。何が良いのか。。」
ジュリアンはしばらく考えて思いついた。
「姉さんに必要な宮殿と図書館を用意するというのはどうだい? しばらく姿を見せない事になるんだ。退屈しないように必要な物は全部準備する」
「じゃあ静かな場所に宮殿を一つ用意してもらおうかしら。そこに必要な本も運んでちょうだい。それでいいわ」
「それと姉さんに男の名前を考えておいたんだ。アレクシスというのはどうだい?」
「あんたの好きにしていいわよ。その代わり可愛いお嫁さんが来たら紹介してね」
ジュリアンは皇帝から好きにしていいと許可を得ているので、ある程度は自分の裁量で動かす事が出来た。
エルドラストに嘘の情報を流す。
アレクシスを「兄」として王位継承一位としておく。
ジュリアンは二位で、今回はジュリアンの王妃候補だと伝える。
おそらくミレイユとジャクリーヌはクラリスを身代わりに差し出すだろう。
それがジュリアンの目論見とも知らずに。
舞踏会で見た愛らしい少女。
ジュリアンが彼女を王妃にすると決めた時から歯車は動き出したのだ。
「今はまだダメだ。今の僕では彼女に相応しくない。もっと大人になって彼女に相応しい力と知識を身につけて。。それから迎え入れる」
当時10歳だった彼はそう決意した。
☆☆☆
そして6年後、ジュリアンの目論見通りにクラリスが身代わり王女としてジダルク王国にやって来た。
ジュリアンは自分の庭園に彼女を招き入れてどんな子なのか、イメージしていた偶像と比べて見た。
そして想像してた通りの女性だと安心したのだ。
庭園でティーを飲みながらの挨拶、普通の王女なら無礼だと怒鳴り散らすであろう。
「私が嫌ならいつでも帰して頂いて構いません。ですが、私も覚悟はしています。ここにいて良いと言うのならばあなたの王妃としての任務は全うします」
このひと言でやはり自分の王妃はクラリスしかいないと確信した。
「嫌などとは言っていない。君が身代わりだということも承知の上で僕は君を正式に王妃として迎え入れよう。王子として夫となる者として君に敬意を持って接するし君を守る」
これがジュリアンなりのクラリスに対する「告白」であった。
ここまではほぼ予想通りであった。
クラリスに怪我させてしまった事以外は。
「おそらくミレイユは今回の件で半分は成功したと思っているだろう。そろそろ『姉さん』との婚約を持ち出してくる頃。そこで種明かしといこうか」
ジュリアンはミレイユが直接出てるのを待っていた。
アレクシス、つまりヴィクトワールとの婚約となればミレイユはジダルク王国に来るのが必須となる。
そこで直接対決とするつもりであった。
「もうすぐだよ、クラリス。君を苦しめた奴らに手痛い仕返しをしてやれるのは」




