プロローグ
全16話の中編になります。
「クラリス・アントワーヌ。初めからの取り決め通り、君が僕の王妃だ」
「ジュリアン。。」
クラリスはミレイユの身代わりにジュリアンに差し出された王女であった。
しかしジュリアンはクラリスを正式な王妃と決めたのだ。
「そんなバカな。。どうしてあんな無能な女なんか。私の方が美人だし有能なのに」
ミレイユの言葉にジュリアンは侮蔑の目を向けて答える。
「確かに身分だけなら君だと言う王子がほとんどだろうな」
「どういう意味?」
「言った通りの意味だ。君にそれを話したところで理解出来まい」
ミレイユは自分が敗れた理由がわかっていなかった。
正室である王妃の娘でエルドラスト王国の王位継承者でもある自分が、王位継承権のない側室の娘クラリスに負けるなどあり得ないというのが彼女の信念であった。
☆☆☆
エルドラスト王国の王女である長女クラリスと次女ミレイユ。
どちらも王女という地位ではあるが、決定的に違うものがあった。
それは王位継承権である。
クラリスは姉であるが、側室の子のために王位継承権がなかった。
正室であるジャクリーヌ王妃の娘、妹のミレイユが王位継承権を有していた。
そのために姉でありながらクラリスはミレイユに意見が出来ない立場であった。
そんなある日のこと。
隣国で軍事的な脅威でもあったジダルク王国の王子との政略結婚の話が持ち上がってきた。
この婚約が破談になれば、エルドラストは滅びる。誰もがそう理解していた。
軍事的脅威のあるジダルクと政略結婚で同盟を結ぶ事により、自国への進撃をなくすと同時にお互いの軍事力が合わされば周辺諸国への睨みも効くようになる。
自国の危機が回避されるだけでなく、強国としての足がかりにもなる。
当然エルドラストは断る理由もなく、王女を嫁に送ると約束する。
この時点で王女と言えば正室ジャクリーヌの娘である妹のミレイユの事を指していた。
相手としてジダルク帝国は王位継承第二位の次男であるジュリアンが選ばれた。
これがジュリアンとクラリスがまだ12歳でミレイユが10歳の時である。
両国はジュリアンが16歳、ミレイユが14歳になった段階で結婚させる事を取り決めた。
なぜ王位継承第二位の次男なのか。。
じつはジダルクにも諸事情があった。
ジュリアン・ヴィレールはジダルク王国の王子で、次男である。
王位継承権は第二位である。
問題は一位である兄のアレクシスにあった。
アレクシスは幼少より病弱で、医師からそれほど長生き出来ないであろうと言われていた。
そのため、ジダルク国王はアレクシスが病死した時に備えてジュリアンを表舞台に出すようにしていった。
そのジュリアンの婚約者としてエルドラスト王国は王女を差し出す事としていたのだ。
だが、病弱であったアレクシスが14歳頃から体が丈夫になり、病死の危険からも脱したためにジュリアンは王位継承第二位の立ち位置に戻った。
これを知ったミレイユはジュリアンとの結婚を嫌がり、代わりに姉のクラリスを差し出して自分は王位継承第一位のアレクシスとの婚約を望んだのだ。
ミレイユにしてみれば王位継承第二位の王子と結婚したところで、アレクシスが国王となれば臣下の身分である。
「いくら政略結婚でもこんなの嫌よ。どう考えても王位継承一位であるアレクシスと結婚した方がいいに決まっているじゃない」
「しかし、この婚約は4年前から決まっている事じゃ。断ればジダルクが我が国に侵攻してくるかもしれぬ。そうなれば王位継承どころの騒ぎではなくなってしまうのよ」
「では、どうすれば。。」
ミレイユもその危険は認識していた。
今更この婚約をなかったものには出来ない。
ではどうすればいいのか?
ミレイユはしばらく考えて思いついた事を王妃である母ジャクリーヌに話す。
「お母様、いい事を思いつきましたわ。クラリスを私の代わりにジュリアン王子と結婚させましょう。取り決めた約束はこちらの王女を差し出すという事のみ。クラリスか私かの明確な指示はないわ」
「なるほど。。確かにそうじゃのう。王女を嫁に送るとだけ申したがミレイユであると明言してはおらぬ。クラリスでもよいわけじゃ」
「でしょ? 第二王子にクラリスを嫁がせて私は第一王子と改めて婚約してもらう。これが1番ですわ」
王女と言えば王位継承者であるとみんなが思い込んでいたところを突いた2人の悪巧みである。
王妃ジャクリーヌもその方が自分にとっても都合が良いとその方向で行く事に決めてしまった。
ミレイユが王妃になればジャクリーヌは王妃の母であり、その権力はさらに増す事になるからだ。
元は政略結婚であるから仕方がないと言えばそれまでだが、クラリスは妹の代わりに王位継承第二位の王子に嫁ぐ事となったのだ。
元々王位継承権のないクラリスにとってはそれでも破格の対応ではあるのだが。。




