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スキンシップ

「で、凪ちゃんとはどこまでヤったの?」

「何が?」


 期末テストもどうにか赤点を回避して乗り越え、夏休みは週2くらいで遊ぼうよ、週1くらいでいいだろと光琉と恋の駆け引き? をしていたのだが、唐突に彼女がそんな事を言い出すので素で困惑してしまう。


「夏休みの目標として、凪ちゃんと同じところまでは進んでおきたいねって。とりあえずキスは今しようよ。テスト終了のお祝いってことで」

「……俺は多分凪ちゃんとキスすらしてない」

「はぁ?」


 恋人なのだから開放的な夏にはステップを進めようという合理的な彼女の提案であるが、思い返してみれば俺はそもそも凪ちゃんとまともなキスをした事が無いかもしれない。


「覚えてないくらい子供の時にキスとかはしたかもしれないけど、物心ついてから身体の関係なんて一切無いよ」

「え……毎週土曜日には二人で生活してるんだよね? 一緒に寝てるんだよね? それで何もしてないの? 春己、女に興味無いの……?」


 自分を愛してくれる婚約者と週1で一つ屋根の下で暮らしているにもかかわらず、何もしていないという俺のヘタレっぷりが余程衝撃的だったようで、光琉に若干引かれてしまう。


「いや、興味は勿論あるけど。まだ正式に夫婦じゃないし、間違いとか起きたら大変だしさぁ……」


 俺も男だ、突然リビドーに突き動かされる事だってあるだろう、欲望に抗えない時だってあるだろう、と財布に常に忍ばせているゴムを机の上に出してそれなりの想定がある事を主張するが、光琉はやれやれと溜め息をついて同様にカバンから避妊薬を取り出す。


「避妊の技術だって昔より遥かに進んでる訳で、間違いなんて起きない起きない。そもそもね、そういう事をしたら必ず妊娠する訳じゃ無いんだよ? エロ漫画の読み過ぎでは? それとも何かい? 俺のは大きいからゴムをつけたって破れるし最強のおたまじゃくしだから百発百中だぜってかい? あの子、あんなに君に懐いてるのに、女の悦びも教えて貰えないなんて、可哀想……」

「女の悦びって……滅茶苦茶痛いかもしれないだろ、お前は経験あるのかよ」

「一人でする時に膜が裂けるくらい挿れた事は無いけど……」


 下品な話で争って微妙に空気が悪くなりながらも、夏休みの課題として関係のランクを上げなさいと言われてしまい、俺もそういう行為に興味が無いというのは嘘なので、彼女に煽られて乗り気になってしまう。

 その週の土曜日、頭の中をピンク色にした状態で夫婦ごっこを行い、ムードを大事にするために先にシャワーを浴びた後、彼女をお風呂に入らせて、ゴムの装着方法だとかをネットで検索して予習を行う。


「さっぱりした! それじゃ、ねようか! ……? なんではるくん、ふくきてないの?」


 お風呂に入り、パジャマ姿で寝室にやってきた彼女だったが、俺がパンツ一丁姿なのを不思議に思いながらも、布団に入って寝ようとする。そんな彼女に俺は馬乗りになり、彼女のパジャマに手をかけた。


「凪ちゃん。今からプロレスごっこしよう」

「……えーと、こういうことは、じゅうろくさいにならないとだめだって……あれ? わたし、じゅうろくさいだっけ?」

「そうだね。凪ちゃんの誕生日は五月だから、ついこないだ16歳になったんだ。法律的には結婚も出来るんだよ」


 男にそういう事を求められた際の対応も学校で習っているらしく、彼女は自分の年齢が16歳であることを気にし出す。

 いくら女性に権利が無くなったからといって、幼過ぎる時にそういう行為をしてしまえば身体にダメージが入るという理由もあり、世の中はロリコンには厳しい。

 その目安となっている16歳を凪ちゃんはクリアしているし、


「でも、ちゃんとふうふじゃないとだめだって。……あれ? きょうは、わたしたち、ふうふだっけ?」

「そうだね、俺達は実質夫婦。君のお父さんにも好きにしろと言われているし、なんてたって今日は夫婦ごっこ。完全に夫婦だよ」


 婚前交渉は原則禁止とは言えど、今日は夫婦ごっこであり、法的に夫婦になっているも同然。

 鼻息を荒くしながらいかに合法かどうか、凪ちゃんが拒否する理由が無いのかを説明する、傍から見たら物凄く情けないであろう俺ではあったが、目の前の凪ちゃんはそれで納得してくれたようで、自分からパジャマを脱ぎ始める。


「うん、わかった! はい、どーぞ!」


 俺の目の前には何度もお風呂で見ているはずなのに、ベッドで押し倒しているというだけで完全に別に見えてしまう彼女の肌。


「(落ち着け、予行演習は何度もしてきた。まずは身体を触って……)」

「だいじょうぶ? て、ふるえてるよ?」

「……!!!!!」


 なるべく彼女の身体を傷つけないように、丁寧に彼女を愛でようとするも、完全に緊張してしまいテレビで見たアルコール依存症の人間の如く手がガタガタと震えてしまう。

 そんな俺を落ち着かせようとしたのか、凪ちゃんはあろうことか俺の手を取って自分の胸に抱く。


「あばばばばば」

「おとこのひとって、こうするとたのしいんだよね?」


 俺は何もしていないのに、勝手に手が震えて自然と彼女の胸を揉むという変なプレイをしばらく続け、手の震えが治まる頃には、完全に俺は緊張の糸が解けてしまい、自分の子供も完全に意気消沈。


「……凪ちゃん、服を着ようか。キスしておやすみしよう」

「ちゅーするの? うん、いいよ!」


 自分がいかにヘタレだったのかを痛感した俺はいそいそと服を着ると、せめてキスだけは達成してやるとパジャマに着替えた凪ちゃんの横に寝て、お互い抱きしめながら唇を奪う。


「ん……ふふふ、くすぐったい」

「それじゃあ寝ようか」


 お互いがお互いを抱き枕にした、身体の温もりも唇の感触も感じられる数秒間の後、彼女を解放した俺は彼女に背を向けて寝ようと努めるも、あんなことをしてすぐに眠れる程に経験豊富な訳では無い。


「……zzz」


 経験も無ければ羞恥心も無い彼女が隣で寝息を立てる頃、俺は彼女を起こさないようにトイレに向かい、復活した自分の子供に対し反省会を実施するのだった。





「……というわけでキスは何とか出来たけど、いやー、やっぱりね、なんというか、本当に好きだから、可愛いと思ってるからこそ、汚せないというか。世間は今の女性は人形だ、なんて言うけどさ、人形だとしても、愛着湧いたら気軽に汚せないんだよ」


 翌週の月曜日。光琉に戦果報告という名の言い訳をすると、共感は出来ないけど興味は湧いたとばかりに、俺をからかうでも無くふんふんと頷きながら話を聞いてくれる。


「そんなものなのかねえ……まあ、確かに世の中の男はほとんど突然奥さんが出来て子供を作れ、だもんね。君みたいに何年も一緒にいて愛着が湧くパターン自体がレアなんだろうね」

「その辺の男女よりもうまくいくと思ったんだけどな~、意外な障害かも」


 こんなヘタレ状態では、ちゃんと彼女と結婚したとしてもうまく行かないかもしれない。そういう意味では光琉のような途中で出来た恋人というのは、俺と凪ちゃんの関係にとっても都合のいい存在なのかもしれないな、と俺は話を切り上げて彼女に近づく。


「という訳でキスしよう。同じところまで進むんだろう?」

「何だか今の話を聞いた直後だと、全く愛着が無いから気軽に出来るぜ的な感が凄くて嫌だなぁ……まぁ、するけど」


 彼女はちょっと不満そうにしながらも顔を赤らめ、身を乗り出して俺の唇を奪う。

 数秒後、耐えられなくなったようで彼女は顔を離し、そのまま机に顔を突っ伏して足をじたばたさせた。


「え、えへへ……ファーストキスって、レモンの味がするみたいに聞いてたけど、確かに果物みたいな味がするんだね」

「それはさっきデザートに食べたリンゴの味だ。俺達昼食中だろ」


 恥ずかしくてボケているのか判断に困る発言に困惑しながらも、俺は二人の女性をキスをした事で若干男として自信がついた感じになる。

 こうして俺達は、少しだけ関係性をレベルアップさせて夏に臨むのだった。

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