これが異世界転移ってやつか
短編2作品目です。
今、人生の岐路に立っている
◇ ◇ ◇
いきなりで悪いがまずは自己紹介からさせてくれ。
俺の名前は成蝋 太郎。
海外商社マンの父と看護師の母との間に生を受けた16歳の高校生だ。
とは言っても今は、『不登校』の引きこもりだからこの肩書は不釣り合いかもしれない。
こう聞くと学校で虐められたり、家を空けがちな両親へ向けた思春期特有の反抗心から不登校になったのかと思うかもしれないがそんなことはない。
むしろ学校での友達付き合いは良好だし、自分で言うのもなんだが教師相手に軽口を叩いても許される程度には人懐っこく好かれる性格をしている。
両親も忙しい仕事をしているとは思えないほど俺に愛情を注いでくれる。もちろん衣食住はかなり高いレベルで、幼い頃は家政婦もいた気がする。そんな両親に不満などあろうはずがない。
‥‥じゃあなぜ『不登校』になったかだって?
朝、眠い目を擦りながらいつも通りの時間に起きて、眠気覚ましに顔を洗いうがいをする。朝ごはんを食べてトイレに行って身支度を終えて家を出る。
学校へ向かう途中に、今日は授業で自分が発表の番だったことに気づき憂鬱になる。
こんな経験一度はみんなもしたことがあるだろう。そしてそんな時に、
(あぁ‥‥学校行きたくねぇ‥‥)って思うことも。
それをたまたま何の気なしに実行に移してみた、ただそれだけのこと。一度やってしまえばそこからは歯止めが利かないものだ。
今時珍しい話じゃないだろう。ネットの記事で、不登校の原因は無気力が一番多いとか何とか書いてあったがたぶんそれだ。
そんな無気力な俺にも時間を忘れて夢中になれるものがある。それは『ゲーム』だ。ジャンルを問わず数多のゲームを遊びつくし、その中でもとりわけRPGに熱中した。
自分が主人公となり、その選択一つで世界を変えられる。そんな非日常を味わわせてくれるストーリー展開やファンタジー世界は、厨二病を患っている俺には余りに眩しく輝いて見えたものだ。
◇ ◇ ◇
今、人生の岐路に立っている
いや、正確には人生の岐路と書かれた看板の横にあるマンホールの前に太郎は立っている。
買い溜めていたコーラが底をつき、仕方なく家の近くのコンビニまで買いに出掛ける最中、久しぶりに感じる外気の気持ちよさに任せて歩を進める。そんな折、見つけてしまったのだ。
タチの悪い悪戯かと思って周囲を見渡すが人の気配はない。気づけば先刻まで吹いていた心地良いそよ風も今は感じられない。太郎は気味の悪さを誤魔化すように敢えてそれに近づき観察してみる。
どちらの材質も見覚えがなく、手触りも驚くほど滑らかなそれらは明らかに異質だった。本来なら景色に溶け込むはずが無いのに、当てはまる訳のない別のパズルのピースが合ってしまう様な奇妙な感覚。
常人ならこれ以上は踏み込まない。だが太郎は違った。
全身に鳥肌が立ち、心臓がドクンと脈打つと同時に血も沸き立つ。
太郎がマンホールを開けて手すりを下り始めるのにはそう時間はかからなかった。言わずもがな、この日を待ち侘びていたのだ。
無気力で退屈な日々から抜け出すためにやっていたゲームではこれほどの興奮は味わえない。
どれだけ欲しくても本当の意味では手に入れられなかった非日常が今、目下にあるのだ。どんどんペースを上げて降っていく。
「あっ!?」
2年に渡る引きこもり生活の弊害か、突如として訪れた疲労により手すりを掴む手が緩んだ太郎はバランスを崩し落下する。
一瞬の浮遊感の後、途轍もない速度で自由落下を始める太郎は最初こそ焦りを覚えたがすぐに冷静になる。
「下に着く頃には不思議な力で勢いが相殺されて着地出来るだろ。何てったって異世界転移だからな。」
数十秒後訪れる冷たい死には気づかないまま太郎は堕ちていく。
短編2作品目です。
異世界転移にありがちな展開からの、転移できずにバッドエンドが今回のテーマです。
現実世界で徳を積んでいない、又は同情される要素が無い主人公がいた場合どうなるか考えたら自然とこの設定になりました。
A.E.I




