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剣聖・佐々木義輝は魔王討伐より推し活が大事  作者: 北大路京介


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8/20

第8話:ミミックへの対話と、推し活哲学の解体

<ミミックの巣窟と、カノーの仕掛け>


義輝は、王都地下迷宮の最深部、ミミックの巣窟へとたどり着いた。辺り一面には、金銀財宝が詰まった宝箱が雑然と並べられており、一見すると裕福な冒険者の隠し倉庫のようだ。しかし、その宝箱のほとんどが、獲物を待つミミックの擬態である。


「ミミックの鍵穴部分の『無垢な歯車』…。アリス様の趣味である魔導時計の最高精度パーツにするためには、戦闘の衝撃による魔力の残留は許されない」


義輝は、神剣を封印しているため、ミミックを力ずくで破壊することはできない。必要なのは、ミミックに「自発的に鍵穴を開けさせる」という、非戦闘的なアプローチだ。


その時、迷宮の岩壁に、カノーが仕掛けた魔導スピーカーが光った。


『義輝。今頃、最深部か。私はすでに、ミミックを無傷で処理できる精密加工魔法の使い手を雇い、アリス様が求める歯車を確保済みだ。貴様のような武力に頼る者は、推し活のスピードで、私の資金力に勝てない』


カノーの声が響き渡った。義輝は無視する。カノーの戦略は、常に「物質的価値の最短ルート」だ。しかし、義輝は、アリスの真意を読み解くことに集中した。


(アリス様が求めるのは、最高精度の「パーツ」ではない。彼女は自らの手で魔導時計を作るという「創作」を推している。だからこそ、最高に手間のかかる『ミミックの鍵穴』を求めたのだ。精密加工魔法など、彼女の創作の喜びを奪う「邪悪な外注」に等しい!)


<ミミックへの推し活の説法>


義輝は、群れの中から、最も古びていて、鍵穴が深く刻まれたミミックを見定めた。それは、長年、獲物を待ち続けてきた、ベテランのミミックだろう。


義輝は、そのミミックの前に静かに座り込んだ。


「ミミックよ。私は剣聖佐々木義輝。貴様を討伐しに来たのではない。私は、推し活のために来た」


ミミックは、宝箱の擬態を保ち、わずかに鍵穴を揺らすだけで反応しない。


「貴様は、鍵穴に触れられた瞬間に、獲物を捕食する。貴様の『鍵穴』は、貴様の『推し活』だ。貴様は、最も価値の高い宝を収集することに、生涯を賭けている」


義輝は、ミミックの『擬態』という行動原理を、自身の『推し活』に重ね合わせて語り始めた。


「だが、貴様は知っているか?真の『推し』とは、誰にも触れさせないほど完璧に隠された『宝』のことではない。真の『推し活』とは、自分の全存在をかけて、最高の瞬間に一瞬だけ鍵を開ける行為なのだ!」


義輝は、懐から「個別ロングトーク券(3分)」の半券を取り出した。


「これを見ろ!私は、たった3分の対話のために、魔王軍の幹部を討伐した!貴様の鍵穴も、アリス様にとって、その程度の価値がある!」


ミミックは、義輝の異様な熱量と、半券に込められた魔力(推しへの愛)に動かされたのか、箱の口をわずかに開けた。


<無垢な歯車の解体と、義輝の特技>


「そうだ、ミミック。推しを前にした時、自分の牙など、ただの『照れ隠し』に過ぎん。今こそ、その鍵穴を、アリス様のために捧げろ!」


ミミックは、最終的に観念したかのように、完全に箱の口を開いた。その鍵穴の奥には、確かに小さな歯車が輝いていた。


義輝は、素手でミミックの歯車に触れた。だが、すぐに引き抜いてはならない。歯車は、魔力の衝撃に極めて弱い。


義輝は、神剣を封印しているが、剣聖としての『無欠の剣技』は、魔力の流れを完全に制御し、物質の結合を極限まで精密に操作するという特技に転化されていた。


(アリス様が求めるのは『無垢』。つまり、切り離す瞬間の魔力干渉をゼロにしなければならない)


義輝は、全身の魔力を制御し、鍵穴の周囲の分子結合を、一本の糸を断ち切るように、正確に分離させた。それは、通常の剣技とはかけ離れた、超絶的な精密な解体術だった。


「…分離完了」


義輝は、無垢な歯車をそっと保存容器に収めた。傷一つない、純粋な物質。アリスの求める「最高のパーツ」が、今、義輝の推し活の勝利によって手に入った。


<カノーの最終罠と、剣聖の覚悟>


義輝が、ミミックの巣から出ようとした瞬間、カノーの魔導スピーカーが再び響いた。


『義輝!貴様が神剣を封印していることは計算済みだ!最深部の出口には、魔導地雷を敷設した!素手では、無傷で通過することは不可能!私の情報力こそが、推し活の絶対的な勝利条件なのだ!』


カノーは、義輝の勝利を阻止するため、地下迷宮の脱出ルートに罠を仕掛けたのだ。


「地雷だと?愚か者が!」


義輝は激怒した。地雷の爆発は、義輝自身の身を危険に晒すだけでなく、今手に入れた推しの素材を破損させる可能性がある。これは、義輝の推し活における、最大のタブーだ。


義輝は、歯車とジェルを厳重に保護し、自らの身を盾にする覚悟を決めた。


「推しの素材を危険に晒すなど、断じて許せん!私はこの素材を、無傷でフローラ様の元へ届けねばならんのだ!」


義輝は、地雷の敷設地点に向かって、猛然と走り出した。神剣なき今、剣聖の命を懸けた、究極の回避術が試される。


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第8話 完

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