第5話:幹部級証明書の用途と、非公式ボディーガード決定戦
<特典会の aftermath と証明書の行方>
特典会会場の崩れた壁の前で、佐々木義輝は、討伐したばかりのブラック・ゴーレムの残骸から光る「魔王軍幹部級証明書」を握りしめていた。
「この証明書があれば、フローラ様とのシークレットツーショット撮影会に参加できる……!推し活の頂点、いや、オタクの人生の最高地点だ!」
義輝の目に、推しへの愛が宿った狂気が光る。
「待て、義輝!」
そこに、義輝の血まみれの鎧を見て青ざめていたレオンと、治療魔法を準備するシズクが駆け寄ってきた。
「君は正気か!その証明書は、本来、王都防衛の功績として王室に献上すべきものだ!幹部級の討伐は国家レベルの大功績だぞ!」レオンが叫んだ。
「その大功績こそが、フローラ様とのツーショット撮影の価値に等しいのだ、レオン」義輝は冷たく言い放つ。「王国の財政に貢献するより、フローラ様の『笑顔の永遠の記録』を残すことの方が、私にとっては重要だ」
「義輝の推し活は、もう国の危機を超越しているわね…」シズクは諦め顔で、崩れた壁の瓦礫に座り込んだ。
その時、ライバルのカノーが、義輝の手元の証明書を指差し、口を開いた。
「義輝。その証明書、私に売ってください」
「なんだと?」
「私はフローラ様のために、この世界で最も豪華な衣装を作りたい。幹部級の魔物素材は、そのための魔力繊維の源になります。金銭なら、いくらでもお支払いします。…貴方は、フローラ様とのツーショット撮影で『次のライブで着てほしい衣装の要望』を伝えるより、私が実際に最高の衣装を贈る方が、推しへの愛として純粋ではないか?」
カノーの提案は、義輝の推し活哲学を揺さぶった。「推しとの対話」か「推しへの物質的な貢献」か。どちらが真の愛なのか。
<非公式ボディーガードという、新たな推し活>
しかし、義輝の頭には、カノーが放った、もう一つの言葉が蘇っていた。「次の特典会は、来月だ!その間、フローラ様は無防備だぞ!」
義輝は、証明書を強く握りしめた。
「カノー。その証明書は売れない」
「なぜだ!?ツーショット写真など、自己満足の極みではないか!」カノーが悔しそうに叫ぶ。
「違う。この証明書は、報酬ではない。『次の一ヶ月間の、ロイヤル・アクア専属非公式ボディーガード』の座を勝ち取るための、挑戦権なのだ!」
義輝は、特典会での襲撃を通して、フローラの安全が脅かされていることを痛感していた。
「フローラ様は、魔王軍にとって『勇者パーティの士気を削ぐための最高のターゲット』であることが、ブラック・ゴーレムの出現で証明された。魔王討伐を一時中断し、フローラ様を守ることこそ、今、世界最強の剣聖である私の、最も重要な使命だ!」
義輝は、その使命を果たすために、王都のプロデューサーに直接交渉することを決意した。
「レオン、シズク。私は一時、勇者パーティを離脱する。次の魔王城への進軍は、私抜きで頼む」
「馬鹿なことを言うな義輝!世界の命運を賭けた戦いだぞ!」レオンは怒り心頭だ。
「世界の命運よりも、フローラ様の命運の方が重い」義輝は、一歩も譲らなかった。
<ボディーガードの座を巡る、オタク対決>
義輝は、ロイヤル・アクアのプロデューサーがいる「王都アイドル事務所」へと向かった。
事務所の前に着くと、すでにカノーが先回りしていた。彼は、プロデューサーに高級な貢ぎ物を渡し、フローラの警備強化を申し込んでいるところだった。
「プロデューサー様!私、カノーが、王室直属の騎士団よりも優れた私設警備を編成します!費用は全て私持ちで!」カノーは熱弁する。
義輝は、カノーの物質的な愛を否定するように、声を上げた。
「待ってください!プロデューサー殿!フローラ様の護衛は、金銭で買うものではない!必要なのは、推しへの献身と、絶対的な戦闘力だ!私が、剣聖・佐々木義輝が、無償でフローラ様の『非公式ボディーガード』を務めさせていただきます!」
プロデューサーは、最強の剣聖と王都の貴族という二人の熱狂的なファンに困惑していたが、剣聖の申し出を断るわけにはいかない。
「うーん…では、公平に決めましょう。お二人ともフローラさんのことを真剣に考えてくれているのはわかります。そこで…」
プロデューサーは閃いたように手を叩いた。
「ロイヤル・アクアのメンバーに、一番長く安全に付き添うことができる『非公式ボディーガード』の座を巡って、『王都地下迷宮・推し活ダービー』を開催します!」
カノーが顔色を変えた。「地下迷宮のダービーだと!?戦闘ではないのか!」
「ええ。剣聖殿の武力は認めますが、カノー様の情報戦略も素晴らしい。ダービーのルールは、『地下迷宮でロイヤル・アクアのメンバー(他の二人のメンバー)が求める魔物素材を、誰が最も早く、かつ無傷で持ち帰れるか』。これは、戦闘力だけでなく、情報力と持久力、そして推しへの理解度が試される、真の推し活の戦いです!」
義輝とカノーは、互いに険しい目を向け合った。シークレットツーショットの権利を捨て、新たな使命を得るための、剣聖と貴族の、推し活ダービーが今、始まろうとしていた。
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第5話 完




