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剣聖・佐々木義輝は魔王討伐より推し活が大事  作者: 北大路京介


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第4話:絶対領域(トークブース)の戦闘と、握手券の行方

<ブース内、激闘の残り15秒>


残り15秒。


トークブースの中は、凄惨な戦場と化していた。


義輝の神剣は、ブラック・ゴーレムの黒曜石の装甲に激しく弾かれた。「トーク時間中に私的な戦闘を起こすなど、特典会マナーの極致を欠く行為だ!」と叫ぶ義輝だが、戦闘をやめる気は毛頭ない。なぜなら、この戦闘こそが、フローラとの「対話の権利」を守る最終手段だからだ。


「フローラ様!目をお閉じください!粉塵が舞います!」


義輝はフローラを庇いつつ、ゴーレムの巨大な拳を受け止めた。鎧全体から発生する衝撃波が、ブースの仕切りを破壊し、会場全体に響き渡る。


ブースの隅で、フローラは恐怖で小さくなっていたが、義輝の背中を見て、わずかに震えが収まった。


「対象の確保を優先する!」ゴーレムは、義輝を無視し、フローラに手を伸ばそうとする。


「させん!」


義輝は叫び、神剣を左手に持ち替えた。そして、右手でブースの仕切り板を掴み、その破片を魔力で鋭利な剣に変えて投げつけた。これは、敵の注意を逸らすための、推し活戦術だ。


(残り10秒!長期戦は許されない!フローラ様に与える精神的ダメージと、トーク時間のロスを最小限に抑える!)


義輝は、推し活オタクとしての思考を極限まで加速させた。彼の脳内には、ゴーレムの防御力、フローラの心理状態、そしてトーク券の残りの秒数が、複雑な数式のように展開されていた。


<推し活のための無欠の剣技>


残り5秒。


義輝は、神剣を地面に突き立て、自らを軸とした円形の結界を瞬時に展開した。これは、ゴーレムの攻撃を防ぐためではなく、フローラが浴びる粉塵や破片を完全にシャットアウトするための、防御魔法だった。


「これでよし。フローラ様の喉と肌は完璧に守られた!」


防御にリソースを割いた瞬間、ゴーレムの拳が義輝の胸部を直撃。義輝は呻きを上げ、数メートル後退したが、結界は保たれた。


「無駄だ!貴様の防御は脆弱!」ゴーレムが吼える。


「馬鹿め!貴様は、私が防御に徹したと勘違いしている!」


残り3秒。


義輝が狙っていたのは、防御の瞬間ではなかった。ゴーレムが拳を振り抜く、その一瞬の体勢の歪みだ。義輝は、胸部の激痛を無視し、全身の魔力を神剣に集中させた。


「推しへの愛よ、今こそ剣となれ!推し活最終奥義!」


義輝の神剣は、一瞬にして数十の残像を伴い、ゴーレムの装甲のわずかな隙間、首と胴体を繋ぐ結合部を精密に貫いた。それは、ゴーレムに最も気づかれない、戦闘の「」を突く、完璧な一撃だった。


ゴーレムの装甲が内部からひび割れ、まもなく爆発的な音と共に、無数の黒曜石の破片となって飛び散った。


義輝は、神剣を鞘に納めた。戦闘は、たったの12秒で終結した。


<勝利と、トーク終了の絶対法則>


残り3秒。


静寂が訪れたブースの中で、義輝は深呼吸し、背後のフローラに振り返った。


「フローラ様。お怪我はございませんか?」


フローラは目を大きく見開き、義輝を見つめていた。その瞳には、恐怖ではなく、尊敬と驚嘆の色が宿っていた。


「さ、佐々木さん…すごい…。ありがとう、ございます…」


「当然でございます。貴方の3分間を守り抜くことこそ、私の剣聖としての使命。さて、残り3秒。一秒たりとも無駄にはできません」


義輝は咳払いし、トークテーブルに戻った。


「フローラ様。先ほど、新曲のテーマが『衣装が可愛いから』と仰いましたが、その『可愛い衣装』を生み出したデザイナー様の推しポイントを教えていただけませんか?今後のグッズ戦略に活かしたいのです!」


フローラは微笑んだ。「ええと、デザイナーさんは…」


「ピッ。佐々木様、お時間です」


無情にも、ブースに設置された魔導時計が、トーク終了の冷たい音を告げた。義輝の質問は、最後まで聞き届けられなかった。


義輝は顔面蒼白になった。魔王軍の幹部を倒し、命を懸けて守り抜いた3分間は、絶対的な「時間厳守」の法則によって、容赦なく幕を閉じた。


<特典会後の狂騒曲>


義輝がブースから出ると、会場の外で見ていたカノーが、興奮と悔しさの入り混じった表情で駆け寄ってきた。


「義輝!まさかあのブラック・ゴーレムを…!あの討伐証明書は、シークレットイベントと交換できる!卑怯だぞ、トーク時間中に幹部を呼び寄せるなんて!」


「貴様、何を言っている。あれは私の推し活の正当性を証明するために、魔王軍が勝手にやってきたのだ」


義輝は、ゴーレムの残骸から光る「魔王軍幹部級証明書」を拾い上げた。


「くっ…だが、義輝!次の特典会は、来月だ!その間、フローラ様は無防備だぞ!」


義輝は証明書を握りしめた。これは、彼が最も欲する「シークレットツーショット撮影会」のチケット。だが、次の特典会までフローラが無防備というカノーの言葉が、義輝の胸を刺した。


(私には、フローラ様とのツーショット写真よりも、フローラ様の安全を守るという使命があるのではないか?…いや、その安全を守るという行為自体が、最高の推し活なのではないか?)


義輝の推し活論理は、再び混迷を極める。彼が手にしたのは、最高の報酬か、それとも新たな使命か。


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第4話 完

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