第18話:海辺の誘惑と、絶望の「推し卒業」宣告
<海辺の試練と、義輝の自己規制>
勇者パーティとの約束である一ヶ月の期限が、いよいよ終盤に近づいていた。義輝は、ロイヤル・アクアの新しいプロモーションビデオの撮影のため、海辺のリゾートに同行していた。
義輝にとって、この海辺での撮影は、魔王との最終決戦よりも過酷な試練だった。なぜなら、ロイヤル・アクアの三人が、水着姿で撮影に臨むからだ。
義輝は、鎧を身にまとったまま、サングラスをかけ、顔に厳重な日よけの布を巻き付けていた。
「義輝さん。そんな格好では、熱中症になってしまいますよ!」フローラが笑いながら近づいてくる。
義輝は、可能な限り視線をそらし、海の方を向いていた。
「フローラさん!これは、太陽光から目を守るためではありません!推しへの過剰な視線という名の罪から、私の理性を守るための、究極の自己規制です!私は、ボディーガードとして、常に冷静でなければなりません!」
彼は、全身の魔力をフル稼働させ、理性の境界線を厳重に保っていた。もし少しでも邪な気持ちが生じれば、その瞬間に剣聖の誇りは崩壊する。
カノーも、撮影のために最高級のクルーザーとスタッフを用意していた。カノーは、義輝の異常な姿を見て、嘲笑する。
「ふははは!義輝!最高の推し活の現場で、貴様は一体何をしている!水着の推しを直視できずに、ボディーガードが務まるか!」
「カノー!貴様の推しへの視線は、ただの欲望だ!私の推し活は、推しの美しさを『空気の振動』で捉え、その輝きを永遠に心に刻む、精神的な修行なのだ!」
<水中に潜む、魔王軍最後の刺客>
その時、義輝の「推し活レーダー」が、海面下の異常な魔力を察知した。それは、これまで遭遇したどの魔物よりも、冷たく、巨大な魔力だった。
「フローラさん!危険です!水中に、巨大な魔物の反応あり!」
義輝が叫ぶと同時に、穏やかだった海面が激しく波打ち、巨大な水龍型の魔物、『水竜王イドラ』が姿を現した。
「まさか、魔王軍の幹部か!?」カノーが青ざめる。
イドラは、咆哮と共に巨大な津波を発生させ、撮影クルーザーめざけて襲いかかった。
「義輝!魔王城への約束は!?神剣なしで、どうするつもりだ!」
「約束など、推しの危機を前にして、どうでもいい!」
義輝は、普通の剣を抜き、津波を垂直に駆け上がった。イドラは、義輝の動きを嘲笑った。
「馬鹿な人間め!水の力の前では、貴様の剣など無力だ!私は、魔王様が最後に残した、水の元素を支配する刺客だ!」
イドラの津波攻撃は、物理的な力だけでなく、精神を凍結させる呪いの魔力を含んでいた。義輝は、津波に飲み込まれ、剣が氷漬けにされそうになる。
<最後の試練と「推し卒業」の宣告>
義輝は、全身を震わせながら、津波の中を必死に進む。その時、義輝の意識の中に、イドラからのテレパシーが直接流れ込んできた。
「剣聖・佐々木義輝よ。貴様は、魔王討伐を放棄し、アイドルの護衛という無意味な行為に終始した。魔王様は、貴様を、『勇者パーティからの推し卒業者』と見なしている」
「な…に…?」
「貴様は、勇者パーティを捨てた。そして、貴様が守るこのアイドルもまた、『アイドルからの卒業』という悲劇を背負うことになる」
イドラは、フローラたちに向かって、強力な水流を放った。それは、水着姿の三人の動きを完全に封じる呪いの水流だった。
「フローラさん!」
義輝が絶望したその時、イドラは、最後に最も残酷な真実を義輝に突きつけた。
「魔王討伐の期限は、残りあとわずか。しかし、それよりも前に、フローラは、アイドルを卒業し、政略結婚のため王都を離れることが決定している。貴様の推し活は、まもなく、終わりを迎えるのだ」
義輝の脳裏に、フローラの卒業という衝撃的な情報が、呪いの魔力と共に焼き付けられた。彼は、推しを守るために全てを賭けたのに、その推し活そのものに、避けがたい「終わり」が迫っていたのだ。
「まさか…フローラさんが…卒業…」
義輝は、ショックで津波の中へと沈み込んでいく。神剣を持たない義輝は、魔王軍最後の刺客と、推し活の終わりという二重の絶望に、打ちひしがれた。
第18話 完




